Vol.19
56年間で培った経営哲学を一冊に
『コロナショックを境に世界は大転換します。巨大隕石によりマンモスが淘汰された時のような著しい環境変化に対し、経営者は「対応する」のではなく「自ら変革する」ことが求められます。』―本書では、父親が経営していたプラスチック加工所を父の死に伴い19歳で引き継いだ著者が、56年間で「グループ売上7000億円の生活提案型企業」に成長させる過程で体得した経営哲学を「15の選択」で会社は根本から変わるとして、経営者や起業家に向けて解説します。経営に携わらない一社会人に対しても、自己改革や未来のあるべき姿について構想することの重要さを提言した一冊です。
製品開発と市場創造を仕組み化する
オイルショックで倒産寸前まで追い込まれた過去の苦い経験を経て、作り手の事情を排除し、特定のヒット製品に依存することなくユーザーの目線で製品開発と価格決定をしないと、いくら小売店の購買担当者に気に入られたとしても店頭から消えてしまうと警鐘を鳴らします。「ユーザーの立場で物事を考える」だけではなく、企業として実践し続けるためには、誰もが行動に移せる『仕組み』が必要と説きます。本書のなかでは、アイリスオーヤマの全部署が毎週集まり情報と決裁を見える化した製品開発会議「プレゼン会議」や、問屋の機能を持った製造業「メーカーベンダー」への転換によるマーケティング力強化について紹介しています。
また、KP(I 重要業績評価指標)にはイノベーションを高める指標を設定することが重要とし、アイリスオーヤマでは新製品の比率を50%以上、経常利益の50%を設備投資へ、売上高の4%を研究開発費に充てるなどの取り組みも紹介。常に新しい価値を顧客に提供できる仕組みを維持していることが、外的環境の変化に耐える力の蓄積につながっていると伝えています。
「選択と分散」が将来の効率を上げていく
続く章は『ピンチが必ずチャンスになる経営』について。さまざまな製品の需要が常に増減を繰り返す状況下で、何らかの環境変化をきっかけに急激に需要が増えたケースとして、今年のコロナショックを受けたマスクの大増産を紹介しています。『稼働率よりも瞬発力を優先する仕組み』として、平常時は各工場の稼働を70%程度とし余力を残すことで、予測不能な環境変化が起きてもすぐに空きスペースに生産ラインを増設できるとしています。また、1つの製品や技術・市場に過度に集中することなく、家電、LED照明、収納用品、園芸・ペット用品、日用品・オフィス用品、食品・飲料など幅広い製品を手掛けることで、いざ変化が起きたならば、その変化で需要が高まる市場に即座に注力でき、変化に対して瞬発的に対応することで企業は大きな利益を出すことができるとしています。
徹底的な情報共有
著者は人材教育について「社員にとっていい会社」をつくらないと組織は動かないため、手取り足取り育て、目線を引き上げようとする行為自体が重要と訴えます。そのための仕組みとして上司、同僚、部下が一人を評価する「360度評価」を人事評価の基準に加えていることや、全部門の幹部と重要戦略を共有することで全体最適で判断する人材を育てる「幹部研修会」、各社員が日々の業務の中で得た情報に基づく意思を発信し相互共有できる「ICジャーナル」を紹介しています。物事を自分の立場ではなく、相手の立場で考える、この「想像する」ということが、マネジメントの根幹を成すものだと説きます。
これからは「現地生産・現地販売」
また、グローバル展開について、新型コロナを機にサプライチェーンの見直しが始まっており、ニューノーマル時代の経営は「現地生産・現地販売」の体制をどこまで整えられるかが勝負であると述べています。マスクの例では、中国で大量生産して輸出する効率的なものよりも「安心・安全なのは自国生産」であると各国が判断し、ここでも「選択と分散」が加速していること伝えています。
誰のために、どんな事業をするのか
最後の章では、インターネットでモノを買う習慣が急速に浸透している情勢は、業種・業界を気にせず参入でき、人材確保の面においても、地方の企業にとって歓迎すべきだと伝えています。また、アイリスグループのネット通販事業が成功している要因は物流力にあるとし、消費地に近い場所で分散生産し、配送することでビジネスチャンスを確実に捉えられると解説しています。
著者は「何を扱う会社か」ではなく「何が目的の会社か」を考え、好不況の波に左右されない市場創造型のビジネスモデルを確立すべく『生活者のために、その不満を解消する事業を展開する』に辿り着いたとし、読者に対しどのような経営が有意義なのかを考え抜く必要性を促しています。
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