

障がい者と健常者が対等な「パートナー」となる社会を目指して:アイリスオーヤマ「SP事業部」の挑戦
公開日:2025.02.06
最終更新日:2025.02.07
アイリスオーヤマは、障がいのある従業員を支援しながらともに仕事を行う「SP(スペシャルパートナー)事業部」を全国6つの工場に設け、積極的に障がい者雇用に取り組んでいます。この事業部では、支援員が従業員一人ひとりの個性や適性を見極め、成長をサポート。現在、SP事業部はアイリスオーヤマの企業活動にとって欠かせない存在となっています。そんなアイリスオーヤマの「SP事業部」の取り組みについて紹介します。
INDEX
- 全国6カ所の工場に「SP事業部」を設置
- ――はじめに「SP事業部」とは、どんな部署か伺えますか?
- ――SP事業部の従業員は、どんな業務を担っているのでしょうか?
- 組織拡大による法定雇用率の壁
- ――2022年に、障がい者雇用を推進する体制を新たに立ち上げたと聞いています。どんな背景があったのでしょうか?
- ――障がいのある社員の採用を、どのように進めていったのでしょうか?
- ――採用した障がいのある従業員にやってもらう仕事の確保も必要ですね。
- 仕事を任せてみて気づいた、障がい者の可能性
- ――SP事業部の従業員が業務を進める上で、工夫したことはありますか?
- ――採用した従業員に仕事を担ってもらう中で発見や気づきはありましたか?
- ――実際に仕事を任せてみて、思った以上にいろいろな可能性が見えてきたのですね。
- 従業員の変化に早く気づく工夫
- ――目標設定や目標管理はどのように行っていますか?
- ――法定雇用率を維持するためには、定着することも重要な課題ですね。
- ――早期にアラートを発見し、きめ細かいケアで離職を防いでいるのですね。
- 「共生社会」を目指し、あえて特例子会社にしない
- ――アイリスオーヤマは障がい者雇用のために特例子会社を設立していない理由は何でしょうか?
- ――SP事業部の存在があったからこそ、生産性向上のアイデアが生まれたのですね!
▼お話を聞いたのは…

SP事業部 統括マネージャー 高野英夫

SP事業部 卸町 リーダー 鈴木信
2020年入社。角田マスク課教育チームに配属後、角田製造管理チームに異動。2022年にSP事業部卸町に着任し、リーダーを務める。

SP事業部採用教育課 リーダー 千葉美佳
1995年に人事部に配属。その後、営業教育指導部、人事部労務課などを歴任。2024年にSP事業部に異動し、採用教育課のリーダーを務める。
全国6カ所の工場に「SP事業部」を設置
――はじめに「SP事業部」とは、どんな部署か伺えますか?

高野:SP事業部とは、障がいのある従業員が各部門の軽作業を中心とする業務を担い、サポートする事業部です。アイリスオーヤマでは、グループ全体で152人の障害者手帳を持つ社員が働いていますが、そのうち約8割にあたる115人がSP事業部に在籍しています(2025年1月現在)。
2004年に大河原工場(宮城県)に設置されて以来、アイリス卸町ビル(宮城県)、角田I.T.P.(宮城県)、埼玉工場(埼玉県)、三田工場(兵庫県)、鳥栖工場(佐賀県)と、全国6カ所の工場や拠点にSP事業部を拡大し、障がいのある従業員が働いています。また、支援員が延べ25人在籍(2025年1月現在)し、彼らの就労をサポートしています。
2004年に大河原工場(宮城県)に設置されて以来、アイリス卸町ビル(宮城県)、角田I.T.P.(宮城県)、埼玉工場(埼玉県)、三田工場(兵庫県)、鳥栖工場(佐賀県)と、全国6カ所の工場や拠点にSP事業部を拡大し、障がいのある従業員が働いています。また、支援員が延べ25人在籍(2025年1月現在)し、彼らの就労をサポートしています。
――SP事業部の従業員は、どんな業務を担っているのでしょうか?

鈴木:カタログの内容チェック、パソコンでのデータ入力、商品のギフト包装など、シンプルな定型的作業が中心です。ほかには食品工場での機械の洗浄や、新しいパソコンのセットアップ、修理ができない商品を解体し、廃棄部品と再利用部品に仕分けるなど、目立たない作業ではありますが、アイリスオーヤマの企業活動にとって欠かせない役割を担っています。

千葉:SP事業部内だけでなく、例えば経理部門では4名のSP事業部の従業員が在籍し、1名が応援として入り、経理部門の一般社員と一緒にデータ入力やデータの照合、伝票の整理などの業務を行っています。
組織拡大による法定雇用率の壁
――2022年に、障がい者雇用を推進する体制を新たに立ち上げたと聞いています。どんな背景があったのでしょうか?

高野:もともとアイリスオーヤマでは、20年前の2004年に大河原工場で初めてSP事業部を立ち上げ、4人の障がいのある従業員を受け入れました。以来、全国に少しずつ拠点を増やしながら、障がい者雇用に力を入れてきました。
その後、大きな転機となったのは2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大です。中国・大連工場に加え、角田I.T.P.にマスクの生産拠点を新設し、国内で急増したマスク需要に応えました。一方で、社員の採用を毎年500人規模で進めるなど、組織の規模が拡大したことによって、障害者雇用促進法 に基づき2.3%と定められている(当時/現在は2.69%)法定雇用率を下回る事態となりました。
そこで、障がい者雇用をこれまで以上に積極的に推進する必要が生じ、その推進拠点として2022年にアイリス卸町ビルにSP事業部を新たに立ち上げ、私たち3人がその推進役に任命されました。
このとき、会長の大山(健太郎)からは「法定雇用率は達成して当たり前。障がいのあるなしに関わらず、アイリスオーヤマの社員として戦力となるような仕事をしてもらいましょう」と言われたことを覚えています。
その後、大きな転機となったのは2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大です。中国・大連工場に加え、角田I.T.P.にマスクの生産拠点を新設し、国内で急増したマスク需要に応えました。一方で、社員の採用を毎年500人規模で進めるなど、組織の規模が拡大したことによって、障害者雇用促進法 に基づき2.3%と定められている(当時/現在は2.69%)法定雇用率を下回る事態となりました。
そこで、障がい者雇用をこれまで以上に積極的に推進する必要が生じ、その推進拠点として2022年にアイリス卸町ビルにSP事業部を新たに立ち上げ、私たち3人がその推進役に任命されました。
このとき、会長の大山(健太郎)からは「法定雇用率は達成して当たり前。障がいのあるなしに関わらず、アイリスオーヤマの社員として戦力となるような仕事をしてもらいましょう」と言われたことを覚えています。
――障がいのある社員の採用を、どのように進めていったのでしょうか?

千葉:私は人事部からこのSP事業部に加わったのですが、これまで障がい者採用の経験はなく、最初はどこから手を付けたらいいのか全くわかりませんでした。宮城県庁や宮城労働局などの行政機関に相談しながら、県内の就労移行支援施設、ハローワークの面接会、特別支援学校などをとにかく訪問するところから始めました。
また、一言で障がい者といっても、身体障害、知的障害、精神障害と種類があり、それぞれの種類の中でも障がいの特性はさまざまです。その特性を把握するため、採用面接の前に現場で3週間(一般就労は5日間)の実習期間を設け、特性の見極めを行うプロセスを取り入れました。
また、一言で障がい者といっても、身体障害、知的障害、精神障害と種類があり、それぞれの種類の中でも障がいの特性はさまざまです。その特性を把握するため、採用面接の前に現場で3週間(一般就労は5日間)の実習期間を設け、特性の見極めを行うプロセスを取り入れました。
――採用した障がいのある従業員にやってもらう仕事の確保も必要ですね。

高野:せっかく採用を進めて法定雇用率を達成したとしても、彼らにやってもらう仕事がなければ本末転倒です。そこで、私たちが各部署を回り、現場の理解を得ながら、障がいのある従業員に任せてもらえる仕事を切り出してもらい、少しずつ集めていきました。
仕事を任せてみて気づいた、障がい者の可能性
――SP事業部の従業員が業務を進める上で、工夫したことはありますか?

鈴木:作業工程をなるべくシンプルにするよう工夫しています。例えば商品を2個ずつセットにして袋に入れる作業であれば、2個ずつ取れるよう準備し張り紙に書き出します。また、シール貼りの作業であれば、従業員が計数管理しやすいようシールをあらかじめ100枚数えて準備しておくというような工夫をしています。

千葉:知的障がいを持つ従業員の中には、数を数えるのが苦手な人もいます。そこで、個数ではなく「1箱何グラム」という重さの目安を設け、最後に計量して個数が確認できるようにしています。

高野: SP事業部の従業員が抱える障がいの特性は一人ひとり異なります。対人コミュニケーションが苦手な従業員には、黙々とていねいに作業を進める仕事。人と話すのが好きな従業員には、社内に設置した売店やラウンジなどでの接客業務など、それぞれの特性に合った業務の割り振りも重要です。
――採用した従業員に仕事を担ってもらう中で発見や気づきはありましたか?
鈴木:私たちも実習や面接を通じて個々の従業員の特性や強みを把握していたつもりでしたが、実際に仕事をしてもらうと、それ以上に彼らが多くの能力や強みを持っていることがわかりました。

例えば、ある従業員は軽作業に従事してもらう予定で採用したところ、今では経理部門でパソコンの入力ができるようになるなどPCスキルが大きく向上しました。また、システム部門から依頼を受けたパソコンのセットアップも、初めはおそるおそるでしたが、今はスムーズに処理できるようになっています。こちらの先入観で、彼らの能力に制限をかけてはいけないことに気づかされました。
――実際に仕事を任せてみて、思った以上にいろいろな可能性が見えてきたのですね。

高野:当初は各部門から業務の切り出しをお願いするのにも苦労しましたが、SP事業部の実績が増えていくごとに、「例えばこういう仕事もできますか?」といった相談が増えていきました。新たな業務を任せてもらうことで能力開発が進み、要望に応えることで各部署の理解と信頼が深まり、さらなる業務拡大につながるといった好循環が生まれてきました。
従業員の変化に早く気づく工夫
――目標設定や目標管理はどのように行っていますか?

鈴木:年頭に、各拠点の所属長が面談を行い、例えば人前で話すのが苦手であれば「朝礼で話ができるようになる」など、能力がプラスになるような目標設定をするように支援員には伝えています。

その目標に対して半年後に1on1ミーティングを実施し、半期の振り返りを行います。障がいがある従業員は繊細な性格の人が多いので、伸びたところ、できたことなどプラスの面を褒めるコミュニケーションを心がけています。まだ達成できていない項目についてはネガティブに指摘するのではなく「どうすればこの目標を達成できるかな?」と一緒に考え、改善に向けて伴走支援するスタンスを大事にしています。
――法定雇用率を維持するためには、定着することも重要な課題ですね。

千葉:本人の希望や適性と仕事とのマッチングがうまくいかないと、不満やストレスが溜まり、離職につながりやすくなります。その兆候に早めに気づくためにも、1on1ミーティングの機会をこまめに設けています。また、毎日提出してもらう日報には「面談希望」という欄を設け、その欄に「○」が付いている従業員には、1on1ミーティングの場を設けて相談に応じています。
――早期にアラートを発見し、きめ細かいケアで離職を防いでいるのですね。

高野:大事なのは、障がい者だからといって必要以上に手助けするのではなく、「自主自立」を促すことです。自分でできることは自分でやるという意識を持たせることが大切です。自分でできないことについては、最低限私たちがサポートしますが、彼らができないことを1つでもクリアできるように導いてあげることを心がけています。その意識で彼らと接しています。
鈴木:エピソードを1つ紹介すると、軽作業を担当していた従業員に本社のラウンジで軽食を提供する仕事に回っていただいたところ、ある日の面談で泣き出してしまいました。よくよく話を聞いてみたところ、その従業員は「社員さんと接する今の仕事が楽しくて、この業務を辞めたくない」とのことで、やりがいのある仕事に出合えたうれし涙だったとわかり、ホッとしました(笑)。
鈴木:エピソードを1つ紹介すると、軽作業を担当していた従業員に本社のラウンジで軽食を提供する仕事に回っていただいたところ、ある日の面談で泣き出してしまいました。よくよく話を聞いてみたところ、その従業員は「社員さんと接する今の仕事が楽しくて、この業務を辞めたくない」とのことで、やりがいのある仕事に出合えたうれし涙だったとわかり、ホッとしました(笑)。
「共生社会」を目指し、あえて特例子会社にしない
――アイリスオーヤマは障がい者雇用のために特例子会社を設立していない理由は何でしょうか?
高野:特例子会社を否定するわけではないのですが、障がい者を1つの場所に隔離することは、ダイバーシティ&インクルージョンの観点から好ましくないと考えています。アイリスオーヤマでは共生社会の実現を目指し、なるべく一般の社員とSP事業部の社員がともに働く職場づくりに取り組んでいます。「スペシャルパートナー 」という言葉にも、障がい者と健常者とは対等な立場の「パートナー」であり、互いに支え合う関係であるという理念が込められています。

千葉:その理念を理念で終わらせないために、私たちは製造・物流部門の月次会議に参加し、SP事業部の取り組みを毎月報告しています。また、「SP事業部通信」を発行し、彼らの成果を社内で周知しています。仕事以外でも、卸町ビル・角田I.T.P.・大河原工場合同での社員旅行やお花見などの社内イベントに一般社員とSP事業部の社員が一緒に参加し、交流を深めています。

高野:この「スペシャルパートナー 」の言葉を体現するようなエピソードがあります。SP事業部では、パックごはんを製造する工場の配管の洗浄業務を引き受けています。これまでは配管洗浄のたびにラインの稼働を8時間ほど停止していたのですが、担当役員のアイデアで予備の配管を用意し、洗浄する配管と交換するという工程に変えました。結果として取り出した配管を洗浄している間もラインを止める必要がなくなり、製造工程の時間短縮につながりました。
――SP事業部の存在があったからこそ、生産性向上のアイデアが生まれたのですね!

鈴木:こういった成功事例が積み重なり、各部門にもSP事業部への理解が浸透したことで、今では優先的に業務を依頼してもらえるようになりました。SP事業部と各部門との対等なパートナーシップが徐々に構築されていると実感しています。
高野:正直に言うと、卸町ビルにSP事業部を立ち上げた当初は、まずは法定雇用率を達成することが最優先事項でした。しかし、社内での認知度が高まり、SP事業部への信頼が深まるにつれて、自然と業務の依頼が増え、結果的に法定雇用率を意識することがなくなりました。
宮城県内の民間企業の法定雇用率は2.39%と、法定雇用率(2.5%)を下回っています(2024年6月1日現在)。
2026年には2.7%への引き上げが予定されているなかで、目下の数字は厳しいものになっています。それでも当社としては数字を過度に意識することなく、個々の従業員が新しい仕事にチャレンジでき、自然と笑顔が増えていくような職場づくりに努めていきたい。その結果として、宮城県内の法定雇用率の改善を牽引する存在になれればと考えています。
高野:正直に言うと、卸町ビルにSP事業部を立ち上げた当初は、まずは法定雇用率を達成することが最優先事項でした。しかし、社内での認知度が高まり、SP事業部への信頼が深まるにつれて、自然と業務の依頼が増え、結果的に法定雇用率を意識することがなくなりました。
宮城県内の民間企業の法定雇用率は2.39%と、法定雇用率(2.5%)を下回っています(2024年6月1日現在)。
2026年には2.7%への引き上げが予定されているなかで、目下の数字は厳しいものになっています。それでも当社としては数字を過度に意識することなく、個々の従業員が新しい仕事にチャレンジでき、自然と笑顔が増えていくような職場づくりに努めていきたい。その結果として、宮城県内の法定雇用率の改善を牽引する存在になれればと考えています。
その後アイリスグループの中国・大連工場に駐在し、2016年には富士小山工場の工場長に着任。2022年からSP事業部に異動し、統括マネージャーを務める。