「工場の電気代はどのように削減したらよいのか」というのは工場の経営に関わる人の大きな課題の一つです。
工場の電気代は、2023年9月に電気・ガス価格激変緩和対策による措置が終了するため、今後さらに企業への負担が大きくなる可能性があります。
この記事では、すぐに実践できる工場の節電対策から最新のシステムを活用して大幅に電気代を削減できる方法まで詳しく解説します。ぜひ参考にしてみてください。
工場と電気代についての基礎知識
工場の電気代がかさみやすい理由や、工場で利用している高圧電力の料金システムについて、詳しく解説します。
■工場(製造業)は電力消費量が多い
工場は所有する面積が比較的広く、機器の利用頻度も高いことから、電力の消費量が多くなりがちです。照明、空調、生産ラインの設備など、多種多様な設備や機器が電気を大量に使用します。
具体的には、次のような用途で電力を消費しています。
- 加工機
- ロボット
- ベルトコンベアー
- 昇降機
- 無人搬送車
- 電気炉
- クリーンルーム
- 冷蔵・冷凍設備 など
業種によって業務で扱う機器は異なる場合もありますが、工場で一般的に使用する設備や機器のみであっても、電力を稼働させる設備や機器が多いと言えます。
■燃料価格の影響で電気代が高騰している
社会情勢による燃料価格の高騰、円安などの影響で、企業向けの高圧電力や特別高圧電力の電気代などは上昇傾向にあります。
現在は日本政府の「電気・ガス価格激変緩和対策」が実行されたことにより、多くの工場で使われている高圧電力の料金が、燃料調整額から3.5円/kWh分引き下げられる措置が取られています。しかし、現段階では「電気・ガス価格激変緩和対策」は、2023年1月〜9月使用分に限られており、10月以降の対策はまだ発表されていません。そのため10月からは、電気代の負担が増加する可能性も考えられます。
参考:経済産業省「電気・ガス価格激変緩和対策の実施のため、電気・ガス料金の値引きを行うことができる特例認可を行いました」
■工場で使用される高圧電力とは
中規模の工場では、多くの場合高圧電力が使用されています。高圧電力とは供給電圧が6,000Vの電圧規模を指し、契約電力では50〜2,000kW未満の範囲が該当します。一般家庭で使用されている低圧電力とは異なり、高圧電力の基本料金は単価、契約電力、力率の3つによって構成されています。
高圧電力の電気代の計算方法
高圧電力の電気代の計算方法は、次のとおりです。
項目 | 計算式 | ||
---|---|---|---|
1.基本料金 | 基本料金単価 [円/kW]× 契約電力[kW] × (185 – 力率)/100 | ||
2.電力量料金 | (電力量料金単価 [円/kWh]× 使用電力量[kWh])±( 燃料費調整額[円/kWh]×使用電力量[kWh]) | ||
3.再生可能エネルギー発電促進賦課金 | 再生可能エネルギー発電促進賦課金[円/kWh] × 使用電力量[kWh] | ||
合計 | 1+2+3 |
基本料金の計算に使用する「力率」とは、実際に消費される電力と発電所から供給される電力との比率のことです。力率が85%を上回れば割引、下回れば割増が適用されるため、力率が低下すると工場の電気代が増加します。
低い力率は供給能力の非効率性を意味し、電力会社が必要な供給電力の確保にコストをかけることとなります。
デマンド値と力率の管理が電気代の節約につながる
デマンド値とは、ある特定の期間(通常30分)のピーク電力使用量のことを表します。例えば、工場でたくさんの機械を同時に稼働させると、その時間帯のデマンド値が一時的に高くなります。
電力会社は、このデマンド値に基づいて基本料金を計算することが多いため、デマンド値の管理は電気代の節約に直接的に影響します。
一方力率は、電源から出力された電力と実際に消費した電力の比率で、その効率性を示す指標です。
電気代を節約するためには、デマンド値のピークカットや力率の改善が有効です。ピークカットは、大容量の機器の使用を時間帯別に分散させることで達成できます。力率は進相コンデンサを使用することで電力損失を低減したり、今あるコンデンサを省エネ型に変更したりすると改善できます。
さらに、高効率な機器の導入や電力の定期的なモニタリングをおこない、無駄な使用を削減することも電気代の節約につながるでしょう。このように、デマンド値と力率の適切な管理は、電気の効率的利用と経済性の向上に直結する重要な要素です。
■工場の電気使用量の割合
資源エネルギー庁のデータによると、工場の電気使用量は生産設備による消費が約8割を占めており、残りの約2割は空調と照明だということです。このデータから、工場では「生産設備」「照明」「空調」の3つの節電対策をすることで電気代の削減が見込めることがわかります。特に取り組みやすい節電対策は照明と空調に関するものです。
次項では具体的な節電方法を解説します。
【照明】工場で電気代を削減する方法
工場で照明の電気代を削減する方法は、次のとおりです。
- LED照明への切り替え
- 不要な照明は点灯させない
- 無線制御システムで照明の一元管理をする
それぞれ詳しくみていきましょう。
■LED照明への切り替え
照明が古く、蛍光灯や水銀灯などを使用している場合、LED照明に交換することで年間の電気代を大きく削減できます。工場では広範囲に照明が必要であり、照明機器が多く設置されている傾向があるからです。
LED照明に変更した場合のメリットは、次のとおりです。
- 消費電力を約7割~8割削減できる
- 寿命が長いため交換の手間を軽減できる
- 赤外線・紫外線の放出が少なく製造品への影響が少ない
このようにLED照明に交換するだけで、長期的な視点で効率的に電気代の削減ができるほか、多くのメリットが得られることがあります。
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■不要な照明は点灯しない
人が不在の場所や不要な照明などについては、こまめに消したり、点灯させたりしないことで節電につながります。
たとえば照明の点灯に関して、具体的には次の対策があげられます。
- 照明点灯時間の短縮
- 広告照明の消灯
- 照明の間引き
- 人感センサーの導入
照明の間引きをする際には、精密作業は1,500lx(ルクス)、通常の作業は500lx(ルクス)を目標にすることで業務に支障なく節電対策ができます。広告や看板のライトアップは、消灯が難しいようなら、点灯時間の短縮を検討してみてください。
また人感センサーを導入すると、人に反応して自動で照明をオンオフしてくれるため、やはり節電効果を期待できます。
アイリスオーヤマでは人感センサー付き照明も取り扱っていますので、ぜひ検討してみてください。
LEDダウンライト 人感センサー付き
■無線制御システムで照明の一元管理をする
LED照明を導入する際は、効率的に照明を制御できる無線制御システムの導入をおすすめします。無線制御システムは、工場や倉庫、施設の照明などを一元的に制御する設備です。
たとえばアイリスオーヤマの「LiCONEX(ライコネックス)」なら、照明を1台ごとやエリアごとに細かく制御できます。工場では、人感センサーや明るさセンサー付きの照明、人感明るさセンサー機器を使用することで、人がいる時のみ点灯させたり、外の明るさに合わせた自動制御も可能です。こうした機能により、「消し忘れ」や「不必要な明るさ」といった無駄を削減できます。
さらに、空調をはじめとした他の設備と連携させることもできます。
また、アイリスオーヤマの「LiCONEX」は、従来光源と比較して62%のコスト削減を実現可能です。(※ 1日あたり14時間、年間稼働日数365日で7年間使用した場合を当社にて想定・試算したシミュレーションです。)そのほか、システム構築のための新規配線工事が不要でタブレットによる照明制御も可能で、点灯グループの変更に柔軟に対応できるのも特徴です。
無線制御システムで照明の一元管理をしたい場合には、アイリスオーヤマの「LiCONEX」の導入をぜひ検討してみてください。
アイリスオーヤマ「LiCONEX」
【空調】工場で電気代を削減する方法
工場で空調の電気代を削減する方法は、次のとおりです。
- エアコン設定温度の適正化
- 遮熱対策で冷暖房効率アップ
- エアコンの清掃・メンテナンス
- 室外機周辺の環境整備
それぞれ詳しく解説します。
■エアコン設定温度の適正化
エアコンの温度設定を適切に管理することで、消費電力をおさえられます。工場内は生産するものや作業内容によって、最適な室温が異なります。
厚生労働省と日本産業衛生学会が示す夏場の室温の許容基準は、次のとおりです。
作業種類 | 温度 |
---|---|
極軽作業 | 32.5度 |
軽作業 | 30.5度 |
中等重作業 | 27.5~29.0度 |
重作業 | 26.5度 |
上記の室温はあくまで基準値となるため、作業場所や業種ごとに適切な温度設定をおこなうことが重要です。風量調整は自動モードにし、サーキュレーターを併用して空気を循環させると、さらに効率良く適温にすることができます。
また、ご使用のエアコン・空調の室内機に取り付けるだけで省エネを実現できる「エナジーセーバー」を導入するのもよいでしょう。
このシステムは、2つの温度センサーを活用して室温を適切に保ちながら、AIが過剰な冷却を抑制し、空調の運転を最適化します。メーカーを問わず取り付けられるので、さまざまな施設で省エネを実現できるのが魅力です。
取り付けるだけで、最大50%の省エネになる(当社調べ。スーパーマーケット、ホームセンターなどの小売業、冷蔵倉庫など10ヶ所へ導入して実証検証を行い、導入前後の電気使用量を比較。施設や状況により異なる)ため「もっと省エネに取り組みたい」「夏の電気代を削減したい」企業様はぜひご検討ください。
エナジーセーバー | 製品情報 | エアソリューション事業 | アイリスオーヤマ
■遮熱対策で冷暖房効率アップ
遮熱カーテンやブラインドなどを使って直射日光を遮ることで、冷暖房効率が向上します。西窓は14時以降、東窓は退社時に、遮熱カーテンやブラインドで窓を覆っておくと効果的です。
さらに工場の場合、遮熱塗料を屋根や外壁に塗布することで、室内の温度変化がゆるやかになるため、冷暖房効率が向上します。夏季には水平面が最も日光を浴びるため、その部分に遮熱塗料を塗布すると、太陽からの近赤外線を反射して温度上昇を軽減する効果が期待できます。なお、屋根がほぼ水平な場合は、その部分に塗ることが推奨されます。
外壁では夏に東・西壁が日光を多く受けるため、特に西壁に適用するとより大きな効果が期待できるでしょう。ただし南壁は、冬に日光の恩恵を受けることがあるので、塗料使用の検討には慎重さが求められます。
建物の実際の配置や向きにもより、最適な塗装面を判断する必要があります。
■エアコンの清掃・メンテナンス
エアコンの定期的なフィルター掃除やメンテナンスによって、消費電力をおさえることで節電が可能です。汚れで目詰まりしたフィルターは圧力損失が大きく、電力が無駄になってしまいます。また汚れたフィルターのせいでエアコンの効きが悪くなり、温度設定をしていても室内が適切な温度に保たれないという可能性もあります。
エアコンを定期的に清掃すると、1割〜3割の電力消費の削減が期待でき、節電対策に有効です。
■室外機周辺の環境整備
室外機周辺に置いている物を移動させたり、直射日光が当たらないよう日よけを設置したりすることで節電につながります。さらに、室内機の熱交換器の洗浄をすることも効果的です。
室外機周辺に物が置いてあると、空調の換気や吹き出し口の障害物となり、空気の流れが遮られ、空調効率が低下してしまいます。また、空調機の熱交換器内に付着した汚れを取り除くことで空調効率が向上し、電力消費を削減できます。室外機の周辺には物を置かず、熱交換器の定期的な洗浄をおこなうことで節電効果を高めましょう。
【生産設備】工場で電気代を削減する方法
工場で生産設備の電気代を削減する方法は、次のとおりです。
- 使わない製造機器の電源はOFFにする
- 設備の断熱対策・メンテナンス
- 生産機器のインバータ化
それぞれ詳しくみていきましょう。
■使わない製造機器の電源はOFFにする
製造機器は、電源を入れているだけでも多くの電力量を消費します。一般的なオフィス機器と比較しても、製造機器の消費電力ははるかに大きく、節電の観点では電源の管理がとても重要です。実際には使わない時間帯にも電源が入っていると、その消費電力は想像以上に膨らんでしまうかもしれません。稼働していない製造機器はこまめに電源をオフにし、節電につなげていきましょう。
■設備の断熱対策・メンテナンス
生産設備においては、設備の補強や断熱対策、メンテナンスをおこなうことで消費電力量をおさえられるケースがあります。たとえばコンプレッサーは、エアー漏れによって無駄な電力を消費してしまうことが多々あります。
コンプレッサーは次のポイントを定期的にチェックすると、エアー漏れを防いだり、早期に発見できたりというメリットがあります。
- 音がしていないか
- 手をかざしてエアー漏れがわかるか
- 石鹸水を吹き付けて変化はないか
このようなポイントをおさえて定期的にチェックし、こまめにメンテナンスしてエアー漏れを防ぐことが省エネの鍵になることを覚えておいてください。
■生産機器のインバータ化
ポンプやコンプレッサーなどにインバータ搭載の機器を導入すると、電力制御ができるようになり、電気代の削減につながることがあります。インバータとは、機械のモータ部分を制御する装置のことです。
非インバータの設備や機器では、最大出力で動作するか完全に停止するかの二択しかありません。そのため、必要な出力に応じて運転することができず、電力のロスが生じる可能性が高くなります。
一方インバータを搭載した機器では、負荷の変動に合わせて出力を微調整できるため、過不足なく適切な電力で動作させることが可能です。従って、インバータ化することで、余分なエネルギー消費を削減できるようになるということです。
工場で電気代削減を成功させるポイント
工場で電気代削減を成功させるポイントは次の2つです。
- 使用状況の見える化をおこなう
- 従業員に節電への当事者意識を持ってもらう
- DXによる業務効率化で電気代カットを目指す
それぞれ詳しく解説します。
■使用状況の見える化をおこなう
電力の見える化をおこない、使用パターンを把握すれば、効率的なエネルギー管理、コスト削減の戦略を立てられます。
電力の可視化や自動制御を可能にするために、デマンドコントロールシステムを導入するのもおすすめです。デマンドコントロールシステムは事業活動で使用する電力量を監視し、消費電力量の増加や最大デマンド値の上昇を制御する役割を果たします。
■従業員に節電への当事者意識を持ってもらう
工場での電気代削減は、経営陣だけの取り組みでは不十分です。経営陣が施策を提唱・実施しても、従業員がその目的を深く理解していないと、日常業務における節電行動は取り入れられません。
特に工場のような場所では、現場の協力が不可欠です。そのためポスター掲示や経営陣・管理職からの定期的な通達などを通じて、従業員の節電意識を促進する取り組みが必要です。
■DXによる業務効率化で電気代カットを目指す
DXを推進することで業務効率化を実現すれば、工場の稼働時間を減らし、使用電力量・電気代の削減にもつながります。
DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称です。
DXは、デジタル技術とデータを活用してビジネスの急速な変化に適応するだけでなく、業務手法や会社のカルチャーを革新し、競合に対する優越性を確立することが可能です。
工場におけるDX化では、次のような例があげられます。
- 無線制御システム:LiCONEXによる照明制御の効率化、照明効果による作業効率の向上
- loTシステム:生産設備の稼働データやデータ収集、分析などを一元管理
- 異常感知システム:AI画像分析を用いて、機械設備の異常検知が可能となることで迅速な原因特定が実現
節電だけでなく、DXの推進は将来的な競争力の向上につながるため、早期の取り組みが推奨されます。
工場の電気代は最新システムの活用で効率良く削減
工場の電気代は、生産設備や照明、空調などで多くの電力を消費することで増大しがちです。電気代の高騰が予想されるなか、節約意識を持つことは適切な予算コントロールの観点でもとても重要です。
無線制御システムやデマンドコントロールシステムを導入するなど、デジタル変革となるDX化を進めることで、照明、空調、そして生産設備の効率化と電気代の削減が期待できます。
最先端のデジタル技術を活用して、効率的に工場の電気代削減に取り組んでいきましょう。