アイリスオーヤマは、プラスチック製品の下請け町工場「大山ブロー工業所」として創業しました。
「アイリス物語」では、現在に至るまでのアイリスグループの歴史を連載でお届けします。
第四話生活用品メーカーの誕生
オイルショック後、「こんな経験は二度としたくない」――
その一心で、好況のときに儲かるビジネスをするよりも、不況になっても損をしない商売をするべきだと猛省した健太郎は、新しい業態への転換を行います。
業態転換する際に判断基準にしたのは次の四つの条件でした。
1. 自社の強みを生かす
2. 将来性がある
3. 収益性の高い業態
4. 競合メーカーに比べて優位性がある
業態転換の条件から見つけ出した園芸マーケット
1970年代の園芸といえば、商店街の種屋さんで種を買い、肥料を買い、素焼きの植木鉢を買って育てて楽しむ、というものでした。もちろん、盆栽という日本固有の園芸もありましたが一般的には花壇園芸が主流でした。しかし、生活が豊かになるにつれ、室内で観葉植物や鉢花を楽しむ時代がくると考えた健太郎はニッチなマーケットに将来性を見出します。園芸業界の同業者を調べ、二桁の利益率を上げているという事実や、業界全体を見ても収益性は好調で、どこもそれほど大きな会社ではないことを知り、そして何より、大ヒット商品のプラスチック製の育苗箱を開発した、強みを生かすことができる業種だと確信を持っていたからです。
強みが育てたプラスチック鉢
健太郎はプラスチック製の育苗箱のノウハウを生かし、当時主流だった素焼きの植木鉢を「プラスチック鉢」にしました。素焼き鉢は重くて、落とせば割れる、長く使うとコケやカビが生えるなど、取扱いが面倒でした。それに対してプラスチックは軽くて、カラフルで、壊れにくく、安価なことから、業務用の生産鉢はプラスチックに置き変わっていきました。
一方で、生活者は早く花を咲かせたい、立派な植物に育ってほしいと水と肥料をどんどん与えるため、結局、根腐れさせてしまいます。このとき、素焼き鉢であれば、鉢自体が水を通すので、やりすぎた水は鉢の外へ流れ出てくれるのです。
そうした素焼き鉢のメリットを考慮し、プラスチックの機能を生かしながら、底をメッシュ構造にすることによって、扱いづらい植木鉢を生まれ変わらせたのです。育苗箱の製造で蓄積した植物生理に適したプラスチック鉢を強みに生かすことで、あっという間にプラスチックの園芸用品ではナンバーワンになることができました。
新たなパートナー“ホームセンター”との取引拡大
しかし、いざプラスチック製の鉢を販売してみると、季節変動要因が大きく、お客様が欲しい時は常に欠品している状態となっていました。問屋は売れ残りを恐れてメーカーへの発注を控え、ピーク時に十分に商品を供給してくれません。
また、これまでにない提案型の新商品を流通させようとしても、売れるかわからない商品よりも既存商品を扱った方が確実に売れるので、在庫リスクを取ってまで積極的に扱ってくれませんでした。
そこで、当時、急速な勢いで成長していたホームセンター業界に着目しました。1970年頃のホームセンターは、価格訴求のある商品を大量に供給してくれる有名メーカーがなかったため、新たな道を歩みはじめた当社にとって、ともに成長していくパートナーであり、お互いにWIN・WINの関係で成長できると読んだのです。
「メーカーベンダー」(製造卸)と呼ぶ業態の誕生
ホームセンターをメインの販売チャネルとして選択し、品ぞろえを増やし、売上が伸びると、ホームセンターから「取引額が問屋を上回る規模になった。問屋と同じサービスをしてほしい」と言われるようになりました。これまで、ホームセンターは配送や陳列、店頭での広報活動までを問屋に依存していました。いよいよ、「同じサービスが出来ないなら問屋を通してほしい」とまで要求されるようになりました。
そこで熟慮の末に選んだのは、自ら問屋機能を持つ「メーカーベンダー」(製造卸)と呼ぶ新しい業態でした。店頭活動にまで責任を持つとなれば、生活者の目線がますます大切になります。そして小売業の多様化する要望に応えるために、素材ありきの「業種」から、さまざまな素材とあらゆる技術を組み合わせて、売り場の品揃え視点で商品開発を行うビジネススタイルへ変貌したのです。そして、当社のマーケティングはユーザーのニーズを大前提にした「売れる仕組みづくり」へ視点が変化したことが成長の源泉ともなっていくのです。
(第五話に続く)
- 『メーカーベンダーとは?』
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アイリスオーヤマはメーカー(製造)とベンダー(問屋)の機能を併せもつことで、多くのメリットを生む独自の業態をつくりあげました。
商流コスト、物流コストなどのムダを省きつつ、お取引先様との直接取引により小売店のトレンドやニーズをリアルタイムで把握することができます。さらに「発注数=店頭販売数」として捉えることができるので、全国の単品別販売状況を細かく把握することで、販売予測システムや売れ筋分析などに活用することもできます。また製造工場と物流センターが一体化した工場では、多品種・小ロットの発注にも翌日には商品を配送することが可能です。