アイリスLED照明インフォメーション vol.17

  • フルカラー・ライティングで
    ビジネスや暮らしが変わる。

  • 海宝 幸一 様 株式会社 日建設計
    エンジニアリング部門 設計設備グループ
    シニアエキスパート 光環境エンジニア
    海宝 幸一 様

LED照明は、人の心理・生理を整えるなど新たな付加価値を与える存在として、活用方法が注目され始めています。前回に引き続き、数々の有名施設の照明を手掛けてきた、株式会社 日建設計 光環境エンジニアの海宝 幸一 様にお話を伺います。

近い将来、LED照明で太陽光を再現できるように

例えば、LED照明のフルカラー・ライティングでパリの夕暮れと同じ光を再現し、心が落ち着く空間を作り出すといったように、光の作用で「人の心理・生理」に良い効果をもたらす。これがLED照明の新たな付加価値です。
実際に、同じ光の波長を作れるかはLED照明の今後の課題です。従来のRGB3波長の光だけでは、パリの夕暮れと同じ波長を表現するのはやはり難しいのです。波長領域を広げて5素子、8素子の光を使えば正確に光を再現できるようになり、おそらく太陽光も再現できます。これが実現・普及すると世の中も間違いなく変わるでしょう。極端な話、大きな窓から太陽光を取り込む必要がなくなり、建築の形も大きく変わります。ここ数年で大きく変わる可能性があります。

普及への課題はコストと正確な信号制御

5素子を使ったLED照明の光はとてもきれいなのですが、課題は高額なコストです。普及が進んで量産されれば価格はもっと下がり、一気に普及が進むでしょう。また、LEDが正確にスペクトルを再現できるか、RGBの信号をうまく制御できるか、センサーがスペクトルを正確に計測しデータベースにきちんと蓄積できるか。以上のテーマがクリアできれば5素子、8素子を使ったフルカラー・ライティングはさらに普及するでしょう。これからの照明は(大前提として明視は重要ですが)、適切なデータを蓄積し、人間に良い効果をもたらす環境を作る。そのためのツールとして光が使われる。このような方向に変わっていくことでしょう。

ハードが変わればソフトも変わる

実は、いま劇場の照明もかなり変わってきています。ハードの進歩によってソフトも変わるのです。昔だったら光の色を調整するフィルターをたくさん使い照明も何十台と必要でした。これからはフルカラー対応のLED照明1台で瞬時に色を変えられます。これを生かした照明演出の手法がどんどん出てくるはずです。スポーツ照明も、スタジアムでは白の光がメインですが、フルカラー・ライティングの普及が進めば劇場のような照明演出で、お客様の心理に効果をもたらすような光の演出が可能になります。正確にコントロールできるようになれば、壁やグラウンドに文字などを投影できるようになるでしょう。スタジアムにおいて、費用よりも演出の効果が重視されるようになれば、照明改修の投資の見方が変わってくるはずです。

  • ■フルカラー・ライティングとは

    光の3原色(R=レッド、G=グリーン、B=ブルー)を組み合わせて光の色を自在に操るライティング方法。色の効果によって人の心理を落ち着かせたり、高揚させたりといった影響を与えます。
    [光の三原色]
     R =レッド
     G=グリーン
     B=ブルー
    RGB3素子の光で表現しきれない色域は色を表現するLED素子を増やすことで目に見える色彩に近づけることができる。
  • ■フルカラー・ライティング活用例

    求める心理状態やシチュエーションにあわせてデータベースから最適な風景の光データを抽出。その風景の光環境をフルカラー・ライティングで再現することで、あたかもその風景に身を置いた時のような心理状態に。

メンタルに与える効果はコストの比ではない

ヨーロッパでは、オフィスにフルカラー・ライティングを導入した結果、電気代は上がりましたが、病気欠勤者が減ったという実験結果もあるようですね。

やはりメンタルな部分も含めて健康的な状態で仕事をしてもらわないと、損害がとても大きいと思います。特に最近はメンタルの問題を抱える方が多い。照明でメンタルを崩す人が減るのであれば照明器具の費用や電気代は問題にならない価値があります。例えば、商社では1人の働く人が1日に動かすお金が数十億なのに、「1年間節電して1人当り1000円節電できました。でも暗い机で仕事をしたせいでメンタルが病みました」では本末転倒になってしまいますよね。
最近、頭痛クリニックという分野が確立されてきています。3人に1人が頭痛持ちといわれる時代で、多くの患者さんが来院されるそうです。そこのお医者さんから聞いた話では、頭痛持ちの患者さんは光を特に嫌がるそうで、診察中に「照明の光が我慢できません」と言われることが多かったそうです。頭痛持ちの人は敏感なのです。その先生がフルカラー・ライティングを導入していろいろな色の光を試したところ、診察中の患者さんの頭痛を最も緩和した光の色はグリーンだったそうです。
「これは不快だ、苦痛だ」といろいろなことを訴える人が増えています。あくまで推論ですが、影響が現れやすい敏感な方々の知見は、さまざまな場所で活用できるのではないでしょうか。こうしたさまざまな知見をまとめてデータベース化しユーザーにサービスとして提供する。これがこれからの照明メーカーに必要なことだと思います。

ある頭痛専門のクリニックでは、光に敏感な患者をリラックスさせるためフルカラー・ライティングを導入。

ある頭痛専門クリニックでは、診察中にフルカラー・ライティングを試したところ、多くの患者さまがグリーンの光で頭痛が緩和できたとの結果が。同じ光環境では健常者にも良い影響を及ぼす可能性がある。

フルカラー・ライティング
普及までの課題

  • 現状はフルカラーの製品価格が高額。
  • 光のスペクトルのデータや世の中のさまざまな知見をいかに収集するか。
  • 照明メーカー、建材メーカー、施工会社など組織の垣根を超えたものづくり。
  • 構築したデータベースをもとに、お客様にいかにプレゼンテーションし、還元するのか。

最新のデータベースで最善の使い方をしてもらう

単純に物を売る時代から、空間を作って良い効果を与える、こうした企業姿勢が必要となりますね。

売って終わりではなく、ネットにつないで常に最新の知見でユーザーに最も良い使い方をしてもらう。いまやどの分野もこうしたビジネスの仕方が増えています。照明もこうした流れに向かうでしょう。ただし、どのように測定するのかが課題です。私もよく地中海の明るい光、パリの夕暮れの光の話をしますが、ではそのスペクトルの数値を持っているのか?と言われると、持っていないので返答に困ります。本当は地中海もパリも実際に行って数値を測定したいのですが、なかなかそうはいきません(笑)。

日本とは全く異なるヨーロッパの照明メーカー

ヨーロッパでは照明に対する考え方も日本とは全く違いますね。

ヨーロッパの照明メーカーに行くと、こんなことまで研究しているの?ということまで研究しています。そういう会社はやはり成長しています。お客様との関わり方も日本とは全く異なり、ヨーロッパの照明メーカーは施設の構想からすでにプロジェクトに参加しています。「この施設に来るお客様はこのような環境を求めている。だから照明はこうしましょう」というように、持っているさまざまな知見を生かしてアドバイスをしています。今後、日本においても照明関連のサプライヤーに同様のスタンスが求められるのではないでしょうか。

照明の未来に乗り越えるべき課題とは

最後に、これまでお話しいただいた照明を実現するための課題を教えてください。

まず、フルカラーのコストが高いこと。これは普及すれば解決できます。日本メーカーがデファクトスタンダードをとるためには、世界に進出しなければなりません。ヨーロッパのメーカーは世界市場を相手にすることで、最初からある程度の物量を前提として開発ができることが強みになっています。物量を多くしてコストを削減するにはグローバルで戦う必要があるのです。
また、日本では照明メーカー、建材メーカー、施工会社、ゼネコンといった複数の組織が関係するため、「建材に照明を組み込みたい。天井パネルに照明を組み込みたい」という時に責任の所在が問題になります。垣根を超えたものづくりができるように責任の所在を明確にしなければなりません。

さまざまな知見をつなぎ新たな可能性が生まれる

最後は、いかにソフトをお客様にプレゼンテーションできるか、です。そのためには、データベースの構築が課題となります。眼科や心理学、生理学の先生と協力して研究を進め、知見を増やす必要があります。
ある学会で「光の色と心理」という発表がありました。乳児の保育器を赤い光で照らしたところ、医師の観察中でも赤ちゃんの眠りに影響が無くなったという内容です。理由は、母胎の中と似た光の色だからとのことで、すでに一部の病院では使われているそうです。こうした例は山ほどあるでしょう。
人間がどういう光でどういう反応をするのか、さまざまなところにいろんな知見が転がっています。これをつないでいくことで、新たなソリューションの可能性が広がっていくことでしょう。

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