

アイリスオーヤマが「なるほど!」なヒット商品を生み出せる秘密とは?「アイデア」の源を社長に聞いてみた
公開日:2022.11.02
最終更新日:2024.02.21
アイリスオーヤマの歴史は1958年、東大阪の小さな町工場からスタートしました。以降、50年以上にわたって、私たちを「なるほど!」と思わせるユニークな商品を生み出し続けています。2021年からは、新たなコーポレートメッセージ「アイ ラブ アイデア」を展開し、全社一体となってアイデアあふれる商品作りに力を入れています。今回はその「アイ ラブ アイデア」に込められた想いや、新たなアイデアを生み出し続けるその秘訣について、代表取締役社長の大山晃弘氏に取材しました。
INDEX
- 「アイ ラブ アイデア」のメッセージに込めた想い
- ―アイリスオーヤマでは、2021年に新しいコーポレートメッセージ「アイ ラブ アイデア」を発表しました。そのメッセージに込めた大山社長の想いを伺えますか。
- 「アイデア」は「ユーザーになりきる」ことで生まれる
- ―アイリスオーヤマでは、「アイデア」を大事にしながら、1年間に1,000点以上の新商品を生み出していると聞きました。その中でも、大山社長にとって思い入れのある商品はありますか?
- ―大山社長はどういうときに「アイデア」をひらめくのですか?
- ―えっ!掃除に4時間も!?
- ―社員の皆さんがたくさんのアイデアを生み出せるように、社長として意識していることはありますか?
- ―毎週月曜日の「新商品開発会議」も、皆さん真剣そのものでした。そこでの社員への声掛けや指導において心がけていることはありますか?
- 失敗から学んだ「わかりやすさ」の大切さ
- ―「失敗」というワードが出ましたが、社長ご自身の失敗談をお伺いしてもよろしいでしょうか・・・?
- ―確かに、「CHEF DRUM」などは見た目のインパクトもあるし、ネーミングもわかりやすいですよね。
- 「お客さまの生活を便利に」の先にあるビジョン
- ―2018年に、現会長の後を継いで社長に就任し、現在5年目を迎えています。これまでの歩みを振り返りながら、いま感じていることをお聞かせください。
- ―今後、アイリスオーヤマとして力を入れていきたい分野があれば教えてください。

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「アイ ラブ アイデア」のメッセージに込めた想い

―アイリスオーヤマでは、2021年に新しいコーポレートメッセージ「アイ ラブ アイデア」を発表しました。そのメッセージに込めた大山社長の想いを伺えますか。
よく「アイリスオーヤマってどんな会社ですか?」って周りから聞かれるのですが、当社はペット用品から家電まで、取り扱っている商品がとにかく多い。だから、社員も説明に苦労していたんです。
かくいう私自身も「う~ん……『生活用品一般メーカー』ですかね?」などと言ってみたり(笑)。でも、どうもしっくりこない。それで、「アイリスオーヤマとはこういう会社です!」と一言で伝えられるメッセージが必要だと思い、コーポレートメッセージをつくることにしました。

最初は「商品」の中から当社を一言で表すキーワードを探してみたのですが、なにせ膨大にあるのでなかなか見つかりません。それなら「商品」ではなく「大事にしていること」にフォーカスしてみよう、と視点を変えてみた。すると、そこで「アイデア」というキーワードが浮かびました。
アイリスオーヤマは、世の中の常識にとらわれずに新しい商品を提案することで、世の中に変化をつくりだす企業です。その新しい商品を形にするのに、何よりも大事にしているのが「アイデア」。アイデアこそが、アイリスオーヤマという会社の源泉なんです。ということで「アイデアを愛し、アイデアで愛される会社であり続けたい」という想いを込め、「アイ ラブ アイデア」というコーポレートメッセージを策定しました。
「アイデア」は「ユーザーになりきる」ことで生まれる
―アイリスオーヤマでは、「アイデア」を大事にしながら、1年間に1,000点以上の新商品を生み出していると聞きました。その中でも、大山社長にとって思い入れのある商品はありますか?

たくさんありすぎて絞れないですが、しいて挙げるなら、最近でいうと「CHEF DRUM(シェフドラム)」かな?
私もプライベートでよく料理をしますが、炒め物って簡単に見えて、けっこう手間を取られますよね。フライパンの前から片時も離れず、焦げないように常にかき混ぜて…。「この作業が自動でできたらいいのにな」と思っていたところに、業務用のかくはん調理器をもとに商品化するアイデアを社員が提案してくれた。これはもう「すばらしい!」と思いました。私も使い手としてアドバイスしながら、社員と一緒にアイデアを形にしていきました。
実際に使ってみて、料理が本当にラクになりましたね。お子様のいるご家庭ならナポリタンがおススメです。野菜や肉をカットして入れれば、あとは勝手に回転して炒めてくれる。最後にゆでたパスタとケチャップソースを入れるだけでおいしいナポリタンが完成します。私にも3人の子どもがいますが、ちょっと濃い目の味付けにすれば喜んで食べてくれますよ。
もう一つ挙げるなら、カメラ付き冷蔵庫「STOCK EYE(ストックアイ)」。これ、実は私のアイデアで実現した商品なんです。
スーパーなどで買い物すると、調味料とか漬物とか、同じものを買っちゃうことってありませんか? 私も帰りがけによくスーパーに立ち寄るのですが、そんな失敗を2回に1回は繰り返していました(笑)。その悔しい経験から「冷蔵庫の中身が家の外から確認できると便利だな」とひらめいて、開発の担当者に商品化してもらいました。
―大山社長はどういうときに「アイデア」をひらめくのですか?
やっぱり人と話しているときにパッとひらめきます。社員との会議でも、プライベートの雑談でも、会話しているときにアイデアが降りてくることが多いですね。

でも、実はアイデアがひらめく「前段階」が大事だと思っています。その「前段階」とは、自分自身が「ユーザー」になりきること。
ユーザーになりきって“真剣に”生活し、商品を使い倒すことで、お客さま自身も気づいていないニーズを発見し、新しい需要を創造していく――この姿勢を当社では「ユーザーイン」と呼んでいます。社員の皆さんにも、「まずは自らが日常生活の中でさまざまな商品を使い倒そう」と伝えています。
私自身、言うからには行動しなければと、料理や掃除、洗濯はもちろん、園芸もやっていますし、ペットも飼っています。掃除なんかは、気づいたら4時間経っていることもよくありますね。
―えっ!掃除に4時間も!?
子どもの部屋を「よくもまぁ、こんなに汚してくれるよなぁ…」とブツブツ文句言いながら掃除しています(笑)。でも、そうしていると「子どもが自分で片づけしやすい環境ってなんだろう?」とか「子ども向けのサイズの家具があったらいいんじゃないかな?」とか、アイデアの種が生まれてくるんです。
掃除でも洗濯でも料理でも、“真剣に”生活していると、「この作業って面倒くさいな」など、いろんな不満や不便さを感じます。それがアイデアの種になるんです。
―社員の皆さんがたくさんのアイデアを生み出せるように、社長として意識していることはありますか?

まず、組織をあまり縦割りにしないよう意識しています。通常の家電メーカーでは構造設計、外観設計、意匠設計、品質設計…と開発ラインがそれぞれ分かれているのが一般的です。一方で、アイリスオーヤマではそういう分業制はとっていません。開発リーダーが、商品の企画から設計、販売にいたるまで一気通貫で担当します。
それと同時に、「冷蔵庫の開発担当者は冷蔵庫だけ」ではなく、いろいろな種類の商品開発を経験させるようにしています。昔はペット用品の担当だった社員が、今では掃除機を担当していることもあります。多種多様なものづくりの経験を積んでもらうことで、その経験が掛け合わさって「なるほど!」というアイデアにつながるんです。
―毎週月曜日の「新商品開発会議」も、皆さん真剣そのものでした。そこでの社員への声掛けや指導において心がけていることはありますか?

いちばん大事にしているのが、社員の「心理的安全性」を確保することです。
社員一人ひとりは、それぞれユニークなアイデアを持っています。しかし、勇気を出してそのアイデアを発表した結果、その人が恥をかくようなことがあってはならないと思っています。そのため、アイデアや意見を言いやすい環境づくりには心がけています。
それでも、そのアイデアがすべて採用され、商品になるわけではありません。ひと昔前の会議なら「はい、ダメ。不採用!」と言って終わり。私自身もそういうダメ出しを何度も経験してきました。でも、それだと社員は「よし、もう一回チャレンジしよう」という気にならないですよね。
だから、たとえ不採用であっても「選定の基準は何なのか」「どの点が足りなかったのか」かをきちんと説明し、フィードバックするようにしています。その失敗から学ぶことこそが大事ですからね。
失敗から学んだ「わかりやすさ」の大切さ
―「失敗」というワードが出ましたが、社長ご自身の失敗談をお伺いしてもよろしいでしょうか・・・?
いや、それこそ失敗は数えきれないほどしましたよ(笑)。

ひとつ例を挙げると、ホーム開発部長時代にとある調理器を開発しました。たくさん会議を重ねて、自信満々で発売したのですが、サッパリ売れなかったんです。
いま振り返ってみると、その商品がパッと見てどんな使い方をするのか、どんな商品なのかユーザー目線からはわかりにくかったんだと思います。言葉で説明すれば理解してもらえるけど、店頭に並んでいる商品が自ら言葉を発するわけではありませんからね。
その経験から学んだのは、「今までにない商品は一目でわからなければいけない」ということ。お客さまが店頭で商品に接する時間はほんの1、2秒。その短い間に注目してもらえるかどうかが勝負で、できるだけわかりやすいデザイン、ネーミング、パッケージでなければいけません。その時の教訓は今も心に刻んでいますね。
―確かに、「CHEF DRUM」などは見た目のインパクトもあるし、ネーミングもわかりやすいですよね。
そうなんですよ! そこが私も気に入っているポイントです。お客さまにとって一目で「なるほど!」とわかってもらえるような商品を、これからも世の中に多く出していきたいですね。
「お客さまの生活を便利に」の先にあるビジョン
―2018年に、現会長の後を継いで社長に就任し、現在5年目を迎えています。これまでの歩みを振り返りながら、いま感じていることをお聞かせください。

この5年の間に、世の中の生活様式や国際情勢が本当に大きく変わりました。少子高齢化も人手不足もますます深刻化しているし、サステナビリティ、ダイバーシティなど新たな課題も増えています。
そのような社会の大きな変化に合わせて、当社ももっと変わっていかなければいけません。変わっていくためには、先ほど言った「ユーザーイン」をさらに徹底し、エンドユーザーである生活者にもっと寄り添っていく必要性を感じています。
―今後、アイリスオーヤマとして力を入れていきたい分野があれば教えてください。
力を入れていきたい分野はたくさんあります。LED照明による節電の推進もそうですし、食糧自給率を高め、日本の農業を元気にするための米づくりにも取り組んでいます。
さらに、これからは人口減少による日本の労働力不足がますます深刻になります。そこで、2020年にロボティクス事業に参入し、サービスロボットによって日本の人手不足を解消する取り組みも進めています。
商品を通じて、お客さまの生活をより便利に、豊かにすることはもちろん重要です。でも、私たちはその「お客さまの生活をより便利に」の先の大きなストーリーを見すえています。つまり、新たな社会のさまざまな課題を解決する「ソリューション」を提供していくということ。それを当社では「ジャパン・ソリューション」と呼んでいます。
「課題先進国」である日本国内の社会課題を解決する「ジャパン・ソリューション」を生み出せれば、海外の国の課題をも解決するものとして展開することができる。結果として、日本の製造業をもっと大きく発展させ、元気にすることができる――これが、アイリスオーヤマの掲げるビジョンです。

「ユーザーイン」の発想を大切にしながら、これからも多くのアイデアを生み出し、世の中に貢献できる「ジャパン・ソリューション」を提案していきたいですね。