【アイリスオーヤマのジャパン・ソリューション】震災被害に人材不足…苦境の農業を、東北の地から最先端ビジネスに変える

【アイリスオーヤマのジャパン・ソリューション】震災被害に人材不足…苦境の農業を、東北の地から最先端ビジネスに変える

アイリスオーヤマは、さまざまな社会課題を解決するためのソリューション提供を行っています。その中から、今回は「精米事業」にフォーカスし、詳しくお伝えします。2011年の東日本大震災を機に、東北の農業復興のため精米事業に乗り出したアイリスオーヤマ。2013年に宮城県下最大の農業生産法人「株式会社舞台ファーム」との共同出資で「舞台アグリイノベーション株式会社」を設立して以来、おいしいお米を日本全国・世界へ届けています。精米事業に乗り出すきっかけから、おいしさの秘密、日本の農業振興に向けた想いなどを、株式会社舞台ファーム代表取締役社長の針生信夫(はりうのぶお)氏、アイリスオーヤマ株式会社 食品事業部事業部長の佐々木雅人氏にインタビューしました。

【アイリスオーヤマのジャパン・ソリューション】震災被害に人材不足…苦境の農業を、東北の地から最先端ビジネスに変える

+1 Day 編集部

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東北のおいしいお米を世界へ。アイリスオーヤマの精米事業とは

アイリスオーヤマのぱっくごはんと生鮮米
アイリスオーヤマは、2013年から精米事業に参入しました。
東日本大震災で被害を受けた被災地の支援と農業復興のため「簡単・おいしい・便利」をコンセプトに、生鮮米やパックごはんの生産・販売を行っています。お米の美味しさを最大限引き出し、鮮度を保ったまま日本全国・世界へ流通させる独自の精米技術を完成させ、お客さまにお届けしています。
▼お話を聞いたのは…
株式会社舞台ファーム 代表取締役社長 針生信夫

株式会社舞台ファーム 代表取締役社長 針生信夫

1962年、宮城県生まれ。宮城県立農業講習所(現宮城県農業大学校)を卒業後、父親の後を継ぎ、就農。2003年に舞台ファーム設立。2013年にはアイリスオーヤマとの合弁により、舞台アグリイノベーションを設立した。
農林水産省マルシェ・ジャポン プロジェクト実行委員長、仙台市認定農業者連絡協議会会長、宮城県総合計画審議会委員などを歴任。
アイリスオーヤマ株式会社 食品事業部事業部長 佐々木雅人

アイリスオーヤマ株式会社 食品事業部事業部長 佐々木雅人

2010年に入社し、ドラッグストアを中心とした営業、営業部マネージャーを経て、2023年から食品事業部の事業部長を務めている。

震災で壊滅的なダメージを負った東北の農業

―舞台ファームとアイリスオーヤマが提携して精米事業に乗り出すきっかけを教えてください。

インタビューを受ける針生氏と佐々木氏
針生:2011年の東日本大震災がきっかけです。私たち舞台ファームは宮城県下最大の農業生産法人で、それまでも大手のチェーン店に農作物を納めていました。それが、津波によって田んぼも備蓄米も畑も壊滅的なダメージを負いました。

震災後の2013年1月、アイリスオーヤマの大山健太郎会長(当時社長)とお話しをする機会があり、そこで東北地方の基幹産業である農業支援こそが、この未曾有の震災の復興支援として最も重要なものであると意見が一致しました。その3ヶ月後には、製造技術と全国への販路を持つアイリスオーヤマと、農業生産法人の舞台ファームの共同出資による「舞台アグリイノベーション株式会社」が設立されました。
佐々木:針生社長からもあった通り、大きなきっかけは震災の復興支援です。当社も宮城県に本社を置き、被害にあっていましたが、津波などでより大きな打撃を受けたのは農業でした。当社の経営理念の柱のひとつに「ジャパン・ソリューション」というものがあります。これまで培ってきた製造・販売の両方の強みやノウハウを生かして、日本に元気を取り戻すための「ソリューション」を提供するというもので、この精米事業もそのひとつです。

被災地支援も勿論ですが、これまで農作物として位置づけられてきた“製品”としてのお米を“商品”に変えることで、農業改革を行い、農家さんにとって、適正利益を得られる安定事業となる農業ビジネスを確立させることも目的としています。

ゼロからスタートとした精米事業の道のり

―「舞台アグリイノベーション株式会社」を設立後、どのように精米事業を進めていったのですか?

インタビューを受ける針生氏
針生:当時、舞台ファームでは、一人の農業者が20~30ヘクタールの農地を栽培し、ユニット単位のチームを拡大する「コンビニ農業」を展開していて、それによって1,200ヘクタールもの広大な耕地面積を確保していました。
しかし、大山健太郎会長からは「それでは足りない。農地は1万ヘクタール、保管量は4万トンいかないと」と言われました。最初は「ウソでしょ?」と目を丸くしましたね(笑)。
その後、舞台アグリイノベーションは、2014年に宮城県亘理町に日本最大級の精米工場である「舞台アグリイノベーション亘理精米工場」を竣工、農業者支援・震災復興のフラグシップとして、10年後の現在に至るまで精力的に稼働しています。

一方で、先述の「コンビニ農業」においても、広域型の農業者連携として全国規模へと拡大を続けていて、東北地方や東日本だけではなく西日本や九州などまで広がりを見せています。
インタビューを受ける佐々木氏
佐々木:当社は農家さんに作ってもらったお米を売ることに注力しました。販売を開始した2013年当初は、正直かなり苦戦しましたね。当時は「アイリスオーヤマといえばプラスチック収納用品や園芸用品」というイメージが強かったので、「あのアイリスオーヤマが、米?」という反応で…。
それでもおいしさには自信があったので、さまざまな店舗で試食会を重ね、特長やおいしさを訴求していきました。地道な活動を積み重ねることで、販売開始から3~4年経ってから徐々に販売が増えていきました。

また、当グループの運営するEC(ネット通販)の存在は大きかったです。食品全体のEC化率は数%程度とまだ低いのですが、当社はずっと公式通販サイト「アイリスプラザ」でEC事業に取り組んでいたので、パックごはんもECでの売上が多い状況です。
針生:農家が独自でEC事業をやるのは困難です。アイリスオーヤマのように店舗やECなど、多くの販路を持つ企業が販売のプラットフォームを担ってくれることで、農家は安心しておいしいお米を作ることに専念できるんです。

―農家から仕入れたお米はどうやっておいしさを保ったまま保管しているのですか?

亘理工場の内部
針生:そこが大きな課題でした。全国の農家の皆様がせっかくおいしいお米を作っても、それを預かる私たちがおいしさをキープした状態で保管しなければ、消費者においしいお米を届けることができません。
実は先述の「舞台アグリイノベーション亘理精米工場」は、国内屈指の低温システムを保有しているのです。
米を移動している様子
針生:同工場の保管倉庫は、奥行き150メートル×幅60メートル×高さ30メートルの、さながら巨大な“魔法瓶”のような施設。その中はお米が最もおいしい状態をキープできる15℃以下の環境で、最大4万2千トンの米を保管できます。低温状態で保存することにより、玄米の酸化を防止することができます。
亘理工場で備蓄されている米
針生:また、お米の保存方法にもこだわりました。通常のお米の保管倉庫のように何段も積み上げて保管すると、下の段のお米には過剰な負荷がかかり、おいしさが損なわれてしまいます。
そこで、この保管倉庫内には巨大なラックを設け、お米を1トンずつ、宙に浮いているような状態で保管しています。これにより過重負荷による酸欠状態を防ぐことができ、水分量もベストな状態を保って保管することができます。

お米のおいしさをキープする独自製法と品質検査

―その他にも独自開発したという精米技術についてもお聞かせください。

低温製法
針生:まず1つ目は「低温製法」と呼んでいる技術です。先程、収穫したお米を低温で保管しているとお伝えしましたが、精米・包装時も低温で行っています。お米は収穫後も呼吸をしているのですが、高温状態になるとお米の呼吸が活発になり、デンプン・タンパク質等の成分が酸化・分解され、味が落ちてしまいます。
ごはんの甘さのカギを握るのは、「α-アミラーゼ」という酵素です。白米を水に浸すと、ごはんの甘さのもとである「還元糖」が生成されます。この還元糖を生み出す“スイッチ”の役割を果たすのがα-アミラーゼです。しかし、このα-アミラーゼは熱に弱く、通常は精米時の摩擦熱で活性が失われてしまいます。

「低温製法」では、精米時でもできるだけ15℃の低温を維持し、精米後もα-アミラーゼを通常精米より20%多く残すことに成功しました。還元糖の発酵をより促し、お米の甘さをより感じていただくことができます。
αアミラーゼの効果
針生:また、最近テレビCMでも人気のアイリスのパックごはんは、「ph調整剤」を使用していないのも特長です。通常パックごはんは、長期保存をするためにph調整剤というものを使用しています。これは酢の一種で、通常のパックごはんを開けた時に独特の酸っぱい風味が残るのはこのためです。

アイリスオーヤマのパックごはんは独自の無菌設備と品質保持手法により、添加物を使用せずに水のみで生産しています。しかし、賞味期限は約13ヶ月と備蓄にも向いています。

※白米のパックごはんの場合。麦のパックごはんなど一部製品の賞味期限は異なります。
お米の検査
佐々木:これらの独自製法に加えて、お米の品質検査も徹底して行っています。安全に関わる放射線量・残留農薬量の検査や、DNAによる品種判定、カドミウム検査など、「ここまで検査するの?」というところまで徹底しています。一般的な検査だけでなく、厳しい自主基準を設けあらゆる角度から検査を行っています。

過去にはとある企業が「日本産」と称して別の国で作られたお米をブレンドして販売していたこともあり、食の安心安全やトレーサビリティへの関心は非常に高まっています。その点、当社では厳格な検査をクリアした安心・安全な日本産のお米をお届けしています。
工場内の分析室と検査内容のパネル

日本の食糧問題を解決する「次世代の農業経営者育成×スマートアグリ」

紅梅夢ファームの田植えの様子

―「農家ビジネス」を確立するために、どのようなことを行っていますか?

佐々木​:農業を世界に誇るビジネス産業にするために、若手大規模農業後継者に対して作付け等の営農指導や生産したお米を全て買い取る全量買取制度などの取り組みを行っています。また、肥料・農薬の共同購入による低コスト農法など、おいしいお米を作る農家さんが、適正利益を得られるような制度を整えました。
田植えの様子
針生:アイリスオーヤマの経営ノウハウを、利益率が低いとされる農業に取り入れることで、おいしいお米を安価で提供して、かつ利益も獲得できるビジネスモデルの構築に取り組んでいます。
毎週月曜日に行われている「新商品開発会議」は有名ですが、農業会社である舞台ファームも、アイリスオーヤマを参考に毎週月曜日に会議を行っています。経営陣だけでなくさまざまな人に参加してもらい、経営判断の仕方などをメンバーにシェアしています。
田んぼでドローンを飛ばしている人
針生:また、農業のDX化も積極的に行っています。「インテリジェンスラボ」を設け、優秀な若手メンバーを中心に、食糧生産システムやサプライチェーンの効率化、スマートフォンでシステム管理するなど、新たな農業手法の開発にも取り組んでいます。

加えて、アイリスオーヤマ流の経営哲学をもとに、次世代の農業経営者を育成するために「食卓イノベーション研究会」を立ち上げました。全国の農業生産法人100社が参加し、おいしくて安く、かつしっかり利益の出る農業ビジネスを学ぶとともに、情報交換を行うネットワークとしても拡大しています。このネットワークから次世代のアグリイノベーションを生み出し、全国に広げていきたいです。
▼お米を作っている農家さんからのコメント
株式会社紅梅夢ファーム 代表取締役 佐藤 良一氏
震災で多くの被害を受けましたが、再開1年目は苗を提供頂き、農業機械を持ち込んで乾田直播を行ってもらうなど、新しい栽培技術のレクチャーを受けることができました。

現在では、営農管理システムを活用して、すべてデータ管理を徹底し土壌診断なども毎年行っています。「おいしい」と言ってもらえるお米を作るべく、日々おいしさを探究しています。
また、福島県の農畜産物はすべて放射能検査をして安心安全を確認しながら営農を続けていますが、我々が作ったお米は舞台アグリイノベーションにおいて二重の検査が行われているので、より安心度が上がっていると思います。

さらに、以前は価格交渉できなかったのですが、舞台アグリイノベーションさんとは毎年価格協議がされることで、ビジネスとして成り立ちますし、農家として作り甲斐を感じています。

―最後に、今後の展望をお聞かせください。

アグリイノベーション外観
針生:日本の農業従事者は全人口の1%の約120万人です。私が40年前に農業をやりはじめたときには370万人だったので、その40年の間に250万人が高齢化などを理由に農業から離れています。さらに、その中でも専業として農業を営む「プロ農家」は個人で約25万人しかいません。
この状況でこれからも日本の農業生産を支え続けていくには、次世代の農家の育成だけでなく、デジタル技術やドローンなどを活用した「スマートアグリ」によって生産性を高める必要があります。

食糧問題が世界共通の課題となる中で、これからは農業というマーケットの価値が高まっていくとみています。最先端のデジタル技術やロボットなどを駆使して生産性を高められる人材が稼げる時代になるでしょう。そういう潮流の中で、我々が「稼げる農業」のソリューションを生み出すけん引役を担っていきたいです。
農家×DX
佐々木:コロナ禍から日常が戻りつつあり、仕事や生活も変化しています。その中で、簡単で手軽においしいパックごはんという、食の「ソリューション」を、もっと全国の家庭に届けていきたいと考えています。当社がパックごはんや生鮮米の市場シェアナンバーワンを目指すことで、全国の農家の皆様を応援することに繋がると考えています。
笑顔の佐々木氏と針生氏

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