

「被災企業」だからこそ、責任がある。必要な物資を蓄え、届けるアイリスオーヤマの防災への取り組み
公開日:2024.08.30
最終更新日:2025.06.01
アイリスオーヤマでは、私たちの生活を便利にする家電や生活用品だけでなく、万が一の災害に備えた防災用品を展開しています。転機となったのは、2011年に発生した東日本大震災。宮城県を拠点とするアイリスオーヤマも大きな被害に遭った経験をきっかけに、防災用品の開発や、パックごはん・飲料水の製造に力を入れるようになりました。近年では地方自治体など地域と連携し、災害時における物資供給や復興支援などに取り組んでいます。アイリスオーヤマの防災事業と地域社会の持続的な発展に向けた取り組みを紹介します。

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▼お話を聞いたのは…

執行役員 管理本部本部長 田中 伸生
1994年に入社し、システム部に配属。1997年に米・ウィスコンシン工場に駐在。2003年からアイリスプラザでEC事業を担当後、2015年に中国大連のアイリスオーヤマ発展有限公司に統括部長として着任。2019年から秘書室に異動し、2024年から管理本部にて総務部・人事部・秘書部などを管轄する執行役員本部長を務める。
防災に注力する転機は「東日本大震災」
――アイリスオーヤマが、防災への取り組みに力を入れるようになったきっかけからお聞かせください。

転機となったのは、やはり2011年3月11日の東日本大震災です。防災用品は以前から家具転倒防止棒や転倒防止粘着マットなどを取り扱っていたのですが、東日本大震災が大きな契機となり、その後は防災用品のラインアップを大きく拡充していきました。また、当時の社長の大山(健太郎/現会長)が復興庁の復興推進委員の委員を務めていたこともあり、東北地方の復興支援にも力を入れています。

まず、津波の被害に遭った東北の米農家を支援するため、2013年に宮城県の農業生産法人と共同出資で「舞台アグリイノベーション株式会社」を設立し、精米事業をスタート。2014年には亘理町に精米工場を新設し、生鮮米の販売を開始しました。「低温製法」という最新鋭の精米技術によってお米の美味しさを最大限に引き出し、新米の鮮度を保ったまま日本全国・世界へ流通させることのできるのが大きな強みです。

飲料事業も、震災を機に新たに立ち上げた事業の一つです。私自身、震災が起こった当時はインターネット通販の「アイリスプラザ」事業の店舗運営を担当していましたが、ちょうど東京電力福島第一原子力発電所の事故のニュース が流れるや、アイリスプラザの飲料が瞬時に売り切れてしまったという経験をしました。また、スーパーやコンビニなどの実店舗からも飲料水がすぐ売り切れてしまうのを目の当たりにしました 。

アイリスオーヤマ富士裾野工場
これからは首都直下地震、南海トラフ地震など、大規模な震災がいつ発生してもおかしくない状況です。そのような大規模災害発生の際に、被災各地に生命と衛生環境維持に必要不可欠な飲料水を供給する体制を早期に構築できるよう新たに飲料事業に参入することを決意し、2021年に富士小山工場(静岡県)において天然水と強炭酸水の本格生産・出荷を開始しました。 また、2023年に富士裾野工場(静岡県)、2024年に鳥栖工場(佐賀県)でもそれぞれ飲料水の生産を開始しています。
――震災後は被災した当事者である一方、同時に支援物資を届ける活動も 。

そうですね。震災が起きた当初は、「被災地で手伝いをしたい」と懇願する社員も少なからずいたのですが、私たちとしては取り扱っている生活用品を滞りなく届けることが、まずは復興支援につながると判断し、社長の大山(健太郎/現会長)からも「できる限り今の仕事を継続してほしい」という話があり、引き続きインターネット販売の事業を継続していました。
物資の出荷に関しては、幸いにしてアイリスオーヤマでは全国に物流倉庫が併設された工場があり、関東や関西に立地する工場から必要に応じて物資を供給する体制が構築されていたことで、物流を滞らせることなくお届けすることができました。
物資の出荷に関しては、幸いにしてアイリスオーヤマでは全国に物流倉庫が併設された工場があり、関東や関西に立地する工場から必要に応じて物資を供給する体制が構築されていたことで、物流を滞らせることなくお届けすることができました。
メーカーベンダーならではの物資の備蓄と供給ネットワーク

――お米や飲料をはじめ、災害時に必要な物資は、迅速かつ確実に届ける供給責任が求められると思います。どのような供給体制を敷いているのでしょうか。
アイリスオーヤマは単に商品を製造するだけでなく、商品を在庫、供給する機能も備えた「メーカーベンダー」であることが大きな特徴です。そのような拠点が全国各地にあるので、必要な物資を迅速に供給するネットワークが構築されています。
また、災害時には当然ながら発災直後、1日後、1週間後と時間軸で必要とされる商材が変化していきます。災害が起きた直後には被害を最小化するための減災グッズで身の回りを整備し、その次にパックごはんや飲料を備蓄していく、といったイメージです。
アイリスオーヤマ社内には、販売に関する過去を含めたデータが蓄積されているので、どのタイミングで何が売れるのかを分析できます。それらのデータをもとに販売傾向をつかみ、在庫量を維持・調整しながら、いつ災害が起きても対応できるように必要な物資を確保しています。
また、災害時には当然ながら発災直後、1日後、1週間後と時間軸で必要とされる商材が変化していきます。災害が起きた直後には被害を最小化するための減災グッズで身の回りを整備し、その次にパックごはんや飲料を備蓄していく、といったイメージです。
アイリスオーヤマ社内には、販売に関する過去を含めたデータが蓄積されているので、どのタイミングで何が売れるのかを分析できます。それらのデータをもとに販売傾向をつかみ、在庫量を維持・調整しながら、いつ災害が起きても対応できるように必要な物資を確保しています。
――物資をスピーディーに供給するには、人的な支援体制も重要に 。

例えば私が在籍している角田工場(宮城県)には、社員の福利厚生向けのスポーツセンターがあるのですが、そこが高台に立地していることから角田市の避難場所に指定されています。また、同じ敷地内には社員が居住する寮が併設されています。そのため、災害時には社員がすぐに初動体制をとり、物資を供給する体制ができています。
実際に大雨が起きて避難指示が出た際には、寮に住んでいる社員が機転を利かせて住民の方々をスポーツセンターに誘導するとともに、同じ敷地内にある工場に備蓄されている飲料水やパックごはんを迅速に提供することができました。
実際に大雨が起きて避難指示が出た際には、寮に住んでいる社員が機転を利かせて住民の方々をスポーツセンターに誘導するとともに、同じ敷地内にある工場に備蓄されている飲料水やパックごはんを迅速に提供することができました。
広がりつつある、地域との連携

【石巻市と包括連携協定を締結】左:アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役会長 大山 健太郎、右:宮城県石巻市長 齋藤 正美様
――角田市での災害対応のお話もありましたが、アイリスオーヤマでは地方自治体との防災協定も積極的に締結していますね。
現在(2024年8月末時点)アイリスオーヤマでは、防災に関する連携協定を19の地方自治体と締結しています(防災関連協定:13団体、包括連携協定:6団体、うち仙台市、角田市、裾野市は両協定を締結)。
包括連携協定に関しては防災・減災だけでなくICT教育、観光、脱炭素化、産業振興など多様な行政分野で相互の連携を図っています。
これまでの活動を評価いただき、協定に関するお問い合わせやご相談を多くの自治体からいただいている状況です。ただ、もちろんですが締結がゴールではなく、締結した先には私たちも被災地支援に対する責任が生じます。協定締結にあたっては、災害時に必要な物資を確実にお届けできるか、各自治体の方々と慎重なすり合わせを行っています。
包括連携協定に関しては防災・減災だけでなくICT教育、観光、脱炭素化、産業振興など多様な行政分野で相互の連携を図っています。
これまでの活動を評価いただき、協定に関するお問い合わせやご相談を多くの自治体からいただいている状況です。ただ、もちろんですが締結がゴールではなく、締結した先には私たちも被災地支援に対する責任が生じます。協定締結にあたっては、災害時に必要な物資を確実にお届けできるか、各自治体の方々と慎重なすり合わせを行っています。
――また、取引先であるコンビニエンスストア、スーパーなどの小売業各社とは「エマージェンシー契約」を締結しています。これはどういった内容の契約でしょうか。
ホームセンター各社と取り決めした数量を在庫として保管しておき、有事が発生した際に供給する契約です。本来は各店舗に買い取っていただき、在庫していただくのがベストなのですが、各店舗ともスペースに限りがありますし、賞味期限の管理も負担となります。そこで、我々の工場倉庫で賞味期限の管理をしながら、緊急時のためのバッファとして責任をもって在庫管理させていただく契約内容となっています。
――この防災協定にもとづき、実際に災害が生じた際に物資供給などを実践した事例はあるのでしょうか 。

直近では2024年7月1日 、アイリスオーヤマの工場が立地する滋賀県米原市で大雨による洪水災害が生じ、周辺住民の方々が避難を余儀なくされました。その際は地元自治体の米原市と締結した「災害時における生活必需物資の供給に関する協定」 にもとづき、翌日には避難所に冷蔵庫や電子レンジなどの物資を届けました。
また、2024年1月1日に発生した能登半島地震の際は、その日のうちに角田工場に社員が集まり、飲料水や使い捨てカイロ、ブルーシートなどの支援物資をトラックに積み、翌2日には取引先をはじめ被災地に届けました。 避難所には家具家電セット、エアーベッドなどを供給しました。
この能登半島地震の際は、私も実際に工場内での指揮にあたったのですが、当日は地元自治体や取引先からさまざまな依頼が殺到していました。ただ、現場の社員は一を言っただけでも十動いてくれる者ばかりなので、私としても安心して対応を任せることができました。
また、2024年1月1日に発生した能登半島地震の際は、その日のうちに角田工場に社員が集まり、飲料水や使い捨てカイロ、ブルーシートなどの支援物資をトラックに積み、翌2日には取引先をはじめ被災地に届けました。 避難所には家具家電セット、エアーベッドなどを供給しました。
この能登半島地震の際は、私も実際に工場内での指揮にあたったのですが、当日は地元自治体や取引先からさまざまな依頼が殺到していました。ただ、現場の社員は一を言っただけでも十動いてくれる者ばかりなので、私としても安心して対応を任せることができました。
「防災の日」を、日ごろの備えについて話し合うきっかけに

――災害が発生すると同時に迅速に初動対応にあたる、アイリスオーヤマのカルチャーはどのように根づいたのでしょうか。
やはり東日本大震災が大きなきっかけとしてありますね。被災を経験した当事者の社員もかなり多く、その際は逆に他の自治体や企業から助けていただいたので、恩返しをしたいとの思いも多少なりともあるのだと思います 。
また、震災の際に、グループ会社であるホームセンター・ダイシン気仙沼店の店長が、自らの判断で灯油を近隣住民の方々に無料でお配りしたことがありました。そのエピソードが、有事の際にアイリスグループの社員がとるべき行動規範として全社で共有されているので、災害に対しては被災者のことを最優先に行動するカルチャーが醸成されているのだと思います。
――9月1日は防災の日。日ごろの災害への備えについてメッセージをお願いします。

防災の日をはじめ、東日本大震災や阪神淡路大震災など、災害大国・日本では節目節目で防災について考えるきっかけがあると思います。その際に、近所の避難経路を確認する、家の中にある防災グッズを見直すなど、ご家族で防災・減災について考え、話し合う機会にしていただきたいです 。

アイリスオーヤマでは、震災を実際に経験した防災士の社員が考案した、防災・減災に関する商品のラインアップを取り揃えています。女性の方が必要とされる衛生用品や、高層マンションにお住いの方向けのローリングストック(少し多めに食材、加工品を買っておき、日常生活で消費しながら備蓄する方法) に関する商品、避難所で安心して着替えができるポンチョ、睡眠のとれるエアーベッドなど、さまざまなニーズに対応した商品の拡充に努めています。
当社の防災に関する特設サイトでも、防災・減災への備えの必要性を呼びかけています。家族構成やお子様の有無などによって揃えるべきものをわかりやすく掲載しているので、家族で防災・減災について考えるきっかけとしてぜひご覧いただき、身を守る備えを整えていただきたいです。
防災の達人にきいた「もしもの備え」は、こちらの記事を参考に。