90年の歴史を継承・更新し、
地域に愛されるオフィスビルに
九段会館テラス 様(東京都)
2023.3.07
東急不動産株式会社 都市事業ユニット 開発企画本部
伊藤 悠太 様
鹿島建設株式会社 建築設計本部
栗間 敬之 様

2022年10月1日に開業した「九段会館テラス」。東急不動産と鹿島建設による登録有形文化財・旧九段会館の保存・復原プロジェクトにより生まれた複合施設で、旧九段会館の創建当時の意匠を復原・改築した保存部分と、地上17階建てのオフィスとなる新築部分で構成されています。建物内の照明は、アイリスオーヤマも参加し、建築計画に基づいた照明器具の製作・納品を担当しました。復原にいたるまでの経緯と建物の概要、今後の展望などをうかがいました。

(左) 東急不動産株式会社 都市事業ユニット 開発企画本部
伊藤 悠太 様
(右) 鹿島建設株式会社 建築設計本部
栗間 敬之 様
創建当時の姿を目指し、現場の意見も取り入れながら丁寧に保存・復原
―旧九段会館の保存・復原プロジェクトの概要について教えてください。
伊藤様
創建から90年が経過した旧九段会館は、2017年に3社のコンソーシアムでの復原・保存プロジェクトが発足。どこを残して復原するかは、国の検討委員会が定めた計画に沿って進めましたが、私たちも旧九段会館が歩んできた歴史を掘り下げ、さまざまな資料を紐解きました。旧九段会館がどのような歴史的価値がある建物で、どこを保存させてどこを新たに作り直すべきなのか、という点は特に重視しました。

―解体の過程で創建当時の建築意匠が見つかり、計画を変更するなどしたと聞きました。
伊藤様
創建時から建物の所有や用途が変遷しているため、解体を進めていくと塗装の下から全く別の色や模様、素材が現れ、その度に残すべきかどうか考えながら検討しました。
栗間様
丁寧に解体していったからこそ見つかったものも多くあり、工事の過程で発見された創建当時の材料や歴史的価値のある素材は、そのまま保存もしくは一部を残すなどし、建造物の魅力を後世に引き継ぐことを目指しました。

―旧九段会館を保存・復原する上で特に工夫された点があれば教えてください。
伊藤様
創建当時の姿を復原するというのがプロジェクトのコンセプトだったので、当時の白黒写真や絵はがきを調べたり、国会図書館や当時の関係者が所有する資料を集めたりして、復原計画の参考にしました。ただ当時の写真は白黒やセピア色なので、いま残っているタイルなどの素材がどのように写っているかを基準として、他の素材はどのような色だったのかを想像・推測しながら丁寧に進めました。
これから先の未来に建物を残していくためには、安全・安心はもちろんおろそかにできません。むしろ優先すべきは建物としてどれだけ安全・安心を確保できるかという点。例えば保存棟に飾っているシャンデリアもワイヤーで吊ったり、さらに保存棟と新築棟では耐震構造がそれぞれ異なるため、強い地震が起きた場合は、その境目で床をずらしたり、壁が動くようにすることで地震の力を逃がす工夫もなされています。
栗間様
設計の観点では、建物を利用される方々が保存棟から新築棟に違和感なくアプローチできるような工夫は随所に施しました。きっぱりとデザインを分けるのではなく、九段会館のレトロモダンな趣を大切にして、保存棟から新築棟にシームレスに移行できるようにしました。マテリアルにもこだわり、床の飛び出しや真鍮、工法などを取り入れ、時代的なバランスに配慮したデザインを意識しました。作業をする職人からも「昔からあるこの工法を取り入れてみては」といったご意見もいただき、軌道修正をしながら工事を進めました。

最先端技術と豊かな自然を生かし開かれた場所に
―次世代オフィスをコンセプトの一つに掲げている新築棟は、どのような特徴がある建物になっていますか?
伊藤様
新築棟は「次世代のオフィスビル」をさまざまなところで体現していると自負しています。例えば、オフィスエントランスのラウンジの窓ガラスには、センサーとAIで太陽の位置や天候に合わせて透過率を自動調整するスマートガラス「View Smart Glass」を設置するなど、最新鋭の技術は随所に採用しています。
一方で、九段会館テラスの大きな特徴は、お濠に面した立地ならではの圧倒的な自然が身近にあること。お濠周辺の木々など、もともと豊かな自然が存在します。それらを利用者にどう体験してもらえるかを考えた時、地下1階の食堂だったり、テラスだったり、屋上庭園だったりを設けることにしました。食事をする場所としてはもちろん、好きな場所を選んで働くことができ、かつ豊かな自然を感じられる環境が身近にあるのは、九段会館テラスの強みの一つですね。
―正面玄関前の緑地広場の存在も大きいかもしれませんが、初めて訪れてみて地域につながったイメージを強く持ちました。
栗間様
正面玄関前をオープンにすることで、お濠周辺の緑といかにつなげられるかという点は重視しました。さらに屋上庭園に植栽された木々の緑と自然の調和も大切に考えてファサードはデザインされています。
伊藤様
正面から見る九段会館の外観がシンボリックなので、エントランス前の緑地広場を整備した背景もあります。広場は休憩時間などにリラックスできる場所としてはもちろん、地域の方々の憩いの空間になってほしいと考えています。地下1階のテラスはお濠沿いの遊歩道との親和性も意識して作られています。春になれば桜、夏はハスの花など、一年を通じて美しい景色を楽しめます。地域に暮らす方々にとって、旧九段会館一帯は憩いの場所だったので、ありがたいことに開業前には「早くオープンしてほしい」、「楽しみにしている」というお声もたくさんいただきました。
―地域に暮らす方々にとっては象徴的な建物だったということですね。復原にあたって建物の印象は変えないようにされたのでしょうか?
栗間様
古い建物の外装をきれいにすることは比較的容易なのですが、あえて昔の姿のまま残すために外装は手を付けなかったりすることもあります。ただ、今回のプロジェクトでは汚れも落としてきれいにする選択をしました。保存という観点では難しい部分ではあるのですが、九段会館テラスに関しては現代の時代性にどれだけ合わせられるかという点も重要だと考えました。完全に昔の姿に復原するというよりは、今の時代に合わせて更新、アップデートすることで、より魅力的な建造物にするという考え方ですね。

照明器具のデザインにこだわることで全体的な空間をコーディネート
―館内の照明に関しては、どのような配慮・工夫がなされていますか?
栗間様
旧九段会館が建てられた当時、設計者が空間とともに照明もデザインされていたようで、とても一体感があるという印象を受けました。ですので、私たちも照明をデザインすることで全体的な空間コーディネートをすることは意識しました。照明も建材と同じ考え方で、やはり素材感も大切。いかにこの空間にマッチして、違和感がない照明を選ぶかが大切で、アイリスオーヤマさんの照明器具もエレベーターホールなどに使わせていただきました。既製品もあったのですが、空間コーディネートという意味では新たに製作していただいた方が良いものもあり、担当者の方には何度も現場に足を運んでいただき、しかも、製品を取り入れるメリットに加えて、想定し得るリスクもしっかりとご説明いただいたのは、理解そして善後策の検討につながり、助かりましたね。
伊藤様
以前の九段会館を知っている方から、「明るくなったね」というお言葉をいただきました。建物自体はほぼ同じなのですが、そういった第一印象を持っていただけるのは照明によるところは大いにあると思っています。

利用者や地域の方々が“健康”でいられる空間を提供したい
―最後に、今後この九段会館テラスがどのような場所になってほしいとお考えでしょうか?
伊藤様
2019年7月に着工したのですが、ちょうどその直後にコロナ禍になり、オフィス不要論も唱えられました。私たちは、いかにしてオフィスに来たいと思えるような空間を創出できるかが大切だと考えました。九段会館テラスに関しては、それが地下1階の「九段食堂 KUDAN-SHOKUDO for the Public Good」だったり、併設するクリニックモールですね。九段食堂は、食材からこだわるなど料理のクオリティが評価されていることもあり、オフィスに入居するテナント従業員だけでなく、地域の方々にもリピートいただいていると聞いています。
私たちが目指すのは“健康経営”です。メディカルモールでは“未病”の解消を提供できるような仕組みも考えていて、叶うのであれば私たちもそれに協力していきたい。食堂とコラボレーションしたマルシェなど、エントランス前の広場を活用した企画も考えられます。まだまだやれることはたくさんあり、この場所、この付帯設備があるからこそのメリットは生かしていきたいですね。

[施設概要]
設計 建築 鹿島・梓 設計工事監理業務共同企業体
施工 鹿島建設 様
敷地面積 8,675.85㎡
建築面積 5,123.02㎡
延床面積 68,036.35㎡
階数 地下3階 地上17階 棟屋3階
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