アイリスオーヤマは、プラスチック製品の下請け町工場「大山ブロー工業所」として創業しました。
「アイリス物語」では、現在に至るまでのアイリスグループの歴史を連載でお届けします。
第二十九話東日本大震災発生 被災地の若者に働く場を
東日本大震災は被災地の生活だけでなく若者たちの進路にも大きな影響を与えました。多くの新規学卒者が内定先企業を失ったり、採用内定の取消しを受けるなど苦しい思いをしました。
このような被災地の雇用情勢を考えたときに、健太郎が特に気に掛けたのが高校生の就職先でした。被災を機に進学を断念した方が多数いましたが、一般に高校生は大学生よりも就職内定率が低く、また親元の近くで働きたいという志向が強い傾向にあります。健太郎は地元企業の経営者として被災地の高校生の雇用を支える責務を強く感じました。
そこで、例年の100名の新卒採用枠とは別に「被災者特別枠」を設け、被災地から30名の高校生を採用していくことを決めました。対象は震災で自宅を失ったり、両親のいずれかを亡くした方とし、寮や社宅を準備することで生活面もしっかりサポートすることとしました。
また、それまで宮城県南部中心だった求人エリアを宮城県全域や福島県にも広げました。復興需要により土木や廃棄物処理に関わる求人は増えていましたが、製造業の求人はほとんどありませんでした。そのため、当社からの求人はメーカーや事務職を希望する方や先生方にとても喜ばれました。
翌2012年4月2日。角田I.T.Pにて被災特別枠30名を含む126名の新入社員を迎える入社式が行われました
入社式恒例の新入社員代表の挨拶。壇上に上がったのは、雫石きらりでした。出身は津波の被害が大きかった石巻市。震災後は地元の人々を勇気づけようと、ラジオ石巻「キラリとカナのスマイルプロジェクト」のパーソナリティを務め、復興の様子やボランティア活動を伝え続けました。避難生活でお風呂に入れない方に温泉でくつろいでもらおうというバスツアーでは、添乗員を務めながらたくさんの人々を笑顔にしてきました。
壇上では様々な思いが去来し涙があふれましたが、決意を健太郎に向かって必死に伝えました。「地元で被災し、先の見えない不安の中、被災者特別枠というチャンスをいただきました。被災により生活が安定していない方や被災地に様々な支援をくださった世界中の方々の生活が豊かで明るくなる商品を届けられるよう、現状に満足せず、常に目標や探求心をもちながら日々の業務に取り組み、会社に、そして社会に貢献してまいりますー。」 参列者も目頭を熱くするほどの、気持ちのこもったスピーチでした。
入社から約5年。雫石は現在、必要とされるお客様に確実に商品が届くように、国内外の情報を集め在庫をコントロールするプランナー業務を担当しています。入社式で誓った通り、重要な任務を任され充実の日々を送っています。
(第三十話に続く)