

【アイリスオーヤマのジャパン・ソリューション】「ユーザーイン」の発想でロボットを身近に。アイリスオーヤマのロボティクス事業
公開日:2023.06.02
最終更新日:2024.12.23
アイリスオーヤマは、さまざまな社会課題を解決するためのソリューション提供を行っています。事業の柱となるのは、「家電事業」「LED事業」「精米事業」「ロボティクス事業」「エアソリューション事業」の5つ。その中から、今回は「ロボティクス事業」にフォーカスしてお伝えします。アイリスオーヤマは2020年に法人向けサービスロボット事業に参入し、「清掃ロボット」と「配膳・運搬ロボット」の2種類の業務用ロボットを展開しています。ロボティクス事業を立ち上げた狙いや今後の展望について、執行役員 BtoB事業グループ ロボティクス事業部 事業部長 兼 アイリス電工(株)取締役副社長の吉田豊氏にインタビューしました。
INDEX
- 深刻化する労働力不足を「ロボット」で解消したい
- ロボット×アイリスオーヤマのはじまり
- ―ロボティクス事業に参入したきっかけを教えてください。
- ―ロボット開発はゼロからのスタート。どのように事業を進めたのでしょうか?
- ―業務用ロボットには、どんなラインアップがあるのですか?
- 「ユーザーの声」を元に課題を集め、日本仕様のロボットを開発
- ―既存のロボットをどのように「アイリスオーヤマ仕様」に商品化したのでしょうか。
- ―スタートする前に障壁にぶつかってしまったのですね。
- ―具体的に、どのような点を変更したのですか。
- ―機能不良によるクレームゼロはすごいですね!
- 「価格」と「操作性」の両面から導入ハードルを下げる
- ―さまざまな課題をクリアしたロボットですが、現在の導入状況はいかがでしょうか。
- ―4,000社ですか!2年あまりでそこまで普及した要因はなんでしょうか。
- ―それでも「ロボット」と聞くと、導入ハードルが高いイメージがあります。
- 目指すのは人とロボットの「協働」
- ―ロボティクス事業をどう発展させていくか、今後の展望をお聞かせください。
- ―最後に、人とロボットはどんな関係になっていくと考えていますか?

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深刻化する労働力不足を「ロボット」で解消したい

アイリスオーヤマは、日用品や家電製品のイメージが強いですが、法人向けにソリューションの提供も行っています。そのうちの1つが「ロボティクス事業」です。
2022年9月に日本・東京商工会議所が発表した「人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況に関する調査」 によると、「人手が不足している」と回答した企業の割合は64.9%で、労働力不足は深刻さを増しています。また、リクルートワークス研究所が発表したレポート「未来予測2040」でも、労働需要に対して、2040年に1,100万人もの人手不足が生じると予想されています。この課題を解決すべく、2021年から「ロボティクス事業」がスタートしました。
2022年9月に日本・東京商工会議所が発表した「人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況に関する調査」 によると、「人手が不足している」と回答した企業の割合は64.9%で、労働力不足は深刻さを増しています。また、リクルートワークス研究所が発表したレポート「未来予測2040」でも、労働需要に対して、2040年に1,100万人もの人手不足が生じると予想されています。この課題を解決すべく、2021年から「ロボティクス事業」がスタートしました。
▼お話を聞いたのは…

執行役員 BtoB事業グループ ロボティクス事業部 事業部長 兼 アイリス電工(株)取締役副社長 吉田豊
アイリス電工株式会社の副社長を経て、2021年からロボティクス事業部の執行役員事業部長を務めている。
ロボット×アイリスオーヤマのはじまり
―ロボティクス事業に参入したきっかけを教えてください。

当社では、さまざまな日本の課題解決を行うため、多角的な視点から事業や商品開発を行っています。そのなかで、「深刻化する労働力不足の問題に対するソリューションは今後必要になる」と考えました。そこで目をつけたのがサービスロボットです。
当社では既に、製品の生産工程にロボットを導入しています。そこから得られた経験や知見から、ロボットの普及を推進することこそが、人手不足の課題に貢献できる「アイデア」ではないかと考えました。
―ロボット開発はゼロからのスタート。どのように事業を進めたのでしょうか?

ゼロからロボットを作ろうと思うと、開発などに莫大な時間と費用がかかります。そこで、当社はソフトバンクグループの「ソフトバンクロボティクス株式会社(以下「SBR」)」とパートナーシップを結びました。
さまざまなロボット開発の企業に出資し、高い研究開発力を持つSBRと、ライティングソリューション事業や家電事業などを通じて培ってきた当社の「ユーザーイン発想」、そして販売チャネルの強みを掛け合わせることで、「本当に必要とされるロボット」を広く提供することができると考えました。
さまざまなロボット開発の企業に出資し、高い研究開発力を持つSBRと、ライティングソリューション事業や家電事業などを通じて培ってきた当社の「ユーザーイン発想」、そして販売チャネルの強みを掛け合わせることで、「本当に必要とされるロボット」を広く提供することができると考えました。
2021年にロボティクス事業に本格的に参入、同年2月には合弁会社「アイリスロボティクス株式会社」を設立しました。(2024年8月に社名をISロボティクス株式会社に変更)
―業務用ロボットには、どんなラインアップがあるのですか?

大きく分けて「清掃ロボット」と「配膳・運搬ロボット」の2つのラインアップがあります。
清掃ロボットは乾式バキュームタイプの「DX清掃ロボット Whiz i(ウィズアイ) アイリスエディション」とスクラブ(洗浄・磨き・拭き掃除)タイプの「Scrubber 50 Pro(スクラバーフィフティプロ) アイリスエディション」の2種類を提供しています。
清掃ロボットは乾式バキュームタイプの「DX清掃ロボット Whiz i(ウィズアイ) アイリスエディション」とスクラブ(洗浄・磨き・拭き掃除)タイプの「Scrubber 50 Pro(スクラバーフィフティプロ) アイリスエディション」の2種類を提供しています。

「配膳・運搬ロボット」は、ラーメン店からホテル・レストランなどまで、店舗の大きさや用途に合わせて選べる4種類のラインアップを揃えています。「SERVI(サービィ) アイリスエディション」は、スタイリッシュで小回りがきく配膳ロボットです。「Keenbot(キーンボット) アイリスエディション」は、コンパクトタイプと大容量タイプの2種類を展開し、「Delivery X1(デリバリーエックスワン) アイリスエディション」は、トレーを最大4段まで設置でき、用途に応じてトレーの間隔も変更することができます。
「ユーザーの声」を元に課題を集め、日本仕様のロボットを開発
―既存のロボットをどのように「アイリスオーヤマ仕様」に商品化したのでしょうか。

まずは本格参入する前に、労働力不足が顕在化しているホテルや飲食店、介護施設などの施設に、SBR製の清掃ロボット、配膳ロボットを試験的に稼働していただきました。そこで、「自律走行型でもセンサーが止まってしまう」「障害物とぶつかりそうになる」などの課題がでてきました。
―スタートする前に障壁にぶつかってしまったのですね。
今振り返ると、これは障壁ではなく、日本市場にロボットを普及していく上で必要なプロセスでした。SBR製のロボットは日本よりも前に世界で販売されているものでした。そのため、通路の幅の違いなど、日本での導入にあたり多くの課題があることがわかったんです。
逆に言うと、その課題を1つずつ解決していけば、日本市場にフィットしたロボットが実現できるはずと考えました。お客様の声を元にブラッシュアップし、2020年11月にリリースしたのがDX清掃ロボット「Whiz i(ウィズアイ) アイリスエディション」です。
逆に言うと、その課題を1つずつ解決していけば、日本市場にフィットしたロボットが実現できるはずと考えました。お客様の声を元にブラッシュアップし、2020年11月にリリースしたのがDX清掃ロボット「Whiz i(ウィズアイ) アイリスエディション」です。
―具体的に、どのような点を変更したのですか。
障害物の回避など安全面を最優先して改善したのはもちろんですが、ハードなフロアと絨毯などソフトなフロアを感知し、床面に応じてブラシ圧を自動で調節できるように変更したり、バッテリーの長寿命化など、ロボットを使用されるお客さまの声に1つずつ応えていきました。そのおかげで発売後から今まで、機能不良によるクレームはありません。
―機能不良によるクレームゼロはすごいですね!

大げさに聞こえるかもしれませんが、本当に聞いていないんですよ(笑)!発売前に多くの施設に試験導入いただき、現場で起こる課題を集めていたからこそ、日本市場の特性に合わせてカスタマイズすることができました。まさに、当社の「ユーザーイン」の発想が活かされています。
「価格」と「操作性」の両面から導入ハードルを下げる
―さまざまな課題をクリアしたロボットですが、現在の導入状況はいかがでしょうか。
トライアルも含めた数字ですが、2020年の販売開始以来、「アイリスエディション」シリーズを導入いただいている企業は累計で4,000社を超えました。特に、2023年の3月は過去最高の出荷台数を記録しました。
―4,000社ですか!2年あまりでそこまで普及した要因はなんでしょうか。
まず社会的な背景から言うと、2022年に入ってから、世の中が徐々にコロナ前の日常を取り戻してきました。そのなかで、多くの企業が清掃や配膳といった業務の省人化、コストダウンに目を向け始めことが大きな要因だと考えています。
以前は、ロボットの導入を検討する企業は、先進的な技術に関心のある企業など、ごく少数でした。そこから徐々に、現実的なコスト削減のアプローチとして、ロボットに注目が集まるようになりました。加えて、昨今の物価高騰や、それに伴う賃金上昇など、コスト削減の緊急度が高まったことも、ロボットへの注目を集める要因になったと推察しています。
―それでも「ロボット」と聞くと、導入ハードルが高いイメージがあります。

そうですよね。そのようなお声は、実際によく頂きます。「本当に、ロボットに人の代わりができるの?」「ロボットを入れても、動かすための人が必要だから結局コストが増えるだけだよね」など……。実際には、ロボットを動かす人は必要ないのですが……。
ロボットの導入による省人化やコストメリットは、やはり実際に使ってみないとイメージがわきにくいと思います。そのために、できるだけ導入のハードルを下げることを意識しています。
例えば、価格は定額のサブスクリプションにして、導入しやすい価格でご提供しています。DX清掃ロボット「Whiz i(ウィズアイ) アイリスエディション」ですと、月額39,800円(5年プラン)で導入いただけます。また、2023年12月28日まで「ロボット無料お試しキャンペーン」も実施しています。
例えば、価格は定額のサブスクリプションにして、導入しやすい価格でご提供しています。DX清掃ロボット「Whiz i(ウィズアイ) アイリスエディション」ですと、月額39,800円(5年プラン)で導入いただけます。また、2023年12月28日まで「ロボット無料お試しキャンペーン」も実施しています。

操作性の面でも、「誰でも使える」をコンセプトに設計しています。例えば、清掃ロボットのルート設定も「簡単に設定できる」や「多言語対応」を追加し、高齢者の方や外国人の方でも操作できるようにしています。
特に飲食業界や清掃業界などは、短時間勤務の従業員が多いという特徴があります。その意味でも、長時間のトレーニングが必要ないよう、「誰でも使える」ロボットであることを優先して開発しています。
どの施設でも導入でき、誰でも操作できる汎用的なモデルにすることで、多くの企業や施設にロボットの導入メリットを体感していただけると考えています。
どの施設でも導入でき、誰でも操作できる汎用的なモデルにすることで、多くの企業や施設にロボットの導入メリットを体感していただけると考えています。
目指すのは人とロボットの「協働」
―ロボティクス事業をどう発展させていくか、今後の展望をお聞かせください。

4,000社といっても、まだほんの一部です。日本の市場においては、まだロボットというものを使ってみて、知っていただくフェーズだと考えています。そのため、より多くの企業にロボットを導入することによる省人化、コストダウンのメリットを知っていただくために、お客さまの声を聞きながら地道なカスタマイズを続けていこうと思っています。また、ニーズに応じた製品のラインアップを増やしていくことに注力していきたいです。
清掃ロボット1つとっても、改良の余地はたくさんあります。当社では、清掃会社で働いていた人材も採用して、清掃業務のどのプロセスをどうしたら省力化できるか、といった研究も日々行い、お客様の声も反映させアップデートしながら提案しています。
また、ロボットによって省力化できる分野はもっと幅広いと思っているので、私たちが支援できる分野も少しずつ広げていきたいですね。
また、ロボットによって省力化できる分野はもっと幅広いと思っているので、私たちが支援できる分野も少しずつ広げていきたいですね。
―最後に、人とロボットはどんな関係になっていくと考えていますか?

「ロボットを導入しませんか?」と言うと、よく誤解されるのですが、人がロボットに置き換えられるのではありません。人とロボットは、お互いに協働する関係にあると考えています。どんなに最新の技術を駆使しても、人間以上のロボットを開発することは現時点では不可能です。あくまでロボットは人間でなくてもできる作業を補完する存在だと思っています。
例えば、清掃業務の場合、廊下やオフィスの床などの平面部分は清掃ロボットが担い、テーブルや棚など細かい立面部分は人間のスタッフが担うといったような協業です。役割を分担することによって省人化を図りながらサービスの質を高めることができます。既に海外では人とロボットの協働による「デジタル清掃会社」が登場しているんですよ。
例えば、清掃業務の場合、廊下やオフィスの床などの平面部分は清掃ロボットが担い、テーブルや棚など細かい立面部分は人間のスタッフが担うといったような協業です。役割を分担することによって省人化を図りながらサービスの質を高めることができます。既に海外では人とロボットの協働による「デジタル清掃会社」が登場しているんですよ。
このように、ロボットを身近に取り入れ協働することで、人間は「人間にしかできないサービスを見つめ直し、サービスの付加価値を高めることに注力することができる」。これが、私たちが実現したい人とロボットの関係です。