多くの分野で次々と注目の製品を開発しているアイリスオーヤマ株式会社。近年力を入れているのがロボティクス事業だ。2024年発売予定の法人向けDX清掃ロボット「BROIT(ブロイト)」は、清掃業界の課題解決に取り組んだ新製品。人手不足や働き手の高齢化・多様化という課題に対して、顧客ニーズに応える仕様を搭載。高い洗浄力を持ちながら操作は簡単で、ユーザーに寄り添う仕様がこだわりだ。
「BROIT」は、アイリスオーヤマとして初めて自社工場で製造する清掃ロボットだ。自社工場での製造によりタイムリーな仕様改修や品質改善、コスト調整のほか、メンテナンスなどのアフター・サービス体制の一元化が実現する。発表会で代表取締役社長やロボティクス事業部長、開発責任者が語った「BROIT」の機能やスペック、グローバルロボットメーカーとしての展望などを紹介する。
顧客ニーズに寄り添った法人向けDX清掃ロボット「BROIT」
「BROIT」は、法人向けの水拭き清掃ができる自律走行型ロボットだ。水拭き清掃と除塵清掃の両方が可能で、スーパーマーケットやホームセンター、飲食店などの商業施設や介護・医療施設など様々な施設で活用することを想定。※1
「BROIT」は、使用者のユーザビリティに着目した仕様で、給排水タンクを着脱式にすることで給排水場への移動作業を省略できる。さらに、着脱交換ができるリチウムイオンバッテリーを搭載したことで、充電中に清掃が中断するデッドタイムを大幅に低減でき、フレキシブルな清掃計画が立てられる。※2
アイリスオーヤマが「BROIT」開発で重視したのは次の三点。
1.誰でも簡単に扱えるユーザビリティ
「BROIT」は、ティーチング&プレイバック方式を採用。清掃のルート作成とルート走行を行う場合、3ステップで作業が完結。高齢化や多様化を見据え、作業者が誰でも使いやすいように「操作性」を重視した。
2.日本の清掃現場に合う製品仕様およびスペック
脱着式のリチウムイオンバッテリーを採用したことで、充電中のデッドタイムを低減。バッテリーを入れ替えれば連続稼働が可能だ。※2
また、給排水タンクを脱着式にしたことで、ロボット本体を給排水場所に移動する手間と時間を省略できる。
「BROIT」に搭載されたリチウムイオンバッテリー。バッテリーを入れ替えながら連続作業が可能で、業務の効率化をサポート(バッテリーは一本目は標準装備、二本目以降はオプション)
3. 日々のお手入れがしやすい仕様
清掃ロボットは定例作業として、ロボット自体を清潔に保つお手入れが必要で作業者に負担がかかる。毎日のお手入れ作業を誰でも簡単に行えるように、ブラシやホッパー、スキージーなどのパーツにも脱着式を採用。パーツの丸洗いが可能で、清潔度の維持と作業の簡便化を両立させた。
ロボットの力で社会課題解決と経済成長を目指す
アイリスオーヤマでは経営理念に“ジャパンソリューション”を謳い、社会課題の解決が企業成長に繋がると考え、多くの製品を世に送り出している。地球温暖化やCO2排出といった環境課題には、ライティングソリューション事業やエアソリューション事業などの省エネソリューションで貢献している。
そしてロボティクス事業で目指すのは、労働人口減や人件費高騰・採用難などの社会課題解決。日本の総人口に対して労働人口が約5000万。同社の分析ではロボット代替産業の内、飲食業と清掃業が占めるのは約390万人※3。ロボット導入によって、人間がより付加価値の高い業務に当たることを可能にすることで社会課題を解決し、経済のさらなる発展に繋げていくことが狙いだ。
アイリスオーヤマがロボティクス事業に本格参入したのは2021年1月。これまでは配膳ロボットも含めた「アイリスエディションシリーズ」を市場に投入し、事業化を図ってきた。
2022年には中長期的な需要の創造と自社開発促進を踏まえ、ソフトバンクロボティクスグループ株式会社と資本提携を開始。2023年の7月に、ロボット開発を手掛ける東京大学発スタートアップ企業「スマイルロボティクス株式会社」の全株式を取得し、ロボットメーカー構想への基盤を構築。
アイリスオーヤマは2027年度に業務用清掃ロボット関連市場で年間売上1000億円達成という目標を設定。2023年10月現在で、サービスロボットを導入した企業数は累計で5000社※4を超え、手応えを感じているという(発表会より)。
徹底した顧客ニーズ調査で生まれた「BROIT」のこだわり
2027年度の目標達成に向けたロードマップ第1弾が、2024年販売予定の「BROIT」だ。開発までの3年間では顧客へのヒアリングを徹底。顧客が一番求めているのは、操作が簡単であることにたどり着いた。
清掃業界の労働者の多くは、シルバー人材や外国人労働者。作業者が誰でも使いやすいように「操作性」を重視。
しかしながらヒアリングではロボットによるDX化が進まないという課題も発見。BROIT導入によってどこまで清掃業務をDX化できるのかを深掘りし、顧客に対しても説明を行うなど、ロボットを開発・販売するだけにとどまらず、丁寧な顧客対応も含めて社会課題解決に取り組んでいる。
今後はサポート体制を強化し、ロボット無料貸出のお試しキャンペーンも継続予定 。アイリスオーヤマ社内に清掃業務経験者を続々投入し、サポートメニューを強化して普及率の最大化を目指す。
ロボット開発内製化で描くグローバル戦略
新製品「BROIT」は、アイリスオーヤマで初めて自社の大連工場(中国・遼寧省)での製造を実現した。
内製化によって、タイムリーな仕様改修や品質改善、コスト調整のほか、メンテナンスなどのアフター・サービス体制の一元化が実現する。
同社は清掃に対する顧客ニーズの多様化も予測。例えば設備とロボットの連携、ロボットによるデータ収集・活用、ロボットの複数制御化や遠隔操作などのニーズを想定しているという。
「BROIT」の自社工場製造を皮切りに、製造体制及びサプライチェーンの基盤を整備し、2025年には自社でサービスロボットの設計・開発から製造・販売までを一貫して行える「ロボットメーカーベンダー」としての自立を計画している。
同社の大山代表取締役社長は、今までロボットを導入していた施設はオフィスやホテルが中心だったが、これからは学校や工場、交通機関など利用分野を広げ、最終的には海外でも同様の仕組みを輸出する展望を語った。
ロボット市場のマーケットはさらなる拡大を遂げ、世界各国の企業がしのぎを削るだろう。今後、アイリスオーヤマはロボットの内製化を武器に、グローバルロボットメーカーとして世界に挑戦。労働人口減少などの課題解決に貢献する企業として、まずは国内から「BROIT」の普及を広げる段階へと踏み出した。
〈参考〉
アイリスオーヤマHP
※1:ヘッドブラシの回転でごみを掻き出して除塵します。予めごみを集積するホッパーを入れ替える必要がある。
※2:給水やごみ回収のメンテナンスを行う必要があります。バッテリーは1本が標準装備されています。2本目以降はオプション。
※3:アイリスオーヤマ調べ
※4:2020年1月~2023年10月までのサービスロボットの累計導入社数(アイリス電工株式会社での販売分、及びトライアルを含む)。