「後発」だからこそ常識を超えられる!アイリスオーヤマ ヘルスケア事業の挑戦
公開日:2025.12.18
最終更新日:2025.12.18
家電や収納用品、食品など、暮らしのあらゆるシーンでアイデアを形にしてきたアイリスオーヤマ。近年、その新たな柱として「ヘルスケア事業」を強化しています。2020年のコロナ禍では、国内でのマスク生産を開始し、2024年には赤ちゃん用紙おむつ「Genki!」ブランドのライセンス契約と生産設備の取得を発表し、赤ちゃん用紙おむつ事業に本格参入。成熟市場に挑む背景には、独自の物流戦略と生活者への想い、後発ならではの強みがありました。
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▼お話を聞いたのは…
BtoC 事業グループ メーカー事業本部 ヘルスケア事業統括部 統括事業部長 加度圭悟
2010年に入社し、関東支店に配属されリテール営業を担当。2013年に収納・インテリア事業部に異動。2015年には株式会社アイリスプラザに異動し、商品企画を担当。2020年には同社で購買本部統括マネージャーを務め、2022年にアイリスオーヤマ株式会社マスク事業部の事業部長に着任。2023年から現在のヘルスケア事業統括部の統括事業部長を務める。
マスク需要への対応で生まれた“副産物”
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で、日本ではマスクが手に入りにくい深刻な状況となりました。そのような危機的状況を受け、アイリスオーヤマでは宮城県の角田工場に30億円を投じて国産マスクの生産体制をいち早く整え、人々のマスク需要に応えました。
コロナ禍が落ち着いた現在、マスク市場は縮小したと思われがちですが、実際にはコロナ前よりも拡大しています。BtoC事業グループ ヘルスケア事業統括部 統括事業部長の加度圭悟は、「花粉やインフルエンザ対策の需要に加え、日常のエチケットや女性の化粧の簡略化などの新しいニーズが定着し、需要が標準化しています。私たちは保湿機能やカラーマスクなど付加価値商品を提供し続けています」と話します。
コロナ禍が落ち着いた現在、マスク市場は縮小したと思われがちですが、実際にはコロナ前よりも拡大しています。BtoC事業グループ ヘルスケア事業統括部 統括事業部長の加度圭悟は、「花粉やインフルエンザ対策の需要に加え、日常のエチケットや女性の化粧の簡略化などの新しいニーズが定着し、需要が標準化しています。私たちは保湿機能やカラーマスクなど付加価値商品を提供し続けています」と話します。
この国産マスクの強化に取り組んだことが、思わぬ“副産物”を生みました。それまで取引のあったホームセンターだけでなく、ドラッグストアやスーパーマーケットなどにも販路が一気に広がり、現在では約1万店舗で商品を取り扱っていただいています。
さらに、中国(大連、蘇州)と国内の工場で白マスクからカラーマスクまでを一貫生産できる体制は、国内メーカーでも随一の強みです。衛生管理の徹底されたクリーンルームなど、食品工場並みの設備はマスク以外の商品開発にも活かされています。
さらに、中国(大連、蘇州)と国内の工場で白マスクからカラーマスクまでを一貫生産できる体制は、国内メーカーでも随一の強みです。衛生管理の徹底されたクリーンルームなど、食品工場並みの設備はマスク以外の商品開発にも活かされています。
こうした「小売店とのつながり」と「自社生産設備」を活かし、アイリスオーヤマは単なる感染症対策にとどまらず、生活者の暮らしを豊かにするヘルスケア事業を拡充。スクラブクロス、清掃シート、ウェットティッシュ、眼鏡クリーナーなど、不織布技術を活かした商品を増やし、そのラインアップは約500SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理を行うための最小の管理単位)に上ります。マスク需要への迅速な対応は、結果として生活者が日常的に手にする商品展開の転機となりました。
少子化の今、赤ちゃん用紙おむつ市場に参入した理由
このヘルスケア事業において、2024年11月、アイリスオーヤマは新たな挑戦を始めました。王子ネピア株式会社からの生産設備取得と、同社との「Genki!※」ブランドのライセンス契約締結による、赤ちゃん用紙おむつ事業への本格参入です。
※Genki!は王子ホールディングス株式会社の商標又は登録商標です。
かつてのベビーブーム期には約270万人だった出生数は、2024年には68万6,061人と、70万人を下回っています。この少子化の中でのおむつ事業への参入は、業界内外に驚きを与えました。では、なぜ縮小傾向にある市場に挑むのか。その狙いは大きく二つあります。
一つは顧客との接点(タッチポイント)の早期化です。これまでアイリスオーヤマの中心顧客は30代後半以降でしたが、赤ちゃん用おむつは早ければ20代前半が購入します。これまでより約10年早く、製品とお客様が出会うことになります。おむつで当社のファンになっていただければ、その後、家電や収納用品、さらには介護用品へと、一生涯を通じてお付き合いが続くことを期待しています。
もう一つは、昨今の経済情勢への対応です。円安や物価高で実質所得が伸び悩む中、お客様は「品質は良く、価格は抑えられたコスパの良い商品」を求めています。
「アイリスオーヤマは前例にとらわれずコスト構造を見直し、家計を助ける商品提供を得意としています。『Genki!』ブランドの品質や仕様は守りつつ、今後は生活者起点でさらにブラッシュアップし、より選ばれる商品づくりに取り組む考えです」
※Genki!は王子ホールディングス株式会社の商標又は登録商標です。
かつてのベビーブーム期には約270万人だった出生数は、2024年には68万6,061人と、70万人を下回っています。この少子化の中でのおむつ事業への参入は、業界内外に驚きを与えました。では、なぜ縮小傾向にある市場に挑むのか。その狙いは大きく二つあります。
一つは顧客との接点(タッチポイント)の早期化です。これまでアイリスオーヤマの中心顧客は30代後半以降でしたが、赤ちゃん用おむつは早ければ20代前半が購入します。これまでより約10年早く、製品とお客様が出会うことになります。おむつで当社のファンになっていただければ、その後、家電や収納用品、さらには介護用品へと、一生涯を通じてお付き合いが続くことを期待しています。
もう一つは、昨今の経済情勢への対応です。円安や物価高で実質所得が伸び悩む中、お客様は「品質は良く、価格は抑えられたコスパの良い商品」を求めています。
「アイリスオーヤマは前例にとらわれずコスト構造を見直し、家計を助ける商品提供を得意としています。『Genki!』ブランドの品質や仕様は守りつつ、今後は生活者起点でさらにブラッシュアップし、より選ばれる商品づくりに取り組む考えです」
物流の常識を覆す! 「飲料水」と「おむつ」を同時に運ぶ
今回の赤ちゃん用紙おむつ事業への参入では、商品開発だけでなく、アイリスオーヤマならではの物流の強みも活かされています。おむつは「軽く」「かさ張る」ため、単体で運ぶとトラックの積載効率が低くなります。一方、静岡県の富士裾野工場で生産する「飲料水」は重いため、荷台上部に空きが生じていました。そこで注目されたのが、飲料水とおむつの混載です。重い飲料水を下に、空いた上部におむつを積むことで、輸送コストを低減しながら効率良く、おむつを運ぶことができるのです。
※画像はイメージです。
「製紙メーカーは飲料水を作らず、飲料メーカーはおむつを作らない。異なるカテゴリーの商品を自社で生産でき、直販物流網を持つアイリスオーヤマだからこそ実現できる、唯一無二のモデルなのです」
さらに、このモデルは単一業種にとどまらず、ドラッグストアやホームセンター、ECなど多様な業態で圧倒的な量を動かすことが可能です。この「業種×業態×量」のスケールメリットにより、成熟市場であるおむつでも高いコスト競争力を生み出せるのです。
さらに、このモデルは単一業種にとどまらず、ドラッグストアやホームセンター、ECなど多様な業態で圧倒的な量を動かすことが可能です。この「業種×業態×量」のスケールメリットにより、成熟市場であるおむつでも高いコスト競争力を生み出せるのです。
部門の壁を超えた「毎週のプレゼン」がイノベーションを生む
アイリスオーヤマの大山晃弘社長
アイリスオーヤマの新商品比率は60%超。部門長や担当者が一堂に会する毎週月曜日の「新商品開発会議」が、この高い開発力と新陳代謝を支えています。「会議で私が赤ちゃん用おむつのプレゼンをすると、隣のペット事業部長が『それならペット用おむつも作れる』と、その場で話がまとまります」
この会議ではすべての商品開発企画がオープンに共有されるため、縦割りの弊害はなく、赤ちゃん用おむつの設備導入が決まれば即座にペット用や介護用への応用が検討され、横展開が進みます。「毎週顔を合わせ、社長も交えて即断即決でジャッジするスピード感とシナジー効果が、ペット用おむつの好調なセールスにもつながっています」
この部門横断の連携は営業面でも活きています。例えば「ホットアイマスク」は、競合が多いヘルスケア売り場への導入が難しい商品ですが、同社が高いシェアを持つ「使い捨てカイロ」とミックスで販売することで、冬場の売り場でも展開可能です。「業種×業態×量」の強みと部門間協力の文化が、こうした独自の提案を可能にしています。
この会議ではすべての商品開発企画がオープンに共有されるため、縦割りの弊害はなく、赤ちゃん用おむつの設備導入が決まれば即座にペット用や介護用への応用が検討され、横展開が進みます。「毎週顔を合わせ、社長も交えて即断即決でジャッジするスピード感とシナジー効果が、ペット用おむつの好調なセールスにもつながっています」
この部門横断の連携は営業面でも活きています。例えば「ホットアイマスク」は、競合が多いヘルスケア売り場への導入が難しい商品ですが、同社が高いシェアを持つ「使い捨てカイロ」とミックスで販売することで、冬場の売り場でも展開可能です。「業種×業態×量」の強みと部門間協力の文化が、こうした独自の提案を可能にしています。
「アイリスならではの発想」でヘルステックに革新をもたらす
これからの日本は、高齢化に伴う介護負担や医療費増加の問題がより深刻化していきます。アイリスオーヤマのヘルスケア事業部では、この「超・高齢化社会」を見すえ、社会課題の解決に取り組んでいます。
まず目指すのは、「実質的な経済負担の軽減」です。介護用おむつであれば、同じ価格でも吸収量を増やして交換回数を減らすなど、介護する側の負担を軽減する品質面での工夫が欠かせません。こうした商品開発に力を入れています。
もう一つは、「自分の身は自分で守る」ためのヘルステック領域での商品開発です。市場には高機能なスマートウォッチや健康管理デバイスが多数ありますが、価格が高く、一部の健康意識の高い層にしか普及していません。ここにアイリスオーヤマならではの「Simple(シンプル)・Reasonable(リーズナブル)・Good(グッド)」の「SRG」のモノづくりを反映させることです。
「高機能すぎて使いこなせないものではなく、必要な機能に絞り、誰もが手に取りやすい価格で提供したい。Bluetooth搭載の血圧計や、ゲーム感覚で楽しみながら健康管理できるアプリなど、家電メーカーならではの発想で挑戦しています」
ペット用品、LED、家電など、アイリスオーヤマは常に「後発組」として市場に参入し、常識を超えた「アイデア」でヒット商品を生み出し続けてきました。スティッククリーナーや「CHEF DRUM(シェフドラム)」に代表されるように、「当たり前にとらわれない」からこそ、生活者の声に純粋に耳を傾け、困りごとを解決する発想が生まれます。
まず目指すのは、「実質的な経済負担の軽減」です。介護用おむつであれば、同じ価格でも吸収量を増やして交換回数を減らすなど、介護する側の負担を軽減する品質面での工夫が欠かせません。こうした商品開発に力を入れています。
もう一つは、「自分の身は自分で守る」ためのヘルステック領域での商品開発です。市場には高機能なスマートウォッチや健康管理デバイスが多数ありますが、価格が高く、一部の健康意識の高い層にしか普及していません。ここにアイリスオーヤマならではの「Simple(シンプル)・Reasonable(リーズナブル)・Good(グッド)」の「SRG」のモノづくりを反映させることです。
「高機能すぎて使いこなせないものではなく、必要な機能に絞り、誰もが手に取りやすい価格で提供したい。Bluetooth搭載の血圧計や、ゲーム感覚で楽しみながら健康管理できるアプリなど、家電メーカーならではの発想で挑戦しています」
ペット用品、LED、家電など、アイリスオーヤマは常に「後発組」として市場に参入し、常識を超えた「アイデア」でヒット商品を生み出し続けてきました。スティッククリーナーや「CHEF DRUM(シェフドラム)」に代表されるように、「当たり前にとらわれない」からこそ、生活者の声に純粋に耳を傾け、困りごとを解決する発想が生まれます。
「ヘルステックでも、アイリスならではの発想で、これまでの常識にとらわれない画期的な商品を生み出せる自信があります」
後発参入だからこその自由な発想と、「業種×業態×量」の強みを掛け合わせた戦略、そして何より「生活者の不満を解決したい」という情熱。アイリスオーヤマのヘルスケア事業は、日本の暮らしをやさしく、力強く支えるインフラへと進化しようとしています。
後発参入だからこその自由な発想と、「業種×業態×量」の強みを掛け合わせた戦略、そして何より「生活者の不満を解決したい」という情熱。アイリスオーヤマのヘルスケア事業は、日本の暮らしをやさしく、力強く支えるインフラへと進化しようとしています。