貨物自動車運送事業輸送安全規則や旅客自動車運送事業運輸規則では、運行の安全を確保し、事故を防止するためにドライバーの点呼が義務づけられています。
しかし、対面での点呼ができない場合、運行管理者や企業はどのように点呼を実施すべきか迷うことがあります。
対面による点呼が難しいときは、IT点呼で代替可能です。そこでこの記事ではIT点呼とは何か、IT点呼のメリットは何かなどを解説します。IT点呼を実施する際の課題や基本的な導入手順も併せて解説するので、自社で導入する際に役立ててください。
IT点呼とは
IT点呼とはパソコンやスマートフォンなどの機器を使用し、対面でなく遠隔で点呼を行う方法です。
ドライバーには車両の乗務前後に点呼を行うよう義務づけられています。点呼は、原則として対面での実施が必要です。
しかし、遠隔地での業務や直行直帰など、営業所での対面点呼が難しいケースもあるのが現状です。
法令では対面点呼が難しい場合の代替方法として、IT点呼による実施が明記されています。対面点呼が難しい場合ややむを得ない場合は、電話またはその他の方法による点呼で差し支えないとされています。
※参考:貨物自動車運送事業輸送安全規則 | e-Gov法令検索
※参考:旅客自動車運送事業運輸規則 | e-Gov法令検索
■遠隔点呼との違い
IT点呼と類似した点呼方法に「遠隔点呼」があります。
遠隔点呼とは、生体認証機能による本人確認や高度な点呼機器を活用して2地点間で実施する点呼のことです。
現時点(※2023年11月時点)で、IT点呼は法令遵守の意識が高いとみなされる営業所の優良性を前提条件として実施が認められています。
一方の遠隔点呼は、最新のICT技術の進歩を考慮し、次のような要件を満たせば実施可能です。
- 国土交通省が定めた機器を使用すること
- ドライバーの顔とカメラ間の照度は500ルクス程度であること
- アルコールチェッカーの使用状況を確認できる監視カメラを設置すること
- 点呼の途絶や音声不良を回避するための環境を確保すること など
また、アルコールチェックが必要な場合は、アルコールチェッカーを使用するための環境も整備する必要があります。
このように遠隔点呼にはさまざまな要件が設けられており、機器を導入したり環境を整えたりするためのコストもかかります。
■電話点呼との違い
運行上のやむを得ない事情がある場合にのみ許可される点呼方法の一つです。
やむを得ない事情とは、ドライバーが遠隔地で乗務を開始する場合や終了する場合などを指します。ただし、車庫と営業所が離れている場合や時間帯の関係で運行管理者が営業所に出勤していない場合は、やむを得ない事情には該当しません。
電話点呼では、スマートフォンや携帯電話を使用し、ドライバーと直接電話して健康状態を確認します。IT点呼や遠隔点呼との大きな違いは、国土交通省が定めた機器を使用する必要がない点です。
IT点呼を実施するメリット
IT点呼を導入する大きなメリットは、対面以外の方法で実施できるため、ドライバーのさまざまな業務状況に対応できることです。このほかにも、IT点呼には企業や運行管理者にさまざまなメリットがあります。
■人手不足の解消を期待できる
企業がIT点呼を導入すると、時間や場所を問わず点呼が実施できるため、人手不足の解消が期待できます。
通常、点呼はドライバーと運行管理者が対面で実施する必要があります。
しかし、ドライバーが渋滞や荷待ちなどの状況に見舞われる可能性もあり、営業所に戻る時間を読むのは難しいのが現状です。ドライバーの戻りを待つ場合、運行管理者の勤務時間が超過し、長時間労働のリスクが生じる可能性があります。また人手不足の場合は、すべての営業所に運行管理者を配置できないケースもあるでしょう。
IT点呼を利用すると、別の営業所に点呼を任せることが可能です。時刻や状況に応じて点呼を担当する営業所を変更することで、すべての営業所に運行管理者を配置する必要性を軽減できます。
■ヒューマンエラーを防止できる
IT点呼はパソコンやスマートフォンなどの機器を使用して実施するため、記録が自動で保存され、システム上で管理可能です。
手書きで記録・管理する場合、記入ミスや記入し忘れ、記録簿の紛失などのヒューマンエラーが発生するリスクがあります。また、法令で義務づけられている記録項目も多く、記録漏れが発覚した場合は再提出が求められるケースもあるでしょう。
点呼未実施とみなされると、警告や営業停止などの行政処分を受ける可能性もあり、点呼内容は適切に記録・管理しなければなりません。
IT点呼を導入すると記録から管理までの作業を自動化できるため、ヒューマンエラーの防止につながります。
■記録を一元管理できる
点呼を実施する際には、本人確認やアルコールチェックも行います。
IT点呼は、免許証リーダーやアルコールチェッカーなどのさまざまなデジタル機器との連携が可能です。
たとえばアルコールチェッカーと連携すると、点呼とドライバーのアルコールチェックを同時に管理できます。免許証リーダーと連携すれば、本人確認がスムーズに実施できるため、点呼にかかる時間短縮につながるでしょう。
また、点呼やアルコールチェックなどのデータは、システム上またはクラウド上に保存されます。記録簿のように保管場所も不要になるため、余ったスペースを別の用途に有効活用できます。
IT点呼を実施する際の課題
IT点呼を導入する前に課題を把握し、解決できるかを十分に検討する必要があります。
■導入費用が高額になりやすい
IT点呼を実施するためには、専用機器が必要です。専用機器は、国土交通省が定めたものでなければならず、機器の導入費用も高額になりやすいです。また、記録管理のためにシステムを利用する場合は、月額利用料も発生します。
IT点呼は一定の導入費用がかかるため、事前にどのくらい必要かを計算しておく必要があります。予算に不安がある場合は、国や協会の補助金制度の利用も検討しましょう。
たとえば公益社団法人全日本トラック協会では、「令和5年度自動点呼機器導入促進助成事業」を実施しています。助成事業では、一定の要件を満たした事業者に対し、上限10~20万円の補助金が支給されます。
※参考:令和5年度 自動点呼機器導入促進助成事業について | 全日本トラック協会 | Japan Trucking Association
■機器の操作に慣れる必要がある
自社でIT点呼をスムーズに運用するためには、ドライバーや運行管理者が専用機器の操作に慣れておく必要があります。
操作方法はパソコンやスマートフォンとは異なるため、慣れていないと点呼に時間がかかる可能性があります。操作ミスによって点呼が実施できなくなるケースも否めません。
IT点呼を導入する際には運行管理者はもちろんのこと、ドライバーも専用機器を操作できるようトレーニングしておくことが大切です。遠隔地でドライバーが専用機器を操作できない可能性も想定し、運行管理者がフォローする体制も整備しておきましょう。
IT点呼の実施要件
IT点呼は、すべての事業者が無条件で実施できるわけではありません。一定の実施要件が設けられているため、自社が該当するかを確認する必要があります。
■Gマークの取得
国土交通省は、自動車運送事業所の安全性を評価する「Gマーク」制度を設けています。Gマークとは安全性優良事業者に対し、全日本トラック協会から与えられるマークです。
IT点呼を実施要件の一つは、Gマークの取得です。
Gマークを取得するためには、各都道府県のトラック協会に申請書類と添付書類を提出する必要があります。その後、安全性評価委員会が次の評価項目をもとに審査を行います。
- 安全性に対する法令の遵守状況(配点40点・基準点数32点)
- 事故や違反の状況(配点40点・基準点数21点)
- 安全性に対する取り組みの積極性(配点21点・基準点数12点)
認定要件を満たす合計点数は、80点以上または基準点数以上です。このほかにも、法に基づく認可申請や届出、報告事項が適正になされていること、社会保険等の加入が適正になされていることが認定要件に含まれています。
上記の認定要件を満たせば、安全性優良事業者と判断されてGマークが付与されます。
ただし、Gマークを取得していない場合でも、次の要件を満たせばIT点呼の実施が可能です。
- 営業所の開設から3年以上経過していること
- 過去3年間で自動車事故報告規則第二条にある事故の中で、第一当事者となる事故を起こしていないこと
- 過去3年間で点呼に関する違反で行政処分や警告を受けていないこと
IT点呼は、Gマークを取得していない場合でも上記に該当すれば実施できます。しかし、Gマークは、安全性の高い自動車運送事業所を選ぶための目安になるため、取得することで取引先が増える可能性もあります。
■国土交通省が認定した機器の使用
IT点呼を実施するためには、パソコンをはじめとする機器を準備しなければなりません。点呼に使用する機器は、国土交通省が定めたものである必要があります。
国土交通省が定める要件は、次のとおりです。
- 映像越しにドライバーの状況を随時確認できること
- アルコール測定記録が自動で保存されること
- 運行管理者がすぐにアルコール測定記録を確認できるシステムであること
点呼の際には、ドライバーの健康や酒気帯びの確認も実施します。IT点呼は対面ではないため、映像を通じて疲労や酒気帯びの有無などを確認しなければなりません。そのため、テレビ電話やWeb会議のように、映像でお互いの表情が確認でき、会話できる環境の整備が必要です。
また、アルコールチェックの測定結果は自動保存できる環境が求められています。従来のように手書きでしか対応できない場合、IT点呼の実施は不可です。さらにアルコールチェックの測定結果は、運行管理者が常時確認できる環境でなければなりません。なお、国土交通省の認定機器は、国土交通省の公式ホームページで確認できます。
※参考:令和5年度 過労運転防止認定機器一覧 ◆ITを活用した遠隔地における点呼機器
IT点呼が実施可能な範囲と時間帯
IT点呼の実施が許可される範囲は、Gマーク取得の有無によって異なります。Gマークを取得していなくても、一定の要件を満たせばIT点呼の導入が可能です。ただし、Gマークを取得している場合と比較すると、さまざまな制限があります。
なお、IT点呼を実施できる時間帯はGマーク取得有無に関わらず、1営業日のうち連続する16時間以内です。
■Gマーク取得事業者の場合
Gマーク取得事業者の場合、次の範囲でのIT点呼が認められています。
- 営業所間
- 営業所とその営業所に属する車庫間
- 車庫とその営業所に属するほかの車庫間
IT点呼の実施場所は上記に限られており、運行管理者が自宅から確認するケースは認められていません。
■Gマーク未取得事業者の場合
Gマーク未取得事業者の場合、次の範囲でのIT点呼が認められています。
- 営業所とその営業所に属する車庫間
- 営業所の車庫とその営業所のほかの車庫間
IT点呼はGマーク未取得事業者でも導入可能ですが、Gマーク取得事業者のように営業所間の実施は認められていません。ただし、同一営業所内の車庫間に制限はありません。
IT点呼の基本的な導入手順
Gマーク取得事業者と未取得事業者では、IT点呼の導入手順に違いはありません。IT点呼の基本的な導入手順は、次のとおりです。
- 必要な機器を準備する
- 管轄の運輸支局に申請する
各手順を詳しく解説します。
1.必要な機器を準備する
IT点呼を実施するためには、パソコンをはじめとしたさまざまな機器の準備が必要です。使用する機器は国土交通省が定めたものでなければならないため、購入する際には注意しましょう。
IT点呼の実施に必要な機器は、次のとおりです。
- パソコン(カメラ・マイク内蔵タイプ)
- スマートフォン
- 点呼管理ソフトウェア
- プリンター
- 免許証リーダー
- アルコールチェッカー
点呼の際にはドライバーの顔色や声の調子などを確認するため、カメラやマイクが内蔵されたパソコンを準備しましょう。免許証で本人確認を行う場合は、有効期限を読み取るための免許証リーダーが必要です。
IT点呼の際には、ドライバーのアルコールチェックも同時に実施します。クラウドサービスと連携できるアルコールチェッカーなら、記録や管理がしやすく便利です。
2.管轄の運輸支局に申請する
自社でIT点呼を実施する際には、管轄の運輸支局に次の書類を提出する必要があります。
- IT点呼に係る報告書
- IT機器のパンフレット(性能がわかる書類)
- 安全性優良事業(Gマーク)認定証の写し
報告書には、IT点呼を実施する営業所や車庫の環境、開始予定日などを記載します。申請期限は、IT点呼を実施する10日前までです。
IT点呼の前段階としてまずはアルコールチェッカーを
すでにご説明した通り、IT点呼は許可されない事業所もあります。点呼同様に運送業や旅客業などの緑ナンバー事業者、及び規定台数以上の車輛を有する白ナンバー事業者に課された義務にはアルコールチェックがあります。
法改正により、2023年12月にはアルコールチェッカーを使用したアルコールチェックが義務化されました。アルコールチェクの方法が変更になったように、IT点呼に関しても今後対象となる事業者や対応機器が変更になる可能性は十分に考えられます。
なにより、運送業界の人手不足に対応するためにも、クラウド管理型のアルコールチェッカーを導入し、安全運転管理者がドライバーの記録の管理や車輛管理に慣れておくことが重要になります。
弊社の「ALPiT」は、アプリを起動して息を吹きかけるだけで簡単にアルコールチェックができ、結果が管理画面にリアルタイムで記録されるアルコールチェッククラウド管理サービス。アルコールチェッカー、管理画面ともにシンプルな操作で誰にとっても使いやすいのが特長です。
これまでアルコールチェックの結果を紙で管理してきた事業者は、アルコールチェッククラウド管理サービスAlPiTの導入をおすすめします。
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IT点呼を導入して人手不足の解消と業務効率化を目指そう
近年は少子高齢化による生産年齢人口減少により、多くの業界が人手不足に陥っています。特に運送業界はニーズが高いにも関わらず、他業界に比べて人手不足が深刻化している状況です。
ドライバーは、乗務前後に点呼やアルコールチェックを行います。しかし、人手不足の企業では営業所に十分な担当者を配置できず、対面での実施に対応できないケースもあるでしょう。
IT点呼を導入すると時間や場所を問わず対応できるほか、記録や管理をデジタル化できます。人手不足の解消や担当者の業務効率化にもつながるため、必要な環境を整備してIT点呼を導入しましょう。