飲食・サービス業で人手不足が起きやすい原因と対策を紹介

2023.11.27
業務効率化

日本は少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、労働力不足が深刻化しています。すでに人手不足に陥っている企業も多いなか、特に深刻なのが飲食業です。企業が安定して事業を続けるには、人手不足を解消しなければなりません。

本記事では、飲食業が人手不足に陥りやすい原因や対策を中心に解説します。ぜひ参考にしてください。

【2023年9月最新版】飲食業で深刻化している人手不足の現状

まずは、飲食業の人手不足がどのくらい深刻化しているかを把握しておきましょう。

日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(短観)(2023年9月調査全容)」によると、宿泊業・飲食サービス業のD.I.(雇用人員「過剰」-「不足」)は-72%でした。

産業 割合
全産業 -33%
宿泊業・飲食サービス業 -72%
建設業 -54%
運輸業・郵便業 -48%
卸売業・小売業 -35%
情報通信業 -34%
不動産業・物品賃貸業 -28%
製造業 -20%

※出典元:日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)(2023年9月調査全容)

宿泊業・飲食サービス業は調査産業全体の2倍以上で、すでに深刻な人手不足に陥っている状態です。

飲食業の人手不足が深刻化している背景

現状、飲食業の人手不足は他業界に比べて群を抜いています。その背景には、感染症の拡大や定着率の低さなどが大きく関係しています。

■新型コロナウイルス感染症が拡大したため

飲食業の人手不足が深刻化した要因の一つは、新型コロナウイルス感染症の拡大です。

政府は飲食店に対し、営業時間の短縮や休業を要請しました。来客数の減少と売上の低下により、生き残りをかけて人件費削減に踏み切る店舗もあったようです。

その後、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行され、営業時間や酒類の提供などが解禁されました。これにより客足がだいぶ回復したものの、すでに他業界に転職した人も多く、一度流出した人材が戻りにくい状況が続いていると考えられます。

■人材の定着率が低いため

他業界に比べると、飲食業は人材の定着率が低い傾向があります。

厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、2019年3月に卒業した新規学卒就職者のうち、3年以内に離職した人の割合は高卒で35.9%、大卒で31.5%でした。

業種別では、宿泊業・飲食サービス業の離職者が最も多い結果となりました。

産業 高校 大学
全体 35.9% 31.5%
宿泊業・飲食サービス業 60.6% 49.7%
生活関連サービス業・娯楽業 57.2% 47.4%
教育・学習支援業 53.5% 45.5%
小売業 47.6% 38.6%
医療・福祉 45.2% 36.1%

※出典元:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」

上記の結果からもわかるように、飲食業は他の産業と比較して早期離職者が多く、定着率が低い状況にあります。

飲食業が人手不足に陥りやすい理由

他業界に比べて飲食業が人手不足に陥りやすい理由には、労働条件や教育体制、人事評価などに課題があるからと考えられています。

■労働条件が良くない

飲食業は、労働条件が改善されていないというイメージがあり、それが人手不足が起きやすい一因となっています。人材を確保し、定着率を高めるためには、魅力的な労働条件を提供することが重要です。

賃金が低い

飲食業の賃金は、他業界よりも低い傾向にあります。

厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、電気・ガス・熱供給・水道業の賃金が402万円で最も高い一方で、宿泊業・飲食サービス業は257万4,000円でした。

産業 賃金
電気・ガス・熱供給・水道業 4,020千円
学術研究・専門・技術サービス業 3,855千円
情報通信業 3,788千円
教育・学習支援業 3,777千円
金融業・保険業 3,740千円
鉱業・採石業・砂利採取業 3,474千円
不動産業・物品賃貸業 3,395千円
建設業 3,354千円
卸売業・小売業 3,146千円
製造業 3,015千円
複合サービス事業 2,988千円
医療・福祉 2,967千円
運輸業・郵便業 2,854千円
生活関連サービス業・娯楽業 2,716千円
サービス業(他に分類されないもの) 2,684千円
宿泊業・飲食サービス業 2,574千円

※出典元:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」

宿泊業・飲食サービス業のうち、男女別の賃金は男性が2,914千円、女性が2,161千円です。

収入は生活の土台となるため、賃金の低い宿泊業・飲食サービス業は求職者に敬遠される原因の一つです。

休暇が取りづらい

多様化する価値観により、ワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えており、休暇の取得しやすい環境を求める声が高まっています。

飲食店は始業時間や終業時間が固定されず、主にシフト制を採用しています。一人が休むとほかの従業員が代わりにシフトに入らなければならず、休暇取得が難しいという特徴があります。

さらに、代わりの従業員が見つからない場合、一人の従業員の負担が増加しやすいのも課題です。

長時間労働になりやすい

飲食業の営業時間は店舗によって異なりますが、24時間営業をしているところもあります。人手不足に悩む店舗では、長時間労働を強いられることもあるようです。

また、客数は時間帯や状況によって異なるため、店舗が混雑している場合は、十分に休憩を取れないこともあるようです。混雑状況によっては、休憩時間でも現場に戻るよう促されるというケースもあります。

従業員一人当たりの業務量が多い

飲食店は、従業員一人当たりの業務量が多い傾向があります。

従業員が働く時間は、店舗の営業時間だけではありません。万全な状態で顧客を迎えるために、仕込みや片付けなどの業務をこなす必要があります。

また、飲食店はサービス業なので、顧客対応による精神的な負担も大きい側面があります。近年は必要以上のサービスを求められるケースも増えており、疲弊してしまう従業員も少なくないようです。

■学べる環境が整備されていない

飲食業界は既に人手不足に陥っており、人材を採用しても教育や研修に十分な時間を割くことが難しいと悩む現場もあります。

従業員のなかには将来的に自分の店を持つというキャリアプランを考えている人もいます。しかし、日々の業務に追われるなかで、従業員が学ぶ機会が限られていると感じると、離職を選択するケースも考えられます。

■適切な評価を受けにくい

従業員の定着率を高めるには、従業員が適切に評価されていると感じることが重要です。従業員には「どのような行動が評価されるのか、給与が向上するのか」という点を明確に伝える必要があります。しかし、個人経営の店や小規模な店舗などでは、評価制度が整備されていないことも少なくありません。

さらに、飲食店では、ピーク時には非常に忙しくなることや、責任者と従業員のシフトが一致しないケースがあるため、店舗の責任者が現場で働く従業員の働きぶりを直接じっくりと見る機会が限られています。

従業員が「適切に評価されていない」と感じると、モチベーションが低下し、離職につながる可能性があります。

飲食業の人手不足を解消するための対策

人手不足は、対策を講じることで解消できる可能性があります。飲食業の人手不足の解消に向けて取り組める対策をご紹介します。

■雇用条件を見直す

既存の雇用条件で応募がない場合は、内容を見直すのも手段の一つです。求職者にとって魅力的な条件を提供すれば、応募数が増えて人材の確保につながる可能性があります。

雇用条件を見直す際には、近隣の飲食店との差を埋めることがポイントです。

まずは周辺の飲食店の雇用条件を調査し、自店の条件が競合店と比較して不利な場合は、同水準に合わせるよう検討する必要があります。

■働きやすい環境を整備する

人手不足の原因は、従業員の離職による影響も関係しています。

飲食店は一般的にシフト制を採用しているため、休暇を取りにくいという課題があります。休暇が取りやすい環境を整備すれば、従業員の離職を防ぎ、定着率の向上を期待できるでしょう。

たとえば、グループ店舗と協力して、急な欠員が生じた場合にヘルプを呼べるシステムを構築するのも一つの方法です。

■採用の間口を広げる

飲食業の人手不足を解消するには、採用の間口を広げることも効果的です。採用の間口を広げれば、外国人やシニア層、隙間時間を使って少ない時間で働きたいという人からの応募も期待できます。

また、近年は定年退職後も働く場所を求めているシニア層が増えており、厚生労働省も雇用を促進しています。より多くの応募者を集めるために「未経験者可」として求人を募集することも有効です。

■評価制度の新設・見直しを行う

人材の流出を防ぐためには、従業員が適切に評価される環境を整備することも大切です。小規模な店舗でも評価制度を新設し、従業員を適切に評価することで、離職を防げる可能性があります。

また、すでに評価制度がある場合は、内容の見直しを検討しましょう。昇給や賞与などに明確な基準を設けておくと、従業員に納得感が生まれるため、評価に対する不満を解消しやすくなります。

評価の基準がわかれば、目標に向けてモチベーションが高まり、仕事に対して前向きに取り組む従業員も出てくるかもしれません。

■研修・教育制度の新設・見直しを行う

従業員の定着率を向上させるためには、教育体制の整備が必要です。従業員のなかには、過剰なサービスを要求する顧客の対応にストレスを抱える人がいるかもしれません。

研修・教育制度を充実させると顧客の満足度が高まり、クレームも減るため、離職率の低下につながる可能性があります。

■スポットワーカーを活用する

近年、人手不足が深刻な業界では、スポットワーカーの活用が増えています。スポットワーカーとは、継続した雇用関係はなく、自分の都合に合わせて短時間または短期間で働く人のことです。

急な人手不足に対応するために、即日採用の1日限定の求人も存在し、多くの企業が注目しています。必要なときにだけ人員を増やせるため、状況に合わせた人件費の管理がしやすいという利点もあります。

■業務の効率化を図る

新たな人材の採用が難しい場合は、業務効率化を図って人手不足に対応することも検討してみましょう。業務効率化とは、プロセスから「ムリ」「ムダ」「ムラ」を削減し、非効率な業務を改善することです。

店舗内で業務効率化を進めると、従業員一人当たりの業務負担が減り、離職を防ぐ効果が期待できます。たとえば、デジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入することが挙げられます。

なお、DX化の例については次の「飲食業の人手不足に役立つツール」で詳しく解説します。

飲食業の人手不足に役立つツール

多くの業界が人手不足を克服するために、DX化を進めています。飲食業向けのシステムも数多く登場しているので、人手不足を解消するために活用を検討してみましょう。

■予約管理システム

予約管理システムは、店舗に入る予約をデジタル上で管理できるツールです。

予約管理システムを導入すると、予約をデジタル上で一元管理できるため、聞き間違いや書き間違いといったヒューマンエラーを防ぎ、業務効率化が期待できます。

24時間365日体制で受け付けられるため、集客アップにもつながるでしょう。

■オーダーシステム

オーダーシステムは、来店した顧客がオンラインで注文を行うシステムです。従来は従業員が直接対応するのが一般的でしたが、これでは従業員がオーダーを聞きに行く手間がかかります。

一方、オーダーシステムでは顧客がテーブルで端末を操作してオーダーを行うため、従業員の業務負担が軽減されます。さらに、注文ミスを防ぐことができ、顧客からのクレームも減少するでしょう。

■キャッシュレス決済

キャッシュレス決済は、現金以外の支払い方法に対応した会計システムです。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、人との接触を軽減するために急速に普及しました。

店舗でキャッシュレス決済を導入すれば、レジではなく顧客のテーブルで会計ができるため、レジ担当の従業員を配置する必要がなくなり、人手不足の解消につながります。

■配膳ロボット

近年、人手不足解消にサービスロボットの導入が進みつつありますが、飲食業におけるのサービスロボットといえばロボットの導入があげられます。配膳業務は人手による対応が必要であると考えている飲食店様も多いかと思いますが、配膳ロボットが席の近くまで間接配膳を行い、直接配膳は人手による対応を行うことで業務効率改善とサービス向上を行っているケースもあります。また、店舗の回転率をあげるために下げ膳に特化して配膳ロボットを使っているケースもあります。いずれにせよ、配膳下げ膳業務は頻度も多く従業員の負担も大きい業務ですので、配膳ロボット導入により人手不足解消やはたき方改革を実現できます。当社で取り扱っている配膳ロボットをご紹介します。

Keenbot T5 アイリスエディション

Keenbot T5 アイリスエディションは、1台で最大4段のトレイを設置可能です。1段当たり10kgまでの積載に対応しているため、一度で多くの配膳が行えます。ロボットは、すべてタッチディスプレイで操作します。

目的地を選択するとロボットが出発し、受け取り完了がタップされると、自動でホームに戻る仕組みです。Keenbot T5 アイリスエディションを導入したホテルのレストランでは、導入後に月60時間の削減効果が出ています。

<Keenbot T5 アイリスエディションの詳細はこちら>
【法人様向け】大容量配膳・運搬ロボットKeenbot T5 | 製品情報 | ロボティクス事業部 | アイリスオーヤマ
飲食店やホテル・旅館、小売店などで大容量の運搬をご希望される方におすすめの配膳ロボット。ロボットと人の協働で、業務を効率化し従業員の接客サービス時間を創出します。

Servi アイリスエディション

Keenbot T5 アイリスエディションと同様に、配膳だけでなく、下膳もサポートするロボットです。スタイリッシュで小回りが利くのが特徴です。配膳や下膳をロボットに任せることで、従業員はより長くホールに滞在できます。これにより、追加オーダーや席案内など、「ヒト」にしかできない業務に集中できる環境を構築できるでしょう。実際、導入後に従業員のホール滞在時間が2倍になった飲食店もあります。

また、ロボットには、3DカメラやLiDARなどの高性能センサーを搭載しており、最短60cmの狭い通路でもスムーズかつ安全に通り抜けることが可能です。前方に死角はなく、人はもちろんのこと、靴やカバンなどの小さな障害物でも滑らかに避け、積載したものを安定的に運べるので安心です。

<Servi アイリスエディションの詳細はこちら>
配膳ロボットServi IRIS EDITION (サービィ)| 製品情報 | ロボティクス事業 | アイリスオーヤマ
Servi(サービィ)アイリスエディションは、人と口ボットの共生を通じて飲食店やホテル・旅館、小売店などの新たな提供価値の創出に貢献する配膳ロボットです。店舗の業務効率化や顧客満足度の...

まずは原因を把握して適切な対策を施すことが大切

飲食業界は、他の産業に比べて人手不足が深刻です。この状況の背景には、新型コロナウイルス感染拡大による人材の減少だけでなく、労働環境の悪化や学べる環境の整備不足など、さまざまな要因が関与しています。

人手不足を解消するためには、雇用条件の見直しや働きやすい環境の整備などさまざまな対策があります。

ただし、適切な対策を講じなければ人手不足の解消は難しい現状です。まずは人手不足の原因を理解し、解消に向けてどのような取り組みを行うかを検討することが重要です。