近年、インターネットを通じたショッピングが急速に普及しました。さらに新型コロナウイルス感染症拡大の影響で通販需要が急増し、多くのEC(電子商取引)サイトが存在しています。
ECサイトを運営している企業は、顧客から選ばれるために、正確かつ迅速な対応が求められています。そこで有用なのが、WESです。
本記事では、WESについて詳しく解説します。また、WESのメリット・デメリットや導入時のポイントも紹介するので、導入を検討中の方はぜひ参考にしてください。
WES(倉庫運用管理システム)とは?
WESとは「Warehouse Execution System」の略で、倉庫運用管理システムを指します。倉庫内の商品だけではなく、人材や機器を制御し、物流を最適化するシステムです。
たとえば、在庫商品の動きにあわせて棚卸しや配送を行うなど、さまざまな作業を自動化します。
従来、人が判断して担っていた業務を、AIがデータを分析し、最適な操作を行うため、管理業務の負担を軽減できます。
■WMSやWCSとの違い
物流業界では、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)とWCS(Warehouse Control System:倉庫制御システム)という2つのシステムが使われています。
WMSは商品を一括管理するシステムで、倉庫内の入出庫管理や在庫管理を行うのが特徴です。WCSは、倉庫内のマテリアルハンドリング機器やIoT機器といった、倉庫全体のコントロールを行います。
どちらも効率的に商品を管理・販売するために有効なシステムです。
WESは、WMSとWCSの機能を兼ね備えた中間的なシステムで、商品から倉庫までの管理システムを総合的に行いたいときに適しています。
WESの種類
WESには、クラウド型とオンプレミス型の2種類があり、システムをコントロールするサーバーの場所に違いがあります。それぞれを詳しく解説します。
■クラウド型WES
クラウド型WESは、オンライン上のサーバーでシステムを管理し、インターネットを介して物流倉庫をコントロールします。
サーバー管理をシステム管理会社に任せるため、自社でサーバーやインフラの導入、管理は必要がないというのが特徴です。
自社での管理負担がないため、人材リソースが限られる小規模事業者に向いています。
■オンプレミス型WES
オンプレミス型WESは、自社にサーバー・インフラを設置し、システムを構築して物流倉庫を管理します。自社の運用スタイルや方向性にあわせ、独自のシステムを構築できる自由度が強みです。
ただし、システムを構築するためには専門知識や時間が必要であり、サーバーの運用と保守にもコストがかかることに留意する必要があります。
次にWESの主な機能をご紹介します。
システムを導入するうえで機能を理解していないと、エラーにもつながりかねません。事前にしっかりと把握しておきましょう。
■管理機能
WESには、在庫の移動や使用する機器の状態、従業員の作業進捗などをデータ化して追跡・管理する「管理機能」が備わっています。
梱包から入出庫、倉庫内の在庫数管理、設備・人の稼働状況などあらゆる情報をデータとして可視化できるのが特徴です。
データとして可視化することで、手動では難しい綿密な管理と戦略立案が容易になります。
■制御機能
WESには、管理情報をもとに、設備や従業員に指示を出す「制御機能」も組み込まれています。リアルタイムで更新される情報をもとに、ウェアラブル端末やハンディ端末を介し、倉庫内の物流システムを制御可能です。
データをもとにシステムが設備と人員を自動的、かつ即座に調整するため、円滑な倉庫管理を実現できます。さらに、遠隔地からでも端末を通じてシステムを制御することが可能です。
WES導入のメリット
倉庫管理を自動化するWESの導入には、人員やコストのリソースが必要になります。しかし、WESを導入することで得られる効果は、非常に大きいものです。具体的なメリットを見ていきましょう。
■商品の管理精度をアップできる
WESを導入すると、倉庫内の管理がシステム化され、商品の管理精度が向上します。従来、在庫状況や人員を手動で確認し指示を出していたのに対し、WESによりリアルタイムで可視化され、迅速に指示を行えるようになるでしょう。
また、バーコード管理などで在庫の把握が容易になり、管理業務も効率的に行えます。さらに、適切なタイミングでの棚卸し作業も可能となり、誤出荷や誤発注などのリスクも低減できるのがメリットです。
■ペーパーレス化でコスト削減ができる
WESを導入すると、物流倉庫内の管理がすべて端末でできるようになります。管理帳票などの紙が不要になるため、ペーパーレス化によって用紙代や印刷代のコスト削減が実現可能です。
導入に初期費用がかかりますが、一度導入すると長期的な運用コストが削減され、経費の節約に貢献します。
■倉庫内業務を標準化できる
個々の人員のスキル差が業務に影響を与えにくくなるのもメリットの一つです。
WESを導入することで、倉庫内の作業が特定のスキルに依存してしまうのを防ぐことができるからです。
倉庫をシステム化することにより、俗人的ではない作業方法が確立され、すべての従業員が同じやり方で業務を進められるでしょう。
■業務改善に取り組みやすくなる
WESは在庫状況、機器の稼働状況、従業員の進捗などを自動的にデータ化します。これにより、倉庫内のあらゆる情報を可視化し、正確なデータに基づいて業務改善に取り組むことが容易になります。
実際の数字を確認しながら運用・改善ができるため、効果や利益率の変化を明確に把握できるのも魅力です。
■機器導入の際のコストを抑えられる
WESには、機器導入のコストを抑えられるというメリットもあります。
WESは既存の倉庫運用の形態に合わせてシステムを連携・再構築します。大規模機器の導入や施設改修が必須ではないため、大きなコストがかかりにくいのもメリットです。
WES導入のデメリット
多くの事柄で良し悪しがあるように、WES導入にもデメリットの側面があります。次は具体的なデメリットも把握し、自社にとって負担となるか検討してみましょう。
■導入費用が発生する
WESは既存のシステムと連携できる一方で、倉庫内を管理するためのタブレット端末などが必要です。特にオンプレミス型のWESは独自のシステムを構築できますが、自社内でサーバーやインフラを構築する必要があり、導入費用が高額になる可能性が高いと考えられます。
もし予算に余裕がなく、自社内の構築が難しい場合は、クラウド型のWESを検討することで導入費用を抑えられるかもしれません。
■従業員教育が必要になる
新たな運用システムを導入する際は、倉庫で働く従業員への教育が必要です。
WESのシステム説明から、実際の操作や作業フローに関するトレーニングまでさまざまな研修を行わなければなりません。人員や時間に制約のある企業にとっては、負担となる可能性があります。
■使いこなすまでに時間がかかる場合がある
WESは倉庫内の運用を効率化するシステムですが、導入後すぐに従業員が慣れるとは限りません。
既存の業務フローが変わることや端末の使用に適応する必要があるため、WESの全機能を完全に活用するまでには時間を要する可能性があります。
また、適切なサポートが行われない場合、従業員の負担が増え、WESの受け入れが難しくなる可能性もあります。
WES導入のポイント
WESを活用するには、ポイントを抑えておくことが重要です。WES導入前に次の5つのポイントを理解し、スムーズな倉庫運用へつなげましょう。
■WMSやWCSとの違いを理解する
自社に適した製品を選ぶため、WMSやWCSとの違いを正確に理解しましょう。それぞれの特性を理解していないと、システムの構築だけでなく、適切な活用も難しくなります。
- WMS:在庫の入出庫と作業の「管理」
- WCS:作業・設備の「制御」
- WES:作業と設備の「管理」
■導入目的を明確にする
適切なシステムを導入するために、導入目的も明確にしておきましょう。目的が明確でないと、必要な機能やシステムの選択が難しくなります。
「なぜ導入したいのか」「どのような効果を期待するのか」など、倉庫内運用システムを導入する目的や求める効果を整理することが大切です。
適切なシステムを選択し、ニーズを満たせれば、自社倉庫を理想的に改善できるでしょう。
■業界や業種にあったWESを選ぶ
業界・業種によって適切なWESは異なります。
たとえば食品業界とアパレル業界では、商品の扱い方や環境条件が大きく異なります。そのため、自社が取り扱う商品に合ったWESを選ぶことが非常に重要です。
同じ業界や業種でWESを導入した事例を調査し、導入後の効果を詳しく検討するのもよいでしょう。
■データを共有する範囲を確認する
多くの倉庫を持つ事業者は、事前にデータ共有の範囲を確認することが大切です。
複数の倉庫を運用している場合は、共有できる範囲が広いほうが管理しやすくなります。複数の倉庫を統一的に管理でき、物流倉庫の効率的な運用が可能になります。
■サポートやセキュリティ体制を確認する
WESを選ぶ際は販売会社のサポートとセキュリティ体制も確認しましょう。
たとえばシステム上のエラーが起きたときに、販売会社の担当者が迅速に対応してくれるのか、24時間電話でのサポートを受けられるのかなどです。
また、システム内のデータのバックアップなどを確実に行ってくれる会社のWESを選ぶと、万が一のときも安心できます。
システム選びでは、信頼性のあるWESの会社を選ぶことが大切です。
WESで倉庫内運用をスムーズに管理しよう
WESは、物流倉庫を持つ事業者にとって、運用を助ける重要な管理システムです。
WESを導入することで、在庫管理や作業状況をリアルタイムで正確に追跡でき、業務の効率化が図れます。従業員や機器、商品のオペレーションを一元管理できれば、業務の拡大にも寄与するでしょう。
WESを選ぶ際は、自社のニーズや業種に合ったシステムを選ぶことが重要です。WES・WMS・WCSのそれぞれの役割・違いを理解し、自社に適切なものを選びましょう。