アイリスオーヤマは、プラスチック製品の下請け町工場「大山ブロー工業所」として創業しました。
「アイリス物語」では、現在に至るまでのアイリスグループの歴史を連載でお届けします。
第十一話ペット用品への参入
アイリスオーヤマは1987年にペット用品市場へ参入しました。それは、ホームセンターとアイリスオーヤマ双方のニーズが合致して生まれたいわば自然の成り行きともいうべき出来事でした。
当時、ホームセンターでは園芸部門とペット部門は、同じ「生物」を扱うという点で近接する関係にあると位置付けられていました。結果、双方の部門を兼務しているバイヤーや、園芸部門からペット部門へ異動してきたバイヤーが数多くいらっしゃいました。園芸用品で次々に新商品を投入していたアイリスオーヤマに対するバイヤーの期待は大きく、「ペット部門でも売れる新商品を作ってくれ」との要望や市場情報が寄せられるようになっていました。

一方当社にとっても、その声は大変ありがたい要望でした。それまでメインとしていた園芸用品は春先に需要が集中しています。結果、オフシーズンになると人も設備も持て余してしまうのです。年間を通じて売れる新商品を開発し、余剰能力を企業成長に活かしたいという思いがありました。ペット用品は園芸用品と同じくニッチ分野で、競合先に大手企業がいませんでした。また、バブル景気時代に突入しており、必需品だけでなく、余暇や憩いに対する消費意欲が高まっていました。
時を同じくして、健太郎の家でも犬を飼うことになりました。小学校に通っている子供たちが「犬が欲しい」と言い出したのです。それまでは、玄関口や勝手口に犬小屋が置かれ、番犬のように飼われていることが主流でした。猫も、ネズミ対策として飼われることが一般的でした。しかし、実際に飼ってみると、妻や子供たちからは番犬ではなく親しい家族のように愛されました。時に、毎日朝早く出かけて夜遅く帰る父親よりも親しく思えるほどに…。
しかし、犬小屋は市販のベニヤ製や飼い主が手作りでこしらえた粗末なものばかりでした。ベニヤ板製の犬小屋は水に弱く、梅雨時にはベニヤ板が膨張しカビが生えて不衛生になります。手作りのものも雨漏りがしたりすきま風が入るなど、犬にとってとても快適とは言い難いものでした。また、飼い主にとっては掃除がしにくく、抜け毛や悪臭が残りがちでした。結果、そのような空間に大切な愛犬を閉じ込める状態になっていたのです。
そこでアイリスオーヤマは、自社の技術を活かしてプラスチック製の犬小屋(商品名「ボブハウス」)の開発に着手します。水に強く、汚れても水洗いができる愛犬の住環境を考えた犬舎を企画しました。商品化のためには多額の金型投資が必要でしたが、「ペットはファミリー」という思想が愛犬家に受け入れられると信じ、リスクを恐れず市場創造に挑戦したのです。

赤と青のカラフルな屋根と清潔感のある白を組み合わせたデザインも高く評価され、「ボブハウス」は発売当初から爆発的にヒットしました。「ボブハウス」の登場で、世の中の犬小屋の主流は一気に木製からプラスチック製に置き換わっていきました。
ホームセンターからのアイリスオーヤマに対する期待感はさらに高まり、ペット用品の開発経緯と同じように、ホームセンター組織の拡張やバイヤーの異動に伴うかたちで、アイリスオーヤマの取扱う商品分野も広がっていきます。ペット用品市場での成功以後、1988年には収納・工具部門、1989年には文具、1990年には旅行用品といったように、次々と新しい分野の商品開発が進みます。「ホームセンターとともに成長する」ことを経営戦略の第一に掲げるなか、両者の経営には明らかに好循環が生まれていました。
(第十二話に続く)
- ペット用品のその後
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- 「ペットはファミリー」の認識が浸透し始めると、室内でともに暮らせる小型犬がより多く飼われるようになりました。それまでの犬用品の開発は屋外で飼うことを前提に行っていましたが、ライフスタイルの変化をとらえ新たにペット用のトイレ用品や、室内用のケージやサークル、旅行用キャリーなどを開発し、いずれも大ヒット商品となりました。「番犬からファミリーへ」というストーリーで新しいライフスタイルを思い描き、不満を解消する提案をすることで、2000年代のペットブームを生みだしたのです。