各国の生活に合わせた「ユーザーイン発想」を。アイリスオーヤマのグローバル展開とは

各国の生活に合わせた「ユーザーイン発想」を。アイリスオーヤマのグローバル展開とは

生活者のことを考え、本当に必要としているものをお客様目線で開発し商品化する「ユーザーイン発想」で、家電、インテリア、食品などの多様な商品を生み出しているアイリスオーヤマ。実は日本国内のみならず、海外においても各国の文化や生活様式に合わせた「ユーザーイン発想」で商品を提供し、世界中の人々の快適な暮らしをサポートしています。そんなアイリスオーヤマのグローバル事業展開の取り組みや、日本におけるビジネスとの違い、今後の展望などについて、IRIS OHYAMA THAILAND 社長 兼 アイリスホールディングスグローバル企画部海外事業支援室 室長の森俊樹氏にインタビューしました。

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各国の生活に合わせた「ユーザーイン発想」を。アイリスオーヤマのグローバル展開とは

+1 Day 編集部

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世界に広がるソリューションネットワーク

アイリスオーヤマのグローバルマップ
アイリスオーヤマは、「なるほど!」と思わせるアイデアで家庭での困り事や悩みを解決する、ユニークな商品を数多く生み出していますが、その商品開発や販売先は日本だけでなく世界に広がっています。各国の生活文化に合わせた「ユーザーイン発想」の商品開発を行い、収納用品やペット用品をはじめ、家電製品も現地向けに製造・販売を行っています。文化が違う国で、どのようにして「本当に必要とされているものを」生み出しているのか、その裏側を紐解きます。
▼お話を聞いたのは…
IRIS OHYAMA THAILAND 社長 兼 アイリスホールディングスグローバル企画部海外事業支援室 室長 森俊樹

IRIS OHYAMA THAILAND 社長 兼 アイリスホールディングスグローバル企画部海外事業支援室 室長 森俊樹

2014年に入社し、LED事業部に配属。2019年にアイリスホールディングスグローバル経営企画部へ異動。
2020年からIRIS OHYAMA THAILAND 社長に就任。現在は社長兼務でアイリスホールディングスグローバル企画部海外事業支援室室長も勤めている。

世界進出のきっかけは「クリア収納ケース」

―グローバル展開をはじめたきっかけと、これまでの歩みを教えてください。

当社のプラスチック加工・成型の技術を用いて透明なプラスチックを開発し、商品化した「クリア収納ケース」(89年)が爆発的なヒットとなりました。このクリア収納ケースを海外にも展開するため、1992年にアメリカに進出しました。日本と違って敷地の広いアメリカの家庭に受け入れられるかどうか懸念されましたが、「探す」という不満を解消する商品として高く評価され、このクリア収納ケースは2年も経たないうちにアメリカでも広く普及しました。このアメリカでの成功を足掛かりに、生産拠点と販売拠点を中国、ヨーロッパへと広めています。

―現在は海外にどのくらい販売拠点や工場があるのでしょうか。

2023年9月現在、アメリカ、ヨーロッパ、そして中国、韓国などアジア圏に計16社、18工場を展開しています。基本的には地域ごとに製造・物流・販売のサプライチェーンを構築し、現地で作った製品を現地で販売する「地産地消」のビジネスを行っています。また、中国には当社のマザーファクトリーである大連工場があり、ここでは日本市場向けの製品も製造しています。
社名 設立年月 従業員数 拠点
IRIS KOREA CO., LTD 1988年5月 126名 仁川工場、韓国物流センター
IRIS USA, INC 1992年6月 503名 アリゾナ工場、ウィスコンシン工場、テキサス工場、ペンシルベニア工場
IRIS CHINA GROUP 1996年3月 5,633名 大連7工場、蘇州工場、広州工場、天津工場、その他深セン、上海、杭州に事務所
IRIS OHYAMA EUROPE B.V. 1998年8月 83名 オランダ工場
IRIS OHYAMA FRANCE SAS 2017年4月 107名 フランス工場
IRIS OHYAMA VIETNAM CO., LTD 2018年11月 4名
IRIS OHYAMA TAIWAN CO., LTD 2019年10月 29名
IRIS OHYAMA THAILAND CO., LTD 2020年1月 23名
※アイリスオーヤマの日本国外のグループ会社(従業員数は2023年1月現在)

―1990年代に立て続けに海外拠点を設立後、2010年代後半から再び海外拠点を増やしたのですね。

インタビューに答える森氏
はい、1990年代後半から2000年代にかけてはそれぞれの拠点でプラスチック収納用品やペット用品などを販売・製造し続けていました。その間、日本国内ではLED事業や家電事業が大きな柱として成長しました。加えて、新たな販売チャネルとして当社のECが大きく拡大しています。
その中で、海外の事業においても家電などの販売やEC強化を図るため、2017年にはフランスにヨーロッパ全域の生産・物流の中心拠点「IRIS OHYAMA FRANCE SAS」を設立し、その後も台湾や東南アジア圏へと拠点を広げていきます。
私が社長を務めるタイ法人が立ち上げられたのは2020年。マレーシアやシンガポールなどの周辺国に対しても商品情報を発信していく東南アジアの中核市場と考え、家電販売を中心に力を入れています。タイに自宅がありますが、日本を含め世界各国を飛び回る日々を送っています。

海外でも「アイリスオーヤマ流」でユーザーに寄り添うビジネスを

アイリスオーヤマの海外のECサイト

―多くの企業が海外での事業撤退を進める中、なぜ拡大することができているのでしょうか。

日本のメーカーが海外に進出する際、多くは現地の販売代理店に商品の販売を委託します。それに対して当社では、大手リテーラーや大手ECプラットフォームと直接取引をしています。ここに、他社との大きな違いがあります。
当社は商品の企画・開発、生産だけでなく、生産から物流まで、手がけている「メーカーベンダー」です。国外のほとんどの拠点でも、そのビジネスのモデルを踏襲しているのです。

―現地の消費者のニーズや生活習慣に精通した販売代理店を介したほうが、効率がいいのではないでしょうか?

そう思われるかもしれません。しかし、販売代理店を介して販売することで、リテーラー(小売業者)との接点がなくなってしまい、ユーザーの声が届きにくくなってしまいます。また、販売代理店の意向が強くはたらき、販売代理店の売りたいものを優先せざるを得ない事情が生じることもあります。それは、現地の人が求めているもの、つまりユーザーの声とイコールとは限らないのです。
したがって、言葉の違いや生活習慣の違いという壁があったとしても、リテーラーと直接お付き合いし、現地のユーザーのニーズを直接汲み取ることが重要だと考えています。どんな商品がなぜ売れているのか、どこに不満を持っているのか、といったフィードバックも直接聞けるのがメリットですね。
加えて、当社では国内で2001年からECによるダイレクト販売に着手し、そのノウハウが蓄積されています。ECの場合、ダイレクトにユーザーからのコメントやフィードバックが返ってくるので、このECの基盤がグローバル展開においても大きな強みです。リテーラーやECを通じて得たユーザーの声を、すぐに商品開発に反映することができるのです。

―商品開発だけでなく、品質管理における「アイリスオーヤマ流」を教えてください。

品質管理については、ジャパンクオリティを提案できるよう、国内外問わず日本の品質基準を適用しています。あわせて、国内外の各工場で実施されている生産効率の改善やコストダウンなどの事例を製造部門・物流部門で共有しています。日本で長く培ってきた商品開発や品質管理のナレッジをグローバルでシェアする取り組みを着実に進め、品質管理を行っています。

また、日本の品質管理や開発の担当者にも各国の現場に入ってもらい、チェックしています。これにより、各社の品質が向上すると同時に、日本の開発担当者の方々も海外を見据えたモノ作りに協力を頂けるようになっています。

猛暑の影響により国内外で大ヒットした商品

―1990年代に海外でクリア収納ケースが大ヒットしたと伺いました。最近ヒットした商品を教えてください。

大ヒットと言っても過言ではないのは「サーキュレーター」です。コロナ禍や世界的な猛暑を背景として、ヨーロッパを中心にヒットしました。2021年の1年間で国内外あわせて約500万台を販売し、海外での販売台数は前年比150%を達成しました。
換気に対する意識の高まりと、エアコンとの併用で電気代を抑えながら涼しさを実現できるとあって、SDGsなど環境意識の高いアメリカやヨーロッパのお客様に広く受け入れられたと考えています。
ヨーロッパではもともとサーキュレーターを使う文化がなかったので、現地の大手リテーラーも当初はサーキュレーターが売れるのか懐疑的でした…。しかし、世の中の流れとユーザーニーズをとらえたことで、大手リテーラーにもサーキュレーターを販売いただきました。また、大手ECプラットフォームでもベストセラーを取る商品へと成長しています。

―同じサーキュレーターでも、各国の生活様式や実情に応じてニーズが異なるのでしょうか。

アジア圏をみると、中国では扇風機の文化がまだ根強いですね。そのため、扇風機の一部にサーキュレーターを取り付けた「スタンディングファン」の市場が伸びています。一方、東南アジアでは外の風に当たって涼むのが一般的です。さらに、「大きいほうが風が強い」というイメージが強いため、コンパクトサイズだと風量が足りないのではないかと思われており、サーキュレーターの普及には時間を要するかと思いますが、市場は確実にサーキュレーターにシフトしてきていることを実感しています。
一方で、これからは日本で成功したメイド・イン・ジャパンの商品を海外に展開するだけでなく、現地でローカライズした商品開発にも力を入れていく必要があります。当社が毎週行っている月曜日の新商品会議でも、海外向けの商品提案を行い、商品化しています。

―海外でヒットし、逆輸入された商品はありますか?

今はいろいろと試行錯誤している段階ですが、少しずつヒットは生まれています。例えば、アメリカではどこの家庭にもガレージがあるので、強度の高い収納ケースがよく売れています。その頑丈な収納ケースが日本に逆輸入されて、アウトドア用品として売れているという現象も起こっています。

進化の時を迎えたグローバル展開

アイリスオーヤマ海外オフィスの様子

―各国に進出している中で、課題となっている部分を教えてください。

やはり、文化の違いを相互に理解することだと感じています。私もタイに赴任してから文化の違いを強く感じることがあります。生活についてはもちろん、仕事をする上でも文化の違いは多くあります。海外に進出してからしばらくは、社長を含めた現地法人のスタッフは現地で採用していました。しかし、グローバル展開に注力するようになった10年ほど前からは、日本のアイリスオーヤマの社員が現地法人の指揮を執り、「アイリスオーヤマ流」の製造・販売のノウハウを指導・教育する体制をとっています。お互いの文化を理解し、尊重し合うことでよりローカライズした商品や考えが生まれると思います。
また、現地採用のスタッフを日本に“逆インターン”の形で派遣し、数年間の研修や出張で、日本のスタッフとのコミュニケーションの機会を設けるなどという取り組みも行っています。

―今後のグローバル展開の意気込みを教えてください。

インタビューを受ける森氏
日本においては「アイリスオーヤマ=家電」のイメージもだいぶ定着してきましたが、海外に目を向けるとまだまだ従来の収納用品、ペット用品に依存しています。グローバル事業に再び注力してから数年なので、まだ第一歩を踏み出したばかり。ここから各国の文化やニーズをふまえた「ユーザーイン発想」のヒット商品を数多く出していきたいですね。
ひいては、家電だけでなく食品事業、さらにLEDやロボティクスなどのBtoB事業など、アイリスオーヤマの「ジャパン・ソリューション」を世界へ広げていきたいと考えています。

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