世界的に省エネが進められている今、工場にはさらなる対策が求められています。
当記事は工場で省エネ対策が求められる背景を解説し、具体的な対策事例をご紹介します。さらに、工場新設・増設で求められる省エネ適判の計算方法も解説するので、自社工場の省エネ担当の方はぜひ参考にしてください。
工場で省エネ対策が求められている背景
工場に省エネ対策が求められている理由には、エネルギー資源の枯渇のほか、温室効果ガス排出量やエネルギー消費量の増加など、世界的な問題が背景にあります。
■エネルギー資源の枯渇
工場を含む生産現場で省エネ対策が求められているのは、石油や天然ガス、石炭やウランなどのエネルギー資源の枯渇が予測されているからです。
エネルギーの多くは、石油や天然ガスなどの限りある化石燃料を資源にして作られています。経済成長や人口増加によりエネルギー需要が増加した結果、化石燃料の消費は高まり続けており、このままでは遠くない未来に底をつくといわれています。
世界のエネルギー資源の確認埋蔵量は次のとおりです。
エネルギー資源 | 確認埋蔵量 | 採掘可能年数 | |
---|---|---|---|
石油 | 1兆7,324億バーレル(2020年末時点) | 54年 | |
天然ガス | 188兆立方メートル(2020年末時点) | 49年 | |
石炭 | 1兆741億トン(2020年末時点) | 139年 | |
ウラン | 615万トン(2019年1月時点) | 115年 |
※出典元:経済産業省資源エネルギー庁「第2節 一次エネルギーの動向」
エネルギー資源の底が具体的になってきたことで、世界的に省エネ対策が急務とされており、エネルギー消費が大きい製造工場に対策が求められています。
■温室効果ガス排出量の増加
近年、地球温暖化の加速は世界的な問題となっており、温室効果ガス排出量の抑制が求められています。
エネルギー消費量が増加し、多量の化石燃料を燃やすと、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが大量に排出されます。地球温暖化は大気中の温室効果ガスの濃度が高まった結果、熱が吸収されて封じ込められ、地球の気温を上昇させている状況です。
気象庁の公開しているデータによると、世界の平均気温は変動を繰り返しながら確実に上昇し、地球温暖化を進めています。
※画像引用:気象庁「世界の年平均気温」
地球温暖化は、異常気象や生態系の崩壊などを発生させる大きな問題です。温室効果ガスの排出量を効果的に減らす省エネへの取り組みは、重要視されています。
■エネルギー消費量の増加
エネルギー需要の高まりにより、世界のエネルギー消費量は増加しています。
※画像引用:経済産業省資源エネルギー庁「第1節 エネルギー需給の概要等」
近年はアジアの伸び率が高い状態を継続しています。
一般的には、経済成長とともにエネルギー消費が増加するため、今後途上国の経済が成長することでエネルギー消費も増えていくことが予想されます。
■省エネ法の制定
省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)の制定により、事業主はエネルギー使用の合理化を求められています。
1979年に制定された省エネ法は改正を繰り返し、エネルギーを使用する工場に対して、燃料や資源の有効活用を目的とする直接規制と間接規制の2種類を設けています。
規制の種類 | 取り組みの内容 | ||
---|---|---|---|
直接規制 |
| ||
間接規制 |
|
直接規制、間接規制どちらが対象でも、取り組みが不十分と判断された場合は、事業主に指導や指示、勧告などが行われます。
工場で省エネ対策をおこなうメリット
省エネ対策による企業側のメリットには、コストの削減や設備の負担軽減などがあります。さらに、企業ブランディングにより競争力を強化し、他社との差別化が狙えます。
■コストの削減
工場でのエネルギー消費を削減することは、長期的なコスト削減につながります。
エネルギー消費量を抑えるために新しい設備やシステムを導入すると、初期費用はかかります。ただ、ランニングコストが削減されるため、中・長期的に総コストを削減できるでしょう。
また、省エネ目的の設備投資は、政府の支援制度が利用可能です。地方自治体も補助金や助成金を提供している場合があるため、各機関の制度を確認してみましょう。
■設備の負担を軽減
工場内の省エネ対策は、設備への負担を軽減します。たとえば使用しない設備の電源をこまめに切ると、消費エネルギーを抑えることができます。
また、油圧を用いた駆動設備の場合は、稼働時間中の作動油の劣化や空気・水分の混入を減らせるため、メンテナンス費用も抑えられるでしょう。
省エネ対策によって設備の寿命を延ばし、故障による損失を大幅に軽減できる場合もあります。
■企業ブランディングで競争力を強化
省エネ対策を通じた社会問題への取り組みを効果的にアピールすることで、他社との差別化を実現し、より高い競争力を手に入れることができます。
省エネ対策は事業活動を通した社会貢献であり、より良い社会・環境づくりを目指す取り組みの一つです。
利益だけを追求せず、次世代への責任や配慮も重要視する企業として、消費者や投資家などに向けて効果的に発信することで、企業価値を高めると同時に商品のイメージや価値をアップさせます。
また、省エネ対策による企業ブランディングが発揮して他社との差別化が進むと、採用競争力もアップするでしょう。認知度を高め、優秀な人材を獲得しやすくなります。
工場でできる省エネ対策の具体的な事例
ここでは、工場の具体的な省エネ対策をご紹介します。
■一般設備の省エネ事例
空調機器と照明機器の事例をご紹介します。
空調機器における省エネ
工場内の空調機器の省エネ対策には、主に次の方法があります。
- 温度や風量の設定の見直し
- 稼働時間の見直し
- ブラインドによる日差しのコントロール
- サーキュレーターや扇風機の併用
- 定期的なフィルター交換
- 消費電力量が少ない危機との交換
また当社では、最大50%の電気代削減が可能なエナジーセーバーを提供しています。お使いの空調機にそのまま設置するだけで、空調機が劇的に省エネを実現。高性能温度センサーが室内の温度変化を検知し、搭載されたAIが運転を最適化します。
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照明機器における省エネ
工場内の照明機器の省エネ対策には、主に次の方法があります。
- 照明のオン・オフの徹底(休憩時間・就業後・使用していないエリア)
- 作業に支障がない範囲で照明を削減
- LEDなどの省エネルギー照明や長寿命照明と交換
当社は、工場に最適なLEDを取り扱っています。ソケットのない一体型ベースライトで業界最高クラスの省エネ性能を誇るLX-200は、従来のFRL蛍光灯に比べて最大約70%の消費電力削減が可能です。
また、油煙の多い場所でも使用可能なオイルミスト対応型や、湿度の高い場所で使える防湿型など、工場内の特殊な環境に対応できるさまざまな省エネ照明を揃えています。
さらに、工場内の照明の明るさや光色を一元管理できる、無線制御システム「LiCONEX(ライコネックス)」を提供しています。独自の通信方式「メッシュリンク」採用の無線制御により、タブレットから状況にあわせて調節が可能で、電気代のトータルコストを最大62%削減できます。
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■給排水・衛生設備の省エネ事例
給水・循環水・排水などの給排水設備と、消臭・殺菌・洗浄機などの衛生設備の省エネ事例をご紹介していきます。
給水・循環水・排水における省エネ
給水・循環水・排水の省エネ対策には、主に次の方法があります。
- 節水の周知
- 蛇口の口径の取り替え
- インバータによる流量の監視
- 地下水・余剰工業用水利用システムの導入
- 水漏れ部の補修
節水機器を取り付けて水量を制限し、インバータ搭載のポンプを導入して流量を制御するのも効果的です。
消臭・殺菌・洗浄機における省エネ
消臭・殺菌・洗浄機の省エネ対策には、主に次の方法があります。
- センサーによる薬品・水の流量制御システムの導入
- 曝気ブロワの運転時間の見直し
- 薬品・水漏れ部の補修
排水処理設備では、センサーによる水質管理やブロワの稼働時間の削減が、水や電力消費量削減のポイントになります。
■熱処理設備の省エネ事例
ボイラーや給湯器、焼却炉・ガス炉・重油炉などの熱処理設備の省エネ対策もみていきましょう。
ボイラーや給湯器における省エネ
ボイラーや給湯器の省エネ対策には、主に次の方法があります。
- 設定温度の見直し
- 運転時間の短縮
- 運転台数の削減
- 蒸気・温水漏れの補修
- 外気の遮断
- 不要系統への熱供給の停止
- 熱効率の良いボイラー・給湯器への交換
- 排熱利用システムの導入
ボイラーや給湯器の省エネは、設定温度や圧力の最適化が特に効果的です。また、発生させた熱を無駄にしないための配管メンテナンスや、排熱を利用した発電システムの導入なども検討すると良いでしょう。
焼却炉・ガス炉・重油炉などにおける省エネ
焼却炉・ガス炉・重油炉などの省エネ対策には、主に次の方法があります。
- 予熱時間の短縮
- 設定温度の見直し
- 非生産時の運転停止
- 保温対策の実施
- 安価な燃料で稼働可能なものと交換
- 運転効率の良い高性能工業炉への交換
焼却炉・ガス炉・重油炉で使用されるエネルギー量は大きく、適切な管理・運用が省エネ対策に必要不可欠です。また、炉内の保温対策や熱遮断対策を徹底し、使用エネルギー量を削減しながら他の設備への負担を抑えることも重要になります。
■管理部門が担う省エネ事例
ここでは、管理部門のエネルギーコントロールによる省エネ対策をご紹介します。
エネルギーマネジメントシステムの導入
工場内エネルギーマネジメントシステム(FEMS)を導入すると、エネルギー消費量を可視化して管理・分析することができ、省エネ対策を効果的に進めることが可能です。
エネルギーマネジメントシステムは、工場内の機器や部門ごとのエネルギーの利用状況を一元管理、制御するものです。工場全体の状況をリアルタイムでチェックして課題点を明確にし、改善策を実施できます。
当社の無線制御システム「LiCONEX(ライコネックス)」は、クラウドサービスの利用により、工場内を遠隔監視可能なIoTデバイスとしても機能します。各種センサーや機器と連携させ、累計動作時間を一元管理可能です。
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デマンドコントロールの実施
デマンドコントロールは、工場で使用する電力をコントロールする省エネ対策です。
ピークカットやピークシフトにより最大デマンド(最大電力需要)をコントロールし、電力使用量を分散して基本料金を抑えます。
ポイントは、最大デマンドの上限値を設定し、太陽光発電や蓄電池などの導入や、機器の稼働時間の分散化で、上限値を超過しない範囲での電力使用に留めることです。また、使用電力量が上限値に近づいた際には、照明や空調などの自動制御による超過防止も検討しましょう。
当社のAI搭載空調省エネソリューション「エナジーセーバー」は、ご使用のエアコン・空調の室内機に取り付けるだけで省エネを実現します。
2つの温度センサーとAIが空調の過剰な運転を事前に抑制し、設備に負担をかけずに使用電力を削減できます。
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工場の新設・増設には省エネ適判が必要
省エネ適判は、新築や増改築する建物が、国が定める「省エネ基準」に適合しているかどうかを判定する評価です。
建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)により、床面積300平方メートル以上の工場の新設時・増設時は、省エネ適判が義務化されています。
建築基準法に基づく建築確認や完了検査の際に行われ、基準値に適合していることが求められます。
なお、2025年には、300平方メートル未満の工場も、省エネ基準の適合義務の対象となる予定です。
■適判時の省エネ計算の方法
省エネ計算は、「一次エネルギー消費量基準」と「外皮基準」の2つの要素から構成されています。
一次エネルギー消費量基準
一次エネルギー消費量基準は、空調や照明機器などの設備機器のエネルギー消費量の評価「一次エネルギー消費性能(BEI)」が、定められた条件を満たしているかを判断するものです。
省エネ建材・設備の採用を考慮し、仕様に基づいて算出した「設計一次エネルギー消費量」を、標準的な仕様を採用した場合で算出した「基準一次エネルギー消費量」で除して算定します。
「一次エネルギー消費性能(BEI)=設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量」
そして、算出された一次エネルギー消費性能(BEI)が、次の条件を満たしていることを確認します。
- 新築および既存建築物の増改築の場合:BEI≦1.0
- 既存建築物(2016年4月時点に建築されている建物)の場合:BEI≦1.1
外皮基準
外皮基準は窓や外壁などの断熱性能を評価するものです。工場や倉庫などの非住宅建築物には、外皮基準が直接適用されることはありません。
しかし、一次エネルギー消費量を算出する際には、外皮基準も考慮されます。
外皮基準には、次の2つの指標があります。
- UA値:工場内部の熱がどのくらい外に逃げやすいかを示す指標
- イータAC値:工場内にどのくらい日射熱が入るかを示す指標
それぞれの指標は、壁・窓・天井・床などの熱損失量を合計した「外皮熱損失量」や日射熱量を合計した「外皮日射熱取得量」、各部位の面積を合計した「外皮総面積」を用いて、次の計算式で算定します。
「UA値=外皮熱損失量÷外皮総面積」
「イータAC値=外皮日射熱取得量÷外皮総面積×100」
UA値もイータAC値も地域区分ごとに設定された基準以下(東京の場合はUA≦0.87、イータAC≦2.8)であることが求められます。
工場の省エネ対策は効果的に進めよう
世界的な問題として、エネルギー資源の減少や温室効果ガスの増加が取りざたされており、国内の工場では持続的な省エネ対策が求められています。
工場の省エネ対策には、空調機器や照明機器などの一般設備の消費電力量削減や、給排水設備への節水機器の導入、熱処理設備への温度や圧力の最適化などがあります。さらに、エネルギーマネジメントシステムやデマンドコントロールなど、管理部門が担う総括的な施策の実施もおすすめです。
省エネ対策は、自社の工場内設備にあうものを吟味して導入し、最大限に効果を発揮しながら積極的に進めていきましょう。