写真:お好み焼きKANSAI 伊勢崎宮子店 様
未曽有のパンデミックに加え、ロシアのウクライナ侵攻の影響によって原材料、エネルギー、設備など様々な供給コストが上昇、しかもその影響は長期的なものになる恐れが出てきました。
「コロナ禍で未来が加速した」「10年かかる変化が2年で」と多方面で言われておりましたが、もはやこれから先の未来は「デジタル化」「セルフオーダー」「キャッシュレス」などという戦術論だけでは解決できない産業自体の“構造改革”を必要としているものかもしれません。
外食産業が大きく発展した1970年代から90年代。
好景気を背景に高まる需要に対して、チェーン化、マニュアル化、セントラルキッチンといった当時は新しかった店舗運営の考え方は、「売れる店舗」をスピーディに店舗数拡大していくために適していました。
当時は若くて安価な労働力(≒アルバイト、パート)が潤沢に市場に存在し、仮に人が辞めても“代わりの人はたくさんいる”という経営環境でした。
結果、当時の、特にチェーン店の組織は図のような「文鎮型」に必然的になり、またそれが企業戦略上、非常に有効であったと考えられます。
少数の経営本部に対し、画一的で機能的な現場組織が並列に並ぶ文鎮型組織は、スタッフの戦力化やQSCの均質化といった面でスピードがあり、拡大に有利に働きました。
―文鎮型組織で活動を拡大していくことが難しくなる
ところが、これからの経営環境下では、文鎮型組織による企業活動の拡大は難しくなっていくのではないでしょうか?
コロナ禍によって消費者の食行動は変化し、イートインが7割、飲酒業態の市場が減少、また外食中食内食のボーダレス化により消費者の食体験が多様化したことも影響が大きい。
一方、ウクライナ情勢により引き起こされた世界的な原材料・エネルギーの生産・供給力低下、サプライチェーンの破たんは、外食産業への「供給」の面でコストを大きく引き上げることとなりました。
さらに、労働人口の減少による人材不足、人件費の高騰が深刻化し、コロナ禍によるアルバイト・パートの“外食離れ”も影響は少なくないでしょう。
さらに、消費価値観の変化によるニーズ・ウォンツの変化で、飲食店は新たな「価値」の提供をより一層求められていくことになります。
このように、「需要」が減少し、「供給」のコストが上昇し、消費者ニーズ・ウォンツが変化といった大きな“構造的な”変化は、「現場の業務改善」のレベルではなく、産業の「構造」から見直し、イノベーションを進めていく必要があると考えられます。
―文鎮型組織が抱えるキャリアスタック問題
キャリアを重ねるごとに、現場のオペレーション→マネジメント→経営と、求められるスキル・能力が変化していきますが、研修・トレーニングも機会が充分ではなく、キャリアがスタックしてしまう「キャリアスタック問題」を抱える外食企業は少なくない。
―35歳限界説?
また多くの企業で、収入が上がる=管理職、経営幹部職へのキャリアアップであり、キャリアスタック問題は人材の定着に影響が大きい。
外食産業は他の産業との比較において給与が相対的に低いとされ、30歳代半ばを迎え、ライフステージが変化していくころにキャリアスタックが起きれば、それが「離脱」(転職や独立)のトリガーとなる可能性が高いのです。
―「現状、マンパワーで何とかなっている」という店ほど危険?
若くて安価な労働力が潤沢であった時代は、文鎮型組織は合理性があり、維持することが可能でした。
しかしながら、これからの経営環境下において重要なのは、「給与」や「基本的な労働環境」という基礎的な価値だけでなく、その店で働くことによる「成長感」や「自己肯定感」「自己効力感」を高めることにあります。
―EX(従業員体験価値)向上のために何ができるか?
成長感や自己効力感は何によってもたらされるのでしょうか?
私は新たな知識スキルの「習得」や、顧客・仲間からの「感謝」、自らの創意工夫の「認知や承認」、こういったものが感じられたときに、人はその職場を愛せるのだと思います。
労働集約的な仕事はできるだけテクノロジーによって軽減し、「人でこそやるべき仕事に集中できる」環境を作ることが、EX向上にの考え方として大切です。
「現状、マンパワーで何とかなっている」という店ほど、テクノロジーへの投資の優先順位が下がってしまうものかもしれません。しかしながら、いざ人材が調達できない課題が顕在化してからは遅く、今のうちから将来的な人材不足に備えた店づくり、組織づくりへの準備が必要なのです。
※EX(従業員体験価値)について詳しくはこちら
飲食コラム Vol.01 深刻化する人材不足を飲食DXが変える未来
~「人とロボットのチームワーク」による顧客、従業員にとっての価値向上~
https://www.irisohyama.co.jp/b2b/robotics/column/servingrobot/case001.html
―DXの本来の意味はデジタル化ではなく「経営革新」
“DX=Digital Transformation”の本来の意味は「デジタル技術による経営革新」にあります。
テクノロジー活用による省人化、合理化だけでなく、従業員にとっての価値のある組織に改革をしてこそ“DX”と言えるのです。
―多様な働き方が共感・協働する
管理職へ昇進する以外のスペシャリストとしてのキャリアや、スポット・短時間で働ける働き方、企画を考え、皆でディスカッションするといった創造的な仕事の機会など、多様で創造的な、従業員にとって価値を実現できる組織が、これからのサービス産業の目指すべき組織です。
本部と店舗が物理的に離れてしまうがゆえに“カタチとしては”文鎮型にはなりますが、組織の機能と中身は20世紀の文鎮型組織とは全く異なります。
―機械はその一員
そして機械=テクノロジーは“チームの一員”として協働していく存在です。
配膳ロボットを効果的に活用している「焼肉きんぐ」のホールスタッフは、「♪配膳ロボットは、仲間の一人として欠かせない存在です」と話しています。新たな“人と機械のチームワーク”という考え方として解釈できるでしょう。
―「人でこそやるべき業務」に集中し、「知識スキルの習得」に時間を使える組織
ロボット、バックヤードシステム、キャッシュレス、セルフオーダーなど、店によって選択するテクノロジーは異なりますが、労働集約的な業務をテクノロジーが協働・代替する分、人は人でこそやるべき接客業務に集中でき、自身の知識・スキル、能力を高める活動に時間を使う、外食産業が目指す「新・サービス産業モデル」はこうした姿になると考えます。
経営環境の大きな変化から、新たな考え方の店舗運営モデルが数々登場してきています。
券売機(タッチパネル式など近年進化した新しい機器)テーブルタップ(飲み放題でドリンクの追加発注が存在しない)セルフオーダー、スマホオーダー(オーダーテイク業務を人がやらない)
これらの取り組みは、オーダーテイク業務、追加ドリンクのオーダーを含めて、「♪すいませ~ん」という声がお客様からは上がらないオペレーションとなります。
もはや数多くの飲食店で採用されていますが、ホールスタッフの人数が少なくて済むという成果が上がっています。
これらを採用する店では、オーダーテイク業務を人が担うことに「顧客価値」は発生しないという考え方に基づいた取り組みといえます。
・ファストレーン、配膳ロボット
回転すし、食べ放題焼肉店などで、こちらも多くの店がすでに採用しています。
業態特性上、皿数が多いため、省人化効果は大きく、ほとんどの店がセルフオーダーシステムを併用しています。
ホールで「オーダーテイク」「料理を運ぶ」という業務を“機械”が行うことによる顧客価値棄損は起こらない、という考え方による取り組みになります。
人件費を大きく削減できた分、食材原価を高めたり、お客様の“おせっかい”専任担当を配置したりするなど、別の顧客価値を高めるための取り組みに経営資源を再配していることが特徴です。
廻鮮江戸前すし魚魚丸のファストレーン
配膳ロボットは配膳、バッシング両方で活用が進む
―「店内自販機」という新しい取り組み
最近オープンした新潟県の肉業態「焼肉マミレ」の意欲的な取り組みですが、飲酒志向の高いお客様をターゲットとしている同店では、飲み放題はセルフオーダーから注文し、それ以外の単品のドリンクオーダーは「自動販売機」で買っていただくという斬新なもの。
丁寧な接客をお客様が必要・期待としていない飲食店においては、むしろ顧客本位であり、また新たなスタイルのカジュアルな体験価値もあるのかもしれません。
人的コストを“敢えて掛けない”斬新な運営スタイル
「マンパワーで何とかなっている」。20世紀型で上手くいっている飲食店も、この先の経営環境を見据えたチャレンジも必要となってくるでしょう。
ミレニアル世代、Z世代がこの先の時代の消費の主役世代となっていきます。
彼らは20世紀の外食を謳歌してきた先輩たちとは違った価値観を持っています。
「需要」減少×「供給」コスト増加×消費者の価値観変化というこれからの競争環境に向けて、20世紀の成功体験から脱却し、新たなチャレンジをすることが、外食産業の次の成長ステージを作っていくのではないでしょうか?
導入コンサルティングのご相談受付中!
あなたのニーズに合った配膳・運搬ロボットの
活用方法をご提案いたします。
022-253-7095
〈受付時間〉平日9:00~17:00(夏季休業、年末年始期間を除く)