冷凍室が“主役”の冷蔵庫誕生! 食生活の変化に応える“大凍量シリーズ”開発秘話
公開日:2025.12.12
最終更新日:2025.12.12
共働きの増加やライフスタイルの変化により、家庭では冷凍食品や作り置きの活用がますます広がっています。そんなニーズに応える形で、“冷凍室がほぼ半分”を占める新発想の冷蔵庫「大凍量」シリーズが誕生しました。この記事では、開発の裏側とユーザー視点の魅力を、開発担当者と家電ライターの視点から解説します。
INDEX
- 冷凍室が主役の冷蔵庫、登場
- なぜ「冷凍重視」の設計に?
- ──冷凍室が容量の約半分を占める「大凍量」シリーズ。この大胆な開発コンセプトについて教えてください。
- ──どのような変化があったのでしょうか?
- ──冷凍室を増やしてほしいという声も多かったのでしょうか?
- ──そこで野菜室に着目した?
- ──なるほど。野菜室を縮めて冷凍容量を確保したと。
- ──容量の約半分を冷凍室にしたのは大きな決断ですよね!
- 冷凍だから「手間なく、おいしく」
- ──冷凍庫のニーズはどのように増えていったのでしょうか?
- ──冷凍庫にはどのような食品が増えているのでしょう?
- ──ソフト冷凍や急速冷凍という機能も打ち出していますが、こちらについても教えてください。
- ──急速冷凍はどんな特徴がありますか?
- 現代の「冷蔵庫のあり方」を再定義
- ──冷凍室が3段構成になっていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。
- ──3段トレーだと管理がしやすそうですね。
- ──調理のしやすさにもつながりそうですね。
- ──デザイン面で、表面にロゴがないのも印象的でした。
- ──冷蔵庫市場の今後をどう見ていますか?
- ユーザーの“リアルな声”から生まれる次の一手
- ──この製品は440Lほどですが、今後のサイズ展開はどのように考えていますか?
- ──個人的には500Lオーバーもほしいと思っています。
- ──大凍量に今後加えたい機能はありますか?
- 冷凍上手が増える冷蔵庫
家電ライター 栗山琢宏
家電からPC、デジタルまでさまざまなジャンルに精通し、雑誌、書籍、Webなど幅広いメディアで活躍する。また、料理が得意で、友人や知人に振る舞う機会も多い。
冷凍室が主役の冷蔵庫、登場
「冷凍を日常的に使う暮らし」が定着する一方で、冷凍室の容量不足に悩む家庭が増え、冷蔵庫に求められるニーズも変化してきました。アイリスオーヤマの調査でも、冷蔵庫の不満の上位は「冷凍スペースの不足」。こうした声を受け、2025年6月に“全容量の約半分が冷凍室”という新発想の「大凍量」が誕生しました。
一般的な500Lクラスでも冷凍室は100L台が主流ですが、大凍量「IRSN-HF44A」は全容量439Lのうち223Lが冷凍室という大胆設計。まさに“冷凍室が主役”の冷蔵庫です。
この革新的な冷蔵庫はどのように生まれたのか。
開発を担当したアイリスオーヤマ 大型家電事業統括部・冷蔵庫事業部の高橋亮太さんに、その背景を伺いました。
一般的な500Lクラスでも冷凍室は100L台が主流ですが、大凍量「IRSN-HF44A」は全容量439Lのうち223Lが冷凍室という大胆設計。まさに“冷凍室が主役”の冷蔵庫です。
この革新的な冷蔵庫はどのように生まれたのか。
開発を担当したアイリスオーヤマ 大型家電事業統括部・冷蔵庫事業部の高橋亮太さんに、その背景を伺いました。
▼お話を聞いたのは…
アイリスオーヤマ 大型家電事業統括部・冷蔵庫事業部 高橋亮太
2018年に入社し、小売り向け営業を担当。2022年より大型家電事業部へ異動し、現在は冷蔵庫事業部事業部長を務めている。
なぜ「冷凍重視」の設計に?
──冷凍室が容量の約半分を占める「大凍量」シリーズ。この大胆な開発コンセプトについて教えてください。
高橋さん:一番のテーマは、現代の食生活が大きく変化しているにもかかわらず、冷蔵庫の設計が従来のままだったということです。そこで「冷蔵庫の新たなスタンダードを作る」ことを目指しました。
──どのような変化があったのでしょうか?
高橋さん:コロナ禍以降、冷凍食品市場が急拡大し、家庭でも“冷凍を前提とした”食生活が広がりました。一家で2台目の冷凍庫を持つくらい私たちの生活は大きく変わっているのに、冷蔵庫の構造はほぼ変わっていない点に課題を感じたんです。
──冷凍室を増やしてほしいという声も多かったのでしょうか?
高橋さん:はい。調査でも3割近い方が「冷凍容量不足」を強く感じていると回答しています。我が家でもいつもパンパンです。とはいえ、セカンド冷凍庫を置くスペースがない家庭も多い。そこで、冷蔵庫自体で容量を確保する方法を探しました。
──そこで野菜室に着目した?
高橋さん:そうです。多くの家庭では、週に1回まとめて買い物をし、野菜室に“1週間分”の食材を入れています。しかし、野菜室が大きすぎるため、飲み物やチルドデザートなど、必要ない食材も一緒に入れてしまいます。その結果、鮮度の高い野菜が奥に追いやられ、見えなくなってしまい、最終的には捨ててしまうことに。そこで、私たちは、必要な1週間分だけが入るようにサイズを再設計し、余ったスペースを冷凍室に振り分けることにしました。
──なるほど。野菜室を縮めて冷凍容量を確保したと。
高橋さん:はい。その結果、セカンド冷凍庫級の容量を冷蔵庫1台で実現できました。再設計した野菜室も密閉性が高まって野菜の鮮度保持にもつながるという副次的なメリットもあります。
──容量の約半分を冷凍室にしたのは大きな決断ですよね!
高橋さん:インパクトを持って新スタンダードを打ち出すためにも、「半分」というわかりやすい構造にしました。単なる容量増ではなく、「これからの暮らしに合う冷蔵庫とは何か」を再定義したかったんです。
冷凍だから「手間なく、おいしく」
──冷凍庫のニーズはどのように増えていったのでしょうか?
高橋さん:コロナ禍を機に冷凍食品市場が急拡大し、円安や節約志向も影響して需要が高まりました。多くのご家庭で外食を控え、自宅での食事を重視する中、冷凍食品は手軽で便利な選択肢として支持され始めました。加えて冷凍技術の進化により品質が向上し、栄養価の高い食事を簡単に準備できるようになったことで、冷凍庫の需要も増加。家庭でのまとめ買いやストックの習慣が定着し、私たちの食文化は新たな形へと変わってきていると感じます。
──冷凍庫にはどのような食品が増えているのでしょう?
高橋さん:定番の冷凍食品に加え、価格高騰を背景に冷凍野菜の需要も増加。スイーツやパン、大容量パック、コンビニの冷食など、ラインナップはさらに広がっています。
──ソフト冷凍や急速冷凍という機能も打ち出していますが、こちらについても教えてください。
高橋さん:ソフト冷凍は−7℃で緩やかに凍らせるため、通常の−18℃ほど硬くならず、包丁で切りやすいのが特徴です。冷蔵より長く、冷凍ほど固くしない“中間の保存”ができ、肉や魚を1〜2週間おいしく保てます。細胞を壊しにくいため、刺身の柵などもドリップが出にくく、質を保ったまま使えます。
──急速冷凍はどんな特徴がありますか?
高橋さん:急速冷凍は短時間で一気に凍らせ、細胞を壊しにくい方法です。アルミプレートで最大約40%早く冷凍でき、味や栄養の劣化を抑えられます。作り置きや下ごしらえにも使いやすく、忙しい家庭の強い味方になる機能です。
現代の「冷蔵庫のあり方」を再定義
──冷凍室が3段構成になっていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。
高橋さん:冷凍容量を増やすだけでなく、「使いやすさ」に徹底的にこだわりました。従来の冷凍庫は食材を積み重ねてしまいがちで管理が難しいため、大きい食材向けの深型・中型くらいの深さの段・薄型トレーという3段構成にしました。大容量パックから定番品、トレンドの冷食弁当などまで、幅広い用途に対応できる設計です。
──3段トレーだと管理がしやすそうですね。
高橋さん:当社は「ユーザーの声」を最優先する文化が強く、使いやすさも重要な開発要素です。今後はさらに用途に合わせたトレーのバリエーションを拡充したいと考えています。
──調理のしやすさにもつながりそうですね。
高橋さん:はい。薄型トレーは肉や魚の冷凍保存にも最適で、下味冷凍にも向いています。冷凍を“作り置きの延長”として使えるようにすることが、大凍量シリーズが提案する新しい暮らし方の一つです。
──デザイン面で、表面にロゴがないのも印象的でした。
高橋さん:当社調査では、購入時に重視されるポイントの上位が「冷凍容量」と「デザイン性」。家具との調和を重視し、ロゴが“生活感を崩す”という声も多く寄せられました。そのため、あえてロゴを排し、空間になじむデザインとしました。最近は他社でも同様の動きがあり、生活者の価値観変化を反映した判断です。
──冷蔵庫市場の今後をどう見ていますか?
高橋さん:冷蔵庫は普及率が高く長寿命の家電なので市場自体は大きく伸びませんが、冷凍ニーズの高まり、省エネ、デザイン性などを軸にした買い替え需要は今後も続くと考えています。また住宅の狭小化が進む中で、サイズ感を重視するユーザーも増えています。今後は「限られたスペースで最大の効率をどう生み出すか」という観点からの商品開発が求められると感じています。
ユーザーの“リアルな声”から生まれる次の一手
──この製品は440Lほどですが、今後のサイズ展開はどのように考えていますか?
高橋さん:もともとは30代前後の若年ファミリー層を想定していましたが、販売を続ける中で、最も時短を求めているのが20代後半の共働きカップル層や新婚層で、実は300L台の中容量帯にも大きな需要があることがわかりました。さらに一人暮らし世帯も勤務時間が長く、冷食ニーズが非常に高い層です。こうした幅広い層に向け、今後は中容量帯モデルのテスト販売も進めたいと考えています。
──個人的には500Lオーバーもほしいと思っています。
高橋さん:500Lモデルはまだありませんが、検討を進めています。昨年、40〜50代の子育てファミリー層に冷凍庫を訴求したところ非常に好調でした。食べ盛りの子どもがいる家庭が実は最も重要なターゲットユーザーであることに気づきました。もともとは若年層ファミリー世帯をペルソナとして考えていましたが、今後はこの層に向けた大型容量帯にも力を入れていきたいと考えています。
──大凍量に今後加えたい機能はありますか?
高橋さん:実は、ユーザーは冷蔵庫に多機能さをあまり求めていません。付属機能を使いこなしている人は少なく、メーカー側の高機能化とユーザーのニーズが乖離しているのが現状です。私たちは“使いやすさ”や“収納性”を重視し、機能を盛り込みすぎない方向で開発を進めています。
アイリスオーヤマの開発手法は「ユーザーイン」です。私たちは常に「ユーザーの代弁者」として、生活者の視点でものづくりを追求し続けたいと考えています。
アイリスオーヤマの開発手法は「ユーザーイン」です。私たちは常に「ユーザーの代弁者」として、生活者の視点でものづくりを追求し続けたいと考えています。
冷凍上手が増える冷蔵庫
大容量パックの肉や魚も気軽に保存でき、薄切り肉の解凍の手間もソフト冷凍でぐっと軽減。冷凍食品や作り置きを上手に取り入れれば、忙しい日の食事作りがぐんと楽になります。
さらに、3段トレーの冷凍室は“どこに何があるか”を把握しやすく、食材が迷子になりにくい設計。小ぶりに見える野菜室も必要量がしっかり収まり、密閉性の高さから食材が長持ちし、食品ロスの削減にもつながります。
大凍量は、冷凍を“特別な保存”から“毎日のあたりまえ”へ。冷凍が生活にもっと自然に溶け込み、家事の負担をそっと減らしてくれる——そんな暮らしのアップデートを叶えてくれます。
さらに、3段トレーの冷凍室は“どこに何があるか”を把握しやすく、食材が迷子になりにくい設計。小ぶりに見える野菜室も必要量がしっかり収まり、密閉性の高さから食材が長持ちし、食品ロスの削減にもつながります。
大凍量は、冷凍を“特別な保存”から“毎日のあたりまえ”へ。冷凍が生活にもっと自然に溶け込み、家事の負担をそっと減らしてくれる——そんな暮らしのアップデートを叶えてくれます。
