近年、多くの学校で電子黒板の導入が進んでいます。簡単に書き込みができるデジタル黒板としてだけではなく、ICT機器を活かした新たな授業革新としても注目のツールです。
本記事ではそんな電子黒板の特徴と導入するメリット・デメリットを解説します。効果的な授業づくりや業務効率化を目指したい教員の方はぜひご覧ください。
また、後述では電子黒板を導入する場合にチェックしたい項目も解説します。どのような観点で設備選びをすればよいのか、判断材料を得ることもできるのでご活用ください。
電子黒板とは?
電子黒板とは、液晶画面もしくは映り出したスクリーンに直接タッチして操作できるデジタル黒板です。電子ペンを使って画面に直接書き込むことはもちろん、映し出された画像を直接動かす、拡大するなど、直感的な操作が可能です。
さらに黒板以外にも五線譜、方眼などに背景の変更も可能です。そのため、背景の変更や画像・動画を活用した、アナログ黒板では叶わなかった視覚的にも目新しい授業を展開できます。
そもそも教育現場で電子黒板の導入が進んだのは、平成30年3月に文部科学省が発信した「GIGAスクール構想」がきっかけです。教育現場をICT化することで多様な子どもたちが均一に資質や能力を備え、デジタル端末を使った情報活用能力を伸ばす目的があります。
■電子黒板の種類
電子黒板は大きく分けて3種類あります。映せる画面サイズや接続方法などが異なるので、使う教室や用途にあわせて選択するのがおすすめです。
また、PCレスで書き込める商品もあるため、機械が苦手な教員がいても対応ができます。
主な特徴や違いを見ていきましょう。
電子黒板の種類 | 大きさ (映せる画面サイズ) | 他デバイスとの 接続方法 | 特徴 |
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タッチディスプレイ型 | 65~70インチなど (一般的なテレビ規格が多い) | ワイヤレス/USB Type-Cなど |
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プロジェクター型 | 70~130型など | Dサブ15ピンミニ/USB Type Bなど |
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ユニット型 | ~98インチなど | ワイヤレス/USBなど |
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電子黒板の主な機能
電子黒板は従来のアナログな黒板とは違い、筆記以外にもできることが幅広いのが特徴です。そこで、ここからは電子黒板でできる主な機能を具体的に紹介します。
ただし、本記事で紹介するのはあくまでも、一般的に搭載されることが多い機能です。細かい機能の有無や仕様は製品によって異なります。欲しい機能がある場合には、気になる製品で搭載されているか都度確認してください。
■動画や画像の表示
電子黒板の最も基本的な機能として、教材にしたいデータを投影する機能があります。電子黒板とPCやスマートフォン・タブレットを接続し、端末内に保存された動画・画像・写真はもちろん、スライドやデジタル教科書の表示が可能です。
加えて画像・動画は拡大や縮小、複数データを同時に参照するほか、別端末で同時に表示もできます。柔軟な見せ方ができるため、円滑に資料共有ができるのが魅力です。
なお、電子黒板の製品によっては有線接続だけではなく、無線接続(ワイヤレス)も可能な機器もあります。無線ならいつもと違う場所でも、電子黒板の活用が可能です。
■書き込み機能
電子黒板では、画面に直接書き込みできる機能も一般的です。画像やスライド、教科書などへ直接要点などを付け足すことができます。複数人が同時に書き込むこともできるため、図形と注釈を書く人を分けるなど自由度が高い使い方が可能です。
さらに書き込むペンの色や種類も変更できます。たとえば注釈は細いペンで横に付け足し、注目して欲しい一文はマーカーで引くといった使い方ができるものが多いです。アナログ黒板ではできなかったペンの使い分けによって、わかりやすい画面作りが実現できます。
また、素早く書き込み、修正や削除も他の書き込みに影響せず簡単なのも電子ならではの強みです。チョークや黒板消しも必要ないので、ランニングコストも少なく済むでしょう。
■メジャー、図形ツール
電子黒板は教育現場やオフィスでの活用を踏まえ、メジャーや図形を作成できる機能があるものもあります。正確な長さを実寸大で表示や、角度も表示が可能です。また、図形も任意のものを作成ができるものも多く、算数や数学の科目で活用ができます。
■タイマー機能
多くの電子黒板は、タイマー機能がついています。アナログの場合には別途タイマーやスマートフォンのアラーム、時計を目視で確認するなど別途準備をしなければいけません。
しかしタイマー機能つきの電子黒板なら、黒板や教材を表示しながら時間の管理も可能です。
たとえばディスカッションや回答時間の管理も容易になるでしょう。画面に表示もできるので、教員側・生徒側ともに残り時間を把握しやすくなります。
■画面保存・録画機能
近年の最新型の電子黒板は、画面の保存・録画機能が備わっているものも多く普及しています。画像やスライドの書き込みなどの一連の流れを保存・録画ができるので、授業の記録として残すことができるのが便利な点です。
また、使った一連の画像などをもとに解説動画を作成し、生徒の復習教材として使ってもらうといったことも可能です。保存画像はオンライン授業が必要になったときにも転用できるため、幅広い活用ができます。
学校に電子黒板を導入するメリット
政府主導で教育現場へ導入が進められているとはいえ、学校に電子黒板を導入するメリットが本当にあるのかが重要です。具体的にメリットがなければ、導入しても混乱を招きかねません。
ここからは電子黒板の導入によって、実際に学校にどのようなメリットがあるのかを解説します。
■双方向の授業で生徒の意欲関心を高められる
電子黒板を使った授業は視覚的な効果で、生徒の関心を集めやすくなっています。文字だけではなく鮮明な画像や動画を投影でき、授業にメリハリが生まれるのが理由です。電子黒板を導入し、生徒が飽きにくい授業づくりができるようになったという声もあります。
また、電子黒板は生徒がタブレットから簡単に意見を提出できるため、双方向の授業が可能です。提出した意見を電子黒板で共有し、生徒間でディスカッションをさせることもできます。
ひとり一人の発信の機会が増え、個々が重視される授業になると「参加しないといけない」という意識を強めることにもつながります。参加する一生徒として自覚も出てくるので、学習に対する集中も途切れにくくなるのではないでしょうか。
多くの生徒が意見の発信に自信を持てれば、より活発な授業へ変わることも期待されます。
■情報が伝わりやすい
電子黒板は画像や教科書を映し出して授業ができるため、情報が正確に伝わりやすい効果もあります。従来のアナログ黒板は説明と板書に偏りがちで、抽象的な共有になることも少なくありませんでした。
しかし電子黒板なら、生徒とより具体的なイメージの共有が可能です。生徒と認識の齟齬が生まれにくいので、自然と内容も生徒の記憶に残りやすくなります。
加えて、拡大・縮小機能によって授業内で、どこにフォーカスしているかの誘導も容易です。わかりにくくなりがちな要点も、画面を動かし拡大を活用することで焦点をコントロールできます。
イメージや要点へのフォーカスが明確になれば、授業に置いてかれる生徒が出にくくなることも期待できるでしょう。
また、単純に視力が悪い生徒などをフォローできるメリットも大きいと考えられます。拡大機能を使えば、視力の差による情報伝達に障害が起きません。
幅広い生徒に正確に情報を伝えやすいのは、電子黒板の強みと言えます。
■授業を効率良く進められる
アナログの板書は都度黒板を消す必要がありましたが、電子黒板なら授業の書き込みを保存して授業の効率化を図れます。作ったスライドを他のクラスでも活用できるので、毎回黒板の書き方に悩まされることがありません。
加えて、前回の授業の一連の流れを保存し、次回の授業冒頭で振り返りをすることも可能です。次の授業になってみて生徒が「前回は何の話だったかな?」という疑問が解消できるので、授業導入もスムーズになります。
また、電子黒板に表示する資料は生徒に割り振られるタブレットに表示もできるので、紙のプリント配布もなくすことが可能です。さらに各生徒のタブレットから回答を回収するといったことも時間や人を使わずに簡単にできます。
配布や回収の手間を省けるため、生徒の学習時間により力を入れやすくなるはずです。
■教員の働き方改革につながる
電子黒板による授業の効率化は、教員の負担となりがちな多くの手間を削ってくれます。そのため、教員の働き方改革にもつながる可能性もあるでしょう。
たとえば前述した、板書の用意、資料作り、資料の配布・回収などが最低限の工数におさえられます。作成した資料や板書内容を再利用できるため、従来の方法より大幅に業務の効率化が可能です。
また、従来のアナログ黒板はチョークの粉の飛散がありますが、健康被害を受けるケースもあり、教育現場の問題の一つとなっていました。喘息や気管支喘息を持っている場合は病状が悪化することもあり、度重なる使用は推奨されません。
しかし電子黒板なら、チョークの健康被害や病状の悪化のリスクを抱える必要がないため、教員は安心して働けるようになります。もちろん生徒の健康被害リスクも下げることにもつながるので、双方にメリットがあるでしょう。
■消耗品コストの削減につながる
電子黒板の導入は消耗品のコスト削減につながるメリットもあります。最初の導入費用はかかりますが、アナログの黒板に必要なチョーク、黒板消しなどのランニングコストがかかりません。
また、作った資料を電子黒板や各生徒のタブレットへ表示もできるので、資料を配布するための印刷コストも大幅に削れます。毎時間、毎週、何年もかかる消耗コストを鑑みれば、長期的な面では大きな削減となるでしょう。
学校に電子黒板を導入するデメリット
電子黒板は数々のメリットがありますが、ツールの特性による障害や導入コストなどはデメリットになり得ます。導入してから対応に追われることがないように、導入にどのようなハードルがあるのかも客観的に確認しておきましょう。
■デジタル機器へのネガティブなイメージと不安
デジタル機器に苦手意識が強い教員が多い場合には、電子黒板の導入によって不安や混乱が生じやすい側面は無視できません。デジタル機器・ICT機器にどの程度慣れているかは人によって大きく異なるうえ、導入後の適応力も問われます。
適応できないと日常的な簡単な操作でも障害が起きるほか、突発的なトラブルの対応もしにくくなってしまうでしょう。使い方に躓くことが多ければ授業どころではなくなってしまいます。
授業の進行に影響を及ぼしてしまわないためには、事前に教員の不安を払拭する施策が必要です。たとえばデジタル知識の共有や使い方の研修、発展形の活用方法まで研修をおこなえば、障害なく便利なデジタル機器を存分に活用できるようになるでしょう。
■サイズによっては見えにくさを感じる場合も
電子黒板は教室の広さに合ってないなど、サイズによっては見えにくく感じてしまう場合があります。たとえば一般的な小中学校の教室へ導入するケースではディスプレイ型が導入しやすいですが、黒板より小さいサイズであることも珍しくありません。
より小さい画面でアナログ黒板と同じように板書した場合、かえって見えにくくなってしまう可能性があります。
画面の大きさの問題は、電子黒板に搭載されている拡大機能で解決できます。即座にフォントのサイズを変更すれば、任意の大きさで確認が可能です。
ただしディスプレイ自体が見にくいとなると、生徒が内容を把握できなくなるので注意してください。導入するのなら、教室のレイアウトも見えやすいように工夫を施すことをおすすめします。
■デジタル教材の少なさ
電子黒板は教育現場で拡がっていますが、まだデジタル教材が少ない点は注意が必要です。特に教育現場向けの指導用の教科書のデジタル化は進んでおらず、紙に比べて種類が限られます。
教材も分野によって対応していないものもあるので、ある程度自身で教材・資料作りが必要になると想定しておかなければいけません。
ただ、政府発信のGIGAスクール構想では、教育現場のICT化とともに効果的なデジタル教科書の活用が重要であるという見解を出しています。今後教育現場のICT化が進む過程で、デジタル教科書も増えていくことが予想されるでしょう。
■設置スペースが必要
電子黒板は導入する機器にもよりますが、ある程度の設置スペースが必要な点も注意が必要です。今までの教室へ新たに設置スペースを確保する必要があるので、教室内のレイアウトも変更する必要があるかもしれません。
もし設置スペースが限られる場合は、省スペースで設置できる方法を考えてみましょう。たとえば設置場所を床ではなく、壁掛けや天吊りも可能です。電子黒板は設置方法が幅広いため、狭い教室でも工夫すれば設置は難しくありません。
■導入コストが必要
電子黒板を学校に設置するには、黒板本体に加えペンなどのアクセサリーなどを含めた大きな導入コストが必要になります。初期投資は大きいため、初年度の予算負担は厳しい可能性が高いです。
ただ導入コストと一口に言っても、液晶の大きさや機器によってかかる予算は異なります。また、電子黒板と付随するアクセサリー類はリースできるものもあります。
あらかじめ気になるメーカーには見積もりを出してもらい、かかる費用のシミュレーションをしておくと安心です。
電子黒板の導入時にチェックしたい項目
電子黒板の導入は、その学校にあったぴったりの設備を選ぶことが重要です。あわない規格の電子黒板を選べば、実用を開始したときに障害が出かねません。
そこでここからは導入前にチェックしたい項目を紹介します。設備の製品選びに役立てることができるので、頭に入れておくとスムーズに導入が叶えられます。
各現場に最適の電子黒板を選ぶためにも、導入前にチェックしておきましょう。
■設置スペースの有無
設置スペースによって最適な電子黒板は変わるため、まずは教室に設置するスペースを確認しましょう。たとえば床スペースがある場合はディスプレイ型、スペースがない場合はディスプレイ型を天吊りするか、プロジェクター型を検討するのもよいです。
ディスプレイ型は一度設置すると場所を取ってしまいますが、プロジェクター型なら使うときだけ設置もできます。また、もし天吊りや壁掛けにすれば場所を取りにくいため、教室の状態によってはプロジェクターのほうが向いていることもあるでしょう。
教室のレイアウト変更も検討しつつ、設置スペースをどのような形で確保できそうか確認してみてください。
■使いやすさ
電子黒板を導入するとなれば日常的に使用するので、使いやすさは重要です。たとえば電子黒板とPCの接続が簡単であることはもちろん、一目見たときにメニューやアイコンがわかりやすいかもチェックしましょう。
理想はデジタル機器に不慣れな教員も研修を受ければ、簡単に使いこなせるものが好ましいです。トラブルが起きた時の対応法もわかりやすいと、導入後に困る教員が続出するといった事態を避けられます。
■導入にむけてのコスト
コスト面で導入が可能か判断するためにも、コストも把握しておく必要があります。電子機器のため、複数台を導入するとなるとコストは安くありません。予算準備の兼ね合いからも、あらかじめおおよその価格を把握できているとスムーズに進められます。
製品によっては顧客にあわせて注文を受けるものもあり、価格が明確ではないものもあります。その場合は必要に応じてメーカーに見積もりを取ってみてください。
また、電子黒板のレンタル(リース)も可能です。製品の管理が難しい場合や、ひとまずお試しで電子黒板を導入したい教育現場に向いています。
将来的な導入を検討中でも、本格的な導入にはまだ不安がある方は一度レンタルで試してみてはいかがでしょうか。
詳しくこちらからからお問い合わせください。
アイリスオーヤマ 映像ソリューション事業 HP
電子黒板を導入した学校の具体例
近年、実際に電子黒板を導入して、教育現場の変化を発信している学校もあります。
仙台市立仙台青陵中等教育学校では、2022年にプロジェクター型の電子黒板とタブレット端末を導入しました。同学校では、動画を視聴などの基本的な使い方をはじめ、生徒が集めてきた資料と教材を検証し、クラスで意見交換するといった活用がされています。
実際に導入したことで視覚的な効果が高まり、生徒の意欲や集中力が削がれにくくなったと感じた教員が多いようです。従来の授業では難しかった生徒の疑問や意見も授業へ活かせるので、双方向の授業づくりができるようになっています。
また、プロジェクター型を選んだことで教員の労力も削減できたという声もありました。PCやデータ媒体を持ち込むだけで、テレビモニターの移動や授業毎にかかる接続の苦労がなくなっています。効率化という点でも電子黒板は大きく貢献していると言えるでしょう。
今後はより生徒がICT機器を使いこなす能力を備えるため、アウトプットを増やす授業も計画しているようです。ICT機器を使った効果的な授業体制は、より一層進むことが予想されます。
※参考:教育現場でのプロジェクター活用方法とは|事例レポート|映像事業|アイリスオーヤマ
電子黒板で充実した授業づくりを叶えよう
電子黒板はより記憶に残りやすい授業づくりに役立つツールです。具体的な情報を共有や、視点をコントロールすることで要点を伝えやすくなっています。うまく活用できれば、生徒が情報をより深く理解する助けとなるでしょう。
ただし導入には、新たな設備へ対応するハードルがあります。教員が電子黒板を使いこなすための研修、教材のデジタル化などで準備に手がかかる点は否定できません。設備投資も必要です。
しかし、なにより生徒が等しく能力を備えられるようになるためには、ICT化による授業革新は教育現場の急務の課題です。電子黒板を導入できれば、今よりもさらに生徒の学びの質を上げられます。
まずは小数だけ導入するなど、本格的な導入に向けて試験導入を検討してみてはいかがでしょうか。