少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、人手不足が深刻化しています。特に深刻なのは、荷物の運搬を担う物流業界です。
物流業界の多くの企業が人手不足に悩むなか、2024年問題が事態をより深刻化させる可能性があります。
事業の停滞や倒産を防ぐためには、2024年問題に向けた具体的な対策を検討しておくことが必要です。この記事では、2024年問題の概要や社会に及ぼす影響、具体的な解決策などを解説します。
2024年問題とは?
2024年問題とは、働き方改革関連法により、物流業界のドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限される問題を指します。
現在の社会は、商品の運搬においてドライバーの長時間労働に依存していると言っても過言ではありません。
たとえば、食品や日用品の供給が常に確保されているのは、物流業界のドライバーが商品を運んでいるおかげです。近年はオンラインショッピングの市場拡大により、物流業界への需要はさらに高まっています。
そんな中、ドライバーの時間外労働が制限されることで、社会全体に悪影響を及ぼす可能性があるとされています。
物流業界に影響を与えるとされる働き方改革関連法
政府は働き方改革を推進し、個々の事情や希望に合わせて、多様な働き方を選択できる社会を目指しています。
しかし、働き方改革は働く人がワーク・ライフ・バランスを充実できる一方で、物流業界には様々な影響を及ぼす可能性が指摘されています。
働き方改革関連法の改正での、主な変更点は次のとおりです。
■時間外労働の上限規制
労働基準法の改正により、多くの業種で時間外労働が制限されていますが、ドライバーには業務の特殊性から5年間の猶予期間が与えられています。
2024年4月からは、年間360時間以内、月45時間という時間外労働の上限が設けられます。また、特別条項付き36協定を締結する場合でも、年間で960時間、月平均80時間という規制があります。
時間外労働の上限を超えてドライバーを働かせた場合、事業者には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
※参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
■残業割増賃金率の引上げ
2023年3月末までは、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金率は25%でした。しかし2023年4月からは、労働基準法の改正により、この割増賃金率が50%に引き上げられました。
割増賃金の引き上げは、2010年の法改正によってすでに導入されており、当初は大企業にのみ適用されるものでした。中小企業には猶予期間が与えられていましたが、2018年の法改正でこの猶予期間は廃止され、2023年4月からこの変更が適用されることになったのです。
時間外労働が60時間を超えたにも関わらず、規定された割増賃金を支払わなかった事業者には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
■同一労働・同一賃金
パートタイム労働法と有期雇用労働法の改正により、大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から同一労働・同一賃金が導入されました。
同一労働・同一賃金は、同じ業務内容であれば、雇用形態に関わらず同じ賃金を支払うことを求める制度です。
この制度が導入されたのは、正規雇用労働者と非正規労働者の不合理な待遇差を解消するためです。
違反に対する罰則は設けられていませんが、企業には賃金だけでなく、教育や福利厚生なども含めて待遇差を解消することが求められています。
2024年問題が社会に及ぼすおそれがある影響
2024年問題は、物流業界だけが抱える課題ではありません。人々の生活と物流業界は切っても切れない関係にあるため、社会全体の課題として捉える必要があります。
■【運送会社側】売上や利益が減少する
2024年問題が解決されない場合、運送会社は事業継続の危機に直面する可能性があります。
物流業界は、人の労働力が主要な要素となる労働集約型の業界であり、ドライバーに依存せざるを得ません。
2024年問題によってドライバーの時間外労働時間が制限されると、労働時間が短くなるため、企業の売上や利益の減少が懸念されます。
■【ドライバー側】収入が減少する
これまで時間外労働時間に上限はなかったため、ドライバーは時間外勤務によって収入を増やすことができました。
しかし、2024年4月から時間外労働時間に上限が設けられることで、ドライバーの時間外手当は減少し、生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、収入を増やすために転職を考えるドライバーが現れる可能性も考えられるでしょう。
■【荷主側】運送コストが上昇する
2024年問題は、運送コストの上昇などで荷主にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
時間外労働時間に上限が設けられることで、運送会社の売上や利益だけでなく、ドライバーの収入減少が予想されます。安定した事業継続やドライバーの収入確保を目指すため、運送会社が配送料の値上げを実施する可能性も否めません。
配送料の値上げによって荷主や消費者の運送コストが上昇し、物価高に拍車がかかるおそれもあります。
■【消費者側】利便性が低下する
ドライバーの時間外労働に上限が設けられると、消費者の利便性が低下する可能性があります。
近年は、インターネットを通じた取引が増えており、商品の受け取り時に配達日や時間を指定できるケースが増えています。
しかしながら、2024年問題の影響でドライバー不足が起こると、これまで通りのサービスが提供されなくなる可能性があります。たとえば配達日や時間指定のサービス利用に一定のコストの支払いが求められるなど利便性が低下する恐れがあります。
2024年問題に向けて物流業界が解決すべき課題
ドライバーの時間外労働の時間に上限が設けられると、これまでよりも労働時間が短くなるため、運送会社は売上や利益の減少が懸念されます。
■低収入と長時間労働の常態化
物流業界が2024年問題に向けて解決すべき課題の一つは、低収入と長時間労働の常態化です。
厚生労働省によると、全産業の平均年間所得額(2021年時点)489万円に対し、大型トラック運転者は463万円、中小型トラック運転者は431万円と、ほかの業種や職種よりも賃金が低いことがわかります。
年 | 全産業平均 | 大型トラック運転者 | 中小型トラック運転者 |
---|---|---|---|
2014年 | 478万円 | 426万円 | 379万円 |
2015年 | 487万円 | 435万円 | 391万円 |
2016年 | 487万円 | 453万円 | 404万円 |
2017年 | 488万円 | 458万円 | 418万円 |
2018年 | 494万円 | 459万円 | 419万円 |
2019年 | 494万円 | 456万円 | 421万円 |
2020年 | 487万円 | 454万円 | 419万円 |
2021年 | 489万円 | 463万円 | 431万円 |
2014年からは徐々に上昇傾向にありますが、すべての年で全産業の平均を下回っているのが現状です。
2023年10月現在、物流業界ではまだ猶予期間が設けられており、時間外労働の上限はありません。それにもかかわらず、ドライバーは長時間労働を強いられている一方で低収入という状況にあり、物流業界全体で労働環境の見直しが必要だと言えます。
■深刻な人材不足とドライバーの高齢化
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、多くの業界が深刻な人手不足に陥っています。
なかでも物流業界は、人手不足が深刻です。
厚生労働省によると、トラック運転者の有効求人倍率は全職業の平均よりも高いことがわかっています。
年度 | 全職業平均 | トラック運転者 |
---|---|---|
2018年度 | 1.47% | 2.84% |
2019年度 | 1.42% | 2.82% |
2020年度 | 1.01% | 1.94% |
2021年度 | 1.06% | 1.97% |
2022年4月 | 1.06% | 2.01% |
2022年5月 | 1.06% | 1.97% |
2022年6月 | 1.09% | 2.01% |
2022年7月 | 1.15% | 2.08% |
2022年8月 | 1.18% | 2.08% |
2022年9月 | 1.20% | 2.12% |
有効求人倍率の高さは、人材不足を示しています。
また、道路貨物運送業における就業者の年齢を見ると、45~59歳の割合が全産業の平均よりも10%以上高い状況です。
有効求人倍率の高さは、人材不足を示しています。
また、道路貨物運送業における就業者の年齢を見ると、45~59歳の割合が全産業の平均よりも10%以上高い状況です。
年齢 | 全産業 | 道路貨物運送業 |
---|---|---|
65歳以上 | 13.7% | 9.5% |
60~64歳 | 7.9% | 8.0% |
55~59歳 | 11.6% | 9.6% |
50~54歳 | 11.6% | 16.1% |
45~49歳 | 12.6% | 17.6% |
40~44歳 | 10.5% | 11.6% |
35~39歳 | 9.3% | 8.5% |
30~34歳 | 8.2% | 5.5% |
25~29歳 | 8.2% | 5.0% |
20~24歳 | 6.8% | 4.0% |
15~19歳 | 1.5% | 1.0% |
全産業では29歳以下の割合が16.5%に対し、道路貨物輸送業は10.0%です。道路貨物輸送業では高齢者の就業者が多い一方、若年層の就業者は比較的少ない傾向があります。
■物流量の急増
物流業界は、2024年問題に備えて増加する物流量への対策が必要です。近年はネットショッピングの普及に伴い、物流業界への需要が急速に増加しています。
国土交通省の調査によると、2014年から2018年までの5年間で、トラックによる宅配便取扱個数が約7億個増加しました。
年 | 宅配便取扱個数の推移 |
---|---|
2014年 | 35億7,000万個 |
2015年 | 37億400万個 |
2016年 | 39億7,800万個 |
2017年 | 42億1,200万個 |
2018年 | 42億6,100万個 |
物流量が急速に増加している背景もあり、ドライバーの長時間労働が横行しているという問題があります。便利な社会を享受する一方で、ドライバーの負担は増加するばかりです。
2024年問題に対して物流業界が行うべき具体的な解決策
2024年問題が迫るなか、売上や利益の低下、ドライバーの収入減少などのさまざまな課題を解決するためには、すぐにでも対策を検討して実行する必要があります。
■ドライバーの労働環境を整備する
時間外労働の制限が設けられたあとも、ドライバーの働きやすさを確保するためには、労働環境の改善が必要です。
2024年4月以降、時間外労働が削減されると、ドライバーの収入が減少するリスクが高まります。この収入の減少は、ドライバーの生活に大きな影響を与えるため、より高い収入を求めてほかの職種に転職する可能性があるでしょう。
対策としては、フレックスタイム制の導入や給与体系、福利厚生の見直しなどが考えられます。ドライバーの労働環境を整備して働きやすい環境を作ることができれば、新たな人材の確保につながるほか、離職を防止して定着率の向上を期待できます。
■新たな人材の確保と定着率の向上を目指す
2024年4月以降、収入減少による離職者の増加が懸念され、人手不足がより深刻化する可能性があります。この課題に対処するには、新たな人材の確保と定着率の向上が重要です。
企業は、魅力的な働き方を提供し、労働環境を改善しなければなりません。具体的には賃金の改善や福利厚生の充実が求められます。
また、従業員の意見や不満を取り入れて、希望する制度を導入したり、環境を整えたりして満足度を高めることも、定着率を向上させる手段となるでしょう。
■IT技術を活用して業務効率化を図る
人手不足を解消するためには、ドライバーの業務負担を軽減することが重要です。IT技術を活用して、業務効率化を進めましょう。
運搬送ロボットの導入
ドライバーの荷待ち時間の削減は、労働時間の短縮につながります。
当社のKeenbotT5アイリスエディションは、作業器具や軽荷物を自動化できる搬送ロボットです。トレイを4段搭載しており、一度に4カ所まで搬送できます。
また、ルート上にある人や障害物をスムーズに回避できるため、安全に運用することが可能です。
活用して荷待ち時間を削減できれば、業務効率化につながります。
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アルコールチェックの自動化・一元管理化
2023年12月からは従来の事業者に加え、安全運転管理者を置く白ナンバー車の保有事業所にも、アルコールチェッカーによるアルコールチェックが義務づけられます。このため、安全運転管理者の業務が増え、負担が増加します。
安全運転管理者の業務負担を軽減するには、アルコールチェッククラウド管理サービスALPiT(アルピット)を導入するのも一つの手段です。
アルコールチェックの結果がクラウドに自動で保存されるため、管理業務の手間がなくなり、空いた時間を別の業務に充てることができます。
安全運転管理者の業務負担を軽減したいと考えている場合は、ぜひ導入をご検討ください。
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早めに解決策を講じて2024年問題に備えよう
2024年問題では、時間外労働の上限が年間960時間に制限されることで様々な影響が予測されます。特に、物流業界においては、ドライバーの労働時間が制限されることにより、業務遂行そのものに影響を及ぼす可能性が懸念されています。
物流業者が2024年問題に対応するためには、労働環境の改善や効率化が重要です。具体的には、ドライバーの労働環境整備やIT技術の活用による業務効率化、さらには安全運転管理者の負担軽減のためのクラウドサービス導入などがあげられます。
なるべく早く対策を講じて、労働時間の制限下でも効率的に業務を行える環境を整えましょう。