ホテル・宿泊業界は慢性的な人材不足です。しかし一方でアフターコロナなどの影響で訪日外国人などは増えていて、ホテル需要は高まり続けています。人材を確保するためには、今までのホテルのあり方を考え直す必要があるかもしれません。
本記事では人手不足に悩んでいるホテルの管理部長・人事担当者に向け、ホテル人材が不足する理由から、人材確保のための対策を解説します。人材不足へ陥る原因の理解を深め、具体的な対策を自社に持ち帰りましょう。
ホテルの人材確保が難しい理由とは?
帝国データバンクの調査によれば、現在のホテル業界では次のような状態が観測されています。
【現状の要約】
- 正社員の不足割合が77.8%
- 非正規社員の不足割合が81.1%
- コロナ禍以前を含めて過去最高値である
- 人手不足を感じている割合は全職種のうち宿泊業がトップ
※引用元:帝国データバンク「特別企画: 人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」
調査結果を見ても業界全体で人材不足であることがわかります。これほどまでに人材不足になっているのは、なぜなのでしょうか。まずはその原因について解説します。
■離職率の高さ
ホテル業界の人材確保が難しいのは、そもそも全体的に離職率が高いことが要因の一つです。厚生労働省データによると、令和3年度の宿泊業の離職率は25.6%と、全業種内でトップの数値です。加えて新卒の場合も3年以内離職率は高卒で60.6%、大卒で49.7%と離職率がかなり高いことが窺えます。
全体で2割以上、新卒では半分以上が辞めてしまうことを考えると、現場での人材不足は避けられません。
※引用元:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」
※引用元:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します」
■労働環境
ホテルの人材確保が難しいのは、労働環境の厳しさも要因です。ホテル運営は24時間体制が基本であり、従業員は体制にあわせた勤務形態が求められます。
たとえば勤務時間は日中に加えて、早番・遅番・夜勤があり、場合によっては不規則になりやすい形態です。すでに人材不足が起きていると、一人当たりの勤務時間も長めになってしまいます。このような状況から、長時間勤務の原因となる中抜き勤務が起きることも少なくありません。
さらに、人が少ないと休日の取得も融通が利きにくくなるため、従業員は希望のタイミングで休日を取ることができません。そもそも世間一般の休日に当たる日は、ホテルは特に忙しいので、出勤せざるおえないケースもあります。
これらの切迫した労働環境のせいで、現場の余裕がなくなると、人間関係も悪化しやすくなります。肉体的・精神的な負担が増え、複合的な要因から離職につながる結果となっています。
■急激な需要増加
人材不足が問題になっているにも関わらず、近年ホテルの需要は急激に増加しています。東京オリンピックの影響や円安による訪日外国人の増加、アフターコロナにおける国内旅行客の増加によって、ホテルの需要がかなり増えました。
そもそもの人材不足に加え、新型コロナウイルスの流行によって離職者が多くなり、ホテル業界では人員の増員が追いついていません。人材の取り合いにもなっており、ホテル同士がお互いに人材流出に悩んでいるのが現状です。
人材不足のホテルこそ業務効率化を目指そう
人材を確保したいからといって給料を上げるだけといった策は、根本的な解決にはなりません。働きにくい環境のままなら、離職率の高さは改善しきれないことがあるからです。
そのため、人材不足であるホテル業界で労務環境自体を変えていくためには、根本から運営を見直していかなければいけません。業務効率化をおこない、「ここで働いてもよいかも」というポジティブな感情を持てる職場づくりが大切です。
生産的な環境を提供できるようになれば、自然と人材を確保しやすくなるでしょう。
業務効率化の具体的な方法
これからのホテルで人材確保をおこなうためには、業務効率化は急務です。
ここからは具体的な業務効率化の方法を紹介していきます。
■サービスロボットによる作業の自動化
業務効率化には、サービスロボットで清掃などの業務の一部を自動化することが有効です。今まで時間を割いていた掃除をロボットに任せることができるので、従業員の負担が減少します。
実際にサービスロボットによる清掃業務の自動化は、すでに多くの有名ホテルで導入されています。たとえば「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」では、清掃ロボットの導入で人材を割いていた清掃時間を大幅に削減。除菌や消毒といった部分の作業に力を入れられるようになりました。
また、「加賀屋姉妹館 あえの風」では人材不足のなか、他の業務の合間を縫って、清掃を従業員同士で回していました。しかし清掃ロボットを導入したことで、人力の清掃部分を大きく削れたため、従業員が他の業務に集中できるようになったと言われています。
これらの事例から分析しても、ホテルに清掃ロボットを導入するのはメリットが大きいといえます。
なお、サービスロボットを導入する場合は、性能や操作性を事前に確認することが必要で、特に実際に使うスタッフが使いこなせるのか、十分に必要な作業をロボットが行えるのかなどをよく検討してから導入することが必要です。操作性が悪く、使いこなせなければ結局は余計な手間が増えてしまうことも考えられます。
また、大幅な業務を担ってもらうことを考えると、万が一エラーや不具合が出た際に、すぐに対応してもらえるメーカーであるかも重要です。
アイリスオーヤマのサービスロボットは、無料でお試し導入ができます。自社のホテルに適切か、導入してみて実際にどのような効果があるか試すことが可能です。アフターサービスや導入におけるサポートも充実しているため、はじめての清掃ロボットの導入も安心できます。
サービスロボットの導入を迷っている方は、本格導入の前に試験運用として導入してみてはいかがでしょうか。
アイリスオーヤマ「ロボティクス事業」
■業務プロセスの省略・統合
自動化できる業務以外の部分でも、業務プロセスを省略・統合する努力が必要です。これまでの業務を見直し、より効率化をすることで人材リソースを減らせます。
たとえばルームサービスは、プロセスを省略しやすい部分です。連泊の場合はルームクリーニングを省略する、フロントとのやり取りには、電話ではなくタブレットを介する方法を基本とするといった策が講じられます。
アメニティは、各部屋ではなくフロントにアメニティバーなどを設置するというのも選択肢の一つです。セルフスタイルで必要な分を持ち込んでもらえれば、補充のリソースを必要としません。
また、従業員が「○○はできるけれど○○の業務はできない」といった状態のままだと人材不足が解消しにくいです。そのため、一人当たりができる業務の種類を少しずつ増やしていけるように、スタッフのマルチタスク化も進めましょう。
フロント+事務、接客+清掃といったように、どのような業務もフラットにできる人材が増えれば、ホテル内の仕事の穴ができにくいです。
■ITツールを活用した業務効率化
ホテルの業務は、ITツールを活用することでも業務効率化を図れます。特にフロント業務やホテル全体の管理などは、ITツールによって従業員の負担を減らした実例が少なくありません。
具体的にはフロント業務であるチェックインをセルフチェックインへ、客室の鍵はスマートロック化することで対応の必要がなくなります。顧客はスマホの予約システムや専用アプリなどを使って、有人フロントを利用せずにスムーズに宿泊が可能です。
また、ホテル全体の管理は、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで効率化が叶います。RPAとは、バックオフィスでおこなう業務の自動化のことです。ホテルなら、予約管理、売上チェック、総務・経理、従業員の勤怠管理などを自動化することができます。
これらのITツールを活用すれば業務の省人化ができるため、より効率的な職場環境へ変えることが叶うでしょう。余裕ができれば、従業員の無理のないシフト組みや他の業務への注力もしやすくなります。
ホテルで人材を確保するための対策は?
完全に無人でホテルを経営することは現実的ではなく、業務効率化と同時に人材を確保するための対策も必要です。
ここからは人材不足となる原因を踏まえ、既存社員の定着と新規人材を確保するための対策を解説します。
■待遇の見直し
ホテルの離職率の高さは、労働に対する報酬が伴っていないことも要因として深く関わっています。そこで、まずは従業員の待遇の見直しを検討してみましょう。労力に見合う報酬や待遇がなければ、従業員は「安定して働ける場所だ」とは思えません。
まず待遇の見直しとして、従業員の給与・時給を高くする、福利厚生の充実や休日数を確保するなどの改善が必要です。労働に対して見合う報酬とプライベートの権利が確保されることは、労働者待遇の大前提といえます。
また、子育てや介護といった、個人の事情やライフスタイルにあわせられる、柔軟に働ける環境を作るのも効果的です。フルタイムや、あらゆるシフトに対応できない人でも、能力が高い隠れた人材はたくさんいます。時間休や新たな休暇制度などを設けて調整できるようにすると、人材を確保しやすくなります。
加えて、適切で透明性のある人事評価制度を導入するのも重要です。努力が実を結ぶことが実感できれば、働き続ける意欲にもつながります。従業員が成長したいと思う気持ちも生まれやすいのです。結果的にサービスのクオリティ向上にもつながる可能性があります。
■労働形態の見直し
労働形態自体の見直しもおこないましょう。特に中抜け勤務は従業員の負担が大きいため、なるべく削減するようにしてください。交代勤務制によってシフトが偏らないようにして、長時間勤務がおきないようにしましょう。
また、現場の仕事の割り振りを見直し、効率的に業務を進められるように見直すことも必要です。前述した従業員のマルチタスク化を活かせば、人員をスムーズ配置できます。
労働形態の見直しで長時間勤務や残業時間が減れば、採用活動でもアピールできる材料となります。新たな人材確保にもつなげることができるでしょう。
■若手世代のサポート・ケアの充実
新入社員をいかに定着させるかも、人材不足であるホテル業界の課題となっています。しかし、採用数が減っているホテルだと新入社員の人数が少なく、仕事の悩みを相談しにくいというケースも多々見受けられます。
そのため、新入社員を含めた若手世代のサポート・ケアを充実させることを意識してください。たとえば同じホテルグループの新入社員での研修や、社内チャットなどコミュニケーションツールの導入などが効果的です。
新入社員同士が集まった研修は、「同じ仲間がいる」という安心感が得やすい場です。研修で自信も生まれてくるため、仕事に対するモチベーションも上がります。
また、コミュニケーションツールがあれば良好な人間関係が形成されやすくなるので、相談しやすい空気が生まれます。何か悩みがあったときも迅速に解消しやすくなるでしょう。
上記に加え、メンター制度や定期的な面談の導入もおすすめです。サポートやケアできる場所を複数作ることで、不満・不安を即座に解消しやすい職場づくりができます。
■採用活動の改善
人材を確保したいのなら、採用活動の改善も必要です。「このホテルで働きたい!」と思える目を引くコンテンツが増えれば、応募も増えてくるでしょう。
以下で効果的なおもな施策をご紹介します。
求める人物像・募集理由の明確化
ホテルで働いて欲しい従業員は、どのような人物像を想像しているのでしょうか。求める人物像が定かではないと、職場にあっている人材が集まりにくくなってしまいます。
まずは、どのような人を求めるか人物像を明確にし、募集する理由を定めてください。たとえば「フレッシュな接客ができる人が欲しい」「新たな人材でホテルを盛り上げたい」といったイメージです。
イメージが明確になれば、入社後のミスマッチも起きにくくなります。
待遇(給与や福利厚生)のアピール
求人を出す際には、給与や福利厚生といった待遇をしっかりアピールしましょう。特に待遇を改善した場合は、しっかりアピールしなければ新たな人材流入につながりません。また、逆に待遇を改善したのに人が集まらない場合はアピール方法を変える必要があります。
たとえば充実した休暇制度があっても、実際に活用しにくい雰囲気があれば、柔軟な休暇取得は現実的ではありません。実際の取得率などを明確に記載することで、そのような懸念も払拭できます。
求人サイトで魅力をより強調する、SNSで待遇面の宣伝をするなど、多くの人の目に留まるようにポイントをアピールしましょう。継続してアピールすれば、人材が集まり始めるはずです。
育児中の社員などロールモデルの紹介
従業員のロールモデルも求人サイトや自社ホームページのコンテンツに追加してみてください。求職者は理想の働き方が実現できるかどうかを少なからず心配しています。特に女性は育児や介護を担うことが多いことから、実際の勤務体制を重要視します。
自分に近い従業員のロールモデルが確認できれば、「この職場なら働ける」という前向きなイメージを持つことができるはずです。まずは既存社員でロールモデルになりそうな人を何人か選出し、インタビューをおこなってください。
たとえば育児中の人といったモデルを設定すれば、「家庭と両立して働けるんだ!」と注目してもらえます。
従業員インタビューの実施
職場のイメージを持ってもらうため、従業員のインタビューや座談会のコンテンツを掲載するのもおすすめです。
実際に働いている従業員の生の声は、透明性のある職場のイメージを持ってもらいやすいものです。人間関係の良さをアピールする効果もあるため、ポジティブな印象を与えられる可能性が高くなります。
また、インタビューを通して職場の雰囲気がわかれば、業務も実際に近いイメージを捉えやすくなります。働いてみてからイメージと違うといったミスマッチも防げるでしょう。
採用チャネルの拡大
人材を確保するために、採用チャネルを拡大するのも一つの手です。基本的な求人サイトや自社の採用ページといったものに加え、次のような採用方法があります。
採用チャネル | 方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
SNS | 職場アピールしつつ適切な人材にアプローチをかける | 幅広い隠れた人材を探せる | 投稿や人材探しが地道 |
リファラル採用(紹介採用) | 既存従業員から人材を紹介してもらう | 社内に精通した人に適切な人を紹介してもらえる | 従業員の信頼がなければ人材がつながらない |
ダイレクトリクルーティング | 人材データベースから採用したい人を選ぶ | 具体的な能力を見て採用できる | 求職者とのやり取りの手間がある |
インターンシップ | 学生に体験してもらって新卒採用する | マッチした人材が集まりやすい | インターン制度の導入が煩雑 |
求人サイト | 各種サイトに募集を出して応募を待つ | 数多くの人に募集を見てもらえる | 他の募集に埋もれやすい |
自社の採用ページ | 自社ホームページで採用募集をする | 自由に自社のアピールができる | 目に止まりにくい |
求人サイトと自社ページだけでは、募集力がやや劣ることもあります。募集数が少ないと感じたら、上記の他の方法でも人材を探してみてください。
■外国人人材の活用
近年では日本で働くために特定の技能を磨いた外国人も増えているので、意欲のある外国人労働者を雇用するのも選択肢です。
特に、特定技能在留資格(宿泊)を持っている人は、ホテルに必要なフロントや企画・広報、接客、レストランなどの技能を学んでいます。日本に根差したホテル関連業務の技能を取得しているため、業務に関する考え方の違いに困ることがありません。
また、数カ国語に対応できる外国人を採用できれば、インバウンドへの対応もしやすくなります。
■リゾート派遣やスポットバイトの活用
ホテルの繫忙期などにあわせて部分的に人材確保したいのなら、リゾート派遣やスポットバイトの活用する方法もあります。リゾート派遣はリゾートホテルや旅館に特化した派遣会社から、スポットバイトは専用アプリなどから募集が可能です。
ただし、リゾート派遣を利用するには、次の条件を揃える必要があります。
- 人材の宿泊場所の確保
- 食事の提供
- 滞在地からの移動手段(送迎シャトルバスなど)
- 総体的な導入コスト
リゾート派遣は基本的に住み込みで働くイメージで、勤務先のホテルの近くで集中的に働くような形態が一般的です。雇用側は一定期間の宿泊場所と食事を用意しなければいけません。
また、スポットバイトはより気軽な採用手法です。繫忙期など必要なときだけ人材を補充でき、募集からマッチングまでも早いのが特徴で、経験者やリピーターに絞って募集することもできるため、即戦力を投入できます。
バイトなため、長期雇用として引き抜くこともできるので将来的な人材確保にもつながる可能性もあるでしょう。
改革をしてホテルへ人材を確保しよう
ホテルで人材を確保するには、既存の従業員が働きやすい環境を作ることはもちろん、新規人材が働きたいと思える労働環境を整えることが重要です。
業務の見直しやITツールの活用で効率化を図り、ホテル勤務の欠点である長時間労働や極端な負担の偏りを無くしていきましょう。
また、正当な報酬額と休日の確保、福利厚生の充実に加え、風通しの良い職場環境作りも大切です。ネガティブな思いや悩みを抱えにくい体制を敷くことで、人材の流失を防げます。労働環境が良くなれば、外から来る新規人材の目にも止まりやすくなるでしょう。
人材確保に向け、紹介した施策やアイデアを参考にぜひ改革をはじめてください。